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自由を謳歌しようと思う~ギルド自治区ガルトランド~4

「こ、このチーズとっても美味しいですっ!」


「それはよかったわ。あなたも、頑張ってね。まだまだ若いんだから」


 女将はそう言って片目をつぶって見せると、他のテーブルに注文を取りに行った。女将が行く先々で笑い声が起きる。


 うん、本当にいい店だ。


(それにしても、そうか……二つ名しか情報が流れてないのか……)


 さきほどの女将の反応。


 どうやら、リィト・リカルトの名には本当に覚えがなさそうだ。


 ギルド自治区ガルトランドの〈壁〉はやはり高いようだ。


 上大陸で大量発生するモンスターから領土を守るために築いた壁のおかげで、モンスターもリィトの噂もここまでは届いていなかったらしい。


(うん、これはいいぞ)


 リィトは酔い覚まし、というか興奮を冷ますためにビールのおかわりではなくフルーツジュースを注文した。


 青臭くて味の薄いジュースを一気に飲み干して、リィトは思わずニンマリと笑ってしまう。


 運送ギルド〈ねずみの隊列〉に所属するメルですら、リィトが名乗ったときに少しも驚いたりはしていなかった。


(やっぱりだ……自治区までは僕の名前は届いてない……!)


 つまり。


 ここでは本当に、自由なのだ。




 酒場をあとにしたリィトは、予約した宿屋に向かうことにした。


 おつまみは、やはり種類も少なく、味もしょっぱいか薄いかのどちらかだったけれど、久々のひとり酒は楽しかった。


「はぁ、自由っていいな~。無職って素敵だ~」


 青い月明かりが降り注ぐ夜道に風が吹いて気持ちがいい。


 ポケットから例の物を取り出す。


 元職場から唯一持ち出した、青く美しい光を放つ、謎の種子だ。


「この種子、なんだろうなぁ……ふふふ、育てるのが楽しみだなぁ」


 思わず頬が緩む。


 どんな環境が適している植物かは知らないが、この大きさの種子であればそこそこの巨木に育つはず。


 リィトが新天地にここを選んだ理由は、それだ。


「さて、明日は忙しいぞ。農業ギルドと土地管理局に行って。あとは買い出しと……って、んん?」


 宿までは、あと少し歩けば到着する。


 けれど、見つけてしまったのだ。


 路地裏。小さな人影。それを取り囲む、どう見てもガラの悪い連中。


「あー……」


 カツアゲだ。


 あるいは、リンチ。



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