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帝国の第六皇女(パワー)3

 対魔戦争と戦後の混乱で遅れたアデルの婚姻が急ピッチで進められている。第六皇女ともなると、おそらく有力伯爵家との政治的な繋がりを強めるために嫁がされる、あるいは、まるで武勲の褒美のように軍上層部の独身将校に嫁がされるかだ。


 いずれにせよ、アデル本人にとっては面白いものではない。


 アデルが望むのは、騎士団の一員としての自分なのだ。


 幼い頃から鍛え続けてきた肉体は、鋼のフィジカルと化している。


 宮廷魔導師は、ごくりと固唾を呑む。


(こ、こ、殺される……っ、筋肉皇女に殺される……っ!)


 筋肉皇女。


 それが、アデルの二つ名である。


 もちろんその二つ名は、本人のいないところで使われているのだが。


 鍛え上げた肉体は着痩せする。


 ドレス姿のアデルからは想像できないが、彼女は正直──脱いだら凄い。


 宮廷魔導師のおびえを感じ取ったのか、アデルは低く呟く。


「……御安心なさい。ロマンシア帝国の直営墓地が新しく整備されているそうですから。竜車の手配、お願いいたしますね」


「は、は、はいぃっ!」


 逃げるように部屋から転げ出ていく宮廷魔導師の背中を、磨かれぬままに曇った水晶玉のような目で見つめる。


 暴力姫騎士、筋肉皇女。


 自分が揶揄されていることは知っている。


 それでも、近くにリィト・リカルトがいるのなら耐えられた。


 アデルが心から尊敬する彼だけは、アデルを女ながらに騎士の真似事をしていると馬鹿にすることはなかったから。


「……はぁ」


 思わず、深い溜息。


 帝国からの追放となれば、南下して下大陸へ入ったと考えるのが順当だろう。リィトほどの魔導師であれば、海を渡ったと考えることもできるが──リィトは前々から、『誰もいない広大な土地でのんびり植物を育てたい』みたいなことを漏らしていた。


 ならば、追いかけるほかはない。


「……リィト様」


 追放なんて許せない。


 もし、リィトが望んで出ていったのだとしても、説得しなくては。彼はロマンシア帝国になくてはならない存在だ。


 少なくとも、さよならも言えずに別れるのは嫌だ。


 アデルは立ち上がり、外出用の軍服に袖を通した。


 竜車の支度ができしだい、出発しよう。


「……その前に」


 くぅ、と切ない音を立てる腹を押える。



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