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住民を受け入れようと思う。1

 東の山の奥に、集落があるとは思わなかった。


 花人族の隠れ里。


 山奥にある、樹齢何年だったか想像することすら不敬なかんじの枯れ巨木。その木の虚や、そんじょそこらの若木の幹ほどもある枝に設えたツリーハウスが花人族の集落だった。


 巨木はすでに寿命を終えて久しいようだけれど、倒れることなく腐り落ちることなく花人族の暮らしを支えていた。


 フラウの家で、リィトは彼女の話を聞いていた。


 かなり辛抱強く、簡単な言葉で質問を繰り返す。


「フラウ、つまり君たちはこの春ベリーの実を使った水薬を常飲しているんだね。きみたち、春ベリー、飲む?」


「ぁい」


「でも、一昨年から春ベリーが不作になってしまっている。しかも、今シーズンは苗を植えるそばから枯れてしまうと……これ、全部、枯れる?」


「ぁいっ」


「それで、春ベリーの水薬……僕らがポーションと呼んでいるものを飲んでいないと、君たち花人族は老人や子どもから弱って死んでしまう」


「ぁいっ!」


 集落の片隅で、フラウは涙ながらにリィトの事情聴取に答えていた。


(ふむ、水不足がかなり深刻みたいだ。山は潤っているから、地下水かなにかが通っているのかなぁ……)


 とにかく雨が降らない。


 不自由な言葉でフラウが伝えてくれた事情は、思ったより深刻そうだ。


(おそらくは春ベリーの植物治癒の効能でこの劣悪な環境で発生する病気を押さえ込んでいたんだな。でも、春ベリーが先に参ってしまった……)


 集落には病人が大勢いた。


 全員、ぐったりとして元気がない。


 この村の長の娘であるフラウは、どうにか春ベリーを栽培しようと必死に駆け回っているらしい。そこに現れたリィトが見事な畑を耕したため、こっそり忍び込んで春ベリーを植えさせてもらったというわけらしい。


「質問。マスターは彼らを助けるのですか」


「ああ、そのつもりだよ」


 ナビの声に、リィトは頷く。


 人助けという気持ちもある。でも、それ以上に花人族への興味が尽きない。


 あの頭に生えてる葉っぱ、あれはどうなっているんだろう?


「えぇっと、君たち!」


「──っ!」


 基本的に無口な花人族。


 フラウが片言で言葉を喋ることができるけれど、他の人たちは喋れないらしい。そのかわり、とても表情豊かだ。


「今から、うちの畑に春ベリーを植えよう」


「──っ!?」


「僕は地下水をくみ上げられる。土地が潤って鉄分もしっかり補えれば、あとは僕の〈生命促進〉でどうにかなると」


「ぁ、ほ、んと?」


「うん。でも、水まきや土地の治療には人手が必要で──」


 ふいに、フラウがすくっと立ち上がった。


 可愛い頬を興奮で赤く染めて、ぐっと両手で拳を握っている。


 そして、リィトにはわからない身振り手振りでリィトたちを遠巻きに眺めていた花人族たちに、何かを伝えているようだ。


 リィトの語ったことを伝えてくれている。


 そして、たぶん、リィトに協力をしようと説得をしているのだ。


「……初対面なのに、信じてくれるんだ」


 英雄の肩書きもない、ただのリィトなのに。


 肩書きではなく、自分を見てくれる相手なんて久しぶりだ。


 ほどなくして、フラウはまだ動ける花人族たちと一緒にリィトのもとに戻ってきた。


「……これだけの花人族が手伝ってくれるなら、かならずあの畑はうまくいくよ」


「……ほ、んと?」


「ああ。なんていったって、花人族は大地と共に生きる種族なんだろ。きっと僕なんかよりも、ずっと土いじりが上手いはず」


 フラウはぐっと背筋を伸ばして頷いた。


 春ベリーにはもうひとつ花言葉がある。


 ──「不名誉を覆す気高さ」。



 ◆



 三日後。


 リィトは村を挙げての大歓迎をうけていた。


「あ、あの……こんなご馳走食べきれないんですけど」


「アリガト! アリガト!」


「この王冠もちょっと……」


「アリガト! アリガト!」


「あと年頃らしき娘さんたちを侍らせるのもやめてください、その、あなたがた全体的に小さいので犯罪感が出てしまっているので」


「アリガト! アリガト!」


「……だめだ、ラチがあかない」


 この集落で人族(ニュート)の言葉があるていど理解できるのは、フラウだけらしい。フラウが教えた「アリガト!」をひたすら繰り返してダンシングナイトを過ごしている花人族たちは、みなキラキラした尊敬の眼差しでリィトを見つめていた。


 頭を抱えて、状況を整理する。


 王か教祖か救世主かというくらいに歓待されているリィト。


 その原因は、蘇らせた春ベリーだった。



 ベンリ草で作った水道で地下水をくみ上げた。



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