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世界樹ってマジですか7

「もしも水精霊の神殿に、まだ水精霊がいたとしたら、とんでもない発見です! リィト様の素晴らしさを、宮廷魔導師どもに知らしめなくては!」


「いや、本当にやめて! そういうの!」


 訂正。


 まだ、アデルは諦めてはいなかった。



 月明かりが青い。


 トーゲン村のみなが寝静まった頃、リィトの小屋の近くに植えられた苗が淡く光りだす。


 月明かりのように青く。


 夜明けのように藍色に。


 朝焼けのように橙色に。


 ──リィトは、夢を見た。


 まだ花人族たちが起き出してきてもいない、夜明け前。


 世界がもっとも昏い時間、トーゲン村に一人の少女が立っている。


 銀色に輝く髪。


 未発達の細い手足。


 少女というには、まだ幼すぎるくらいの女の子だ。


「なまえを」


 少女は、鈴の鳴るような声でリィトに問いかける。


 その表情は、モヤがかかったように見えない。


「なまえを、おしえて」


 リィト・リカルト。


 リィトは、そう答えた。


 少女はゆっくりと、かぶりをふる。


「なまえ」


 はた、と気がつく。


 少女は、少女自身の名を問うている。


「……まだ、わからない」


 リィトは答える。


 何が「まだ」なのかは自分でもわからないが、少なくとも適当に少女に名を与えてはいけないことはわかった。


「…………」


 少女はじっと押し黙ってしまう。


 長く短い時間が経って、少女はふたたび口を開いた。


「おおきくなったら、なまえをくれる?」


 リィトはその言葉に、あいまいに頷いて──。




 ……──びくん、と。


 リィトはベッドの上で、飛び起きた。


「……夢?」


 なんだったんだ、今の夢は。


 顔が見えないのに、超絶美少女であることが確信できるあの少女。


 いったい、なんなんだ。


「なまえをおしえて、って……ゲームのチュートリアルじゃないんだから」


 今はリィトの中で休眠モードにあるナビが緊急起動していないところを見ると、どうやら危ない夢ではないようだけれど。


「……もう一眠りするか」


 毛布にくるまるリィト。


 明日からは、色々と忙しい。


 水精霊の神殿。少しだって休んでいるのが惜しいくらいに、楽しそうな案件だ。今は、ぐっすり眠って体力を付けておきたい。


 窓からは、月明かりが差し込んでいる……わけではない。



 月に叢雲、花に風。


 そんな雅な諺のとおり、月は分厚い雲に隠れてしまっている。


 窓から差し込んでいるのは、煌々とした満月の月明かりではない。


 ……謎の苗Xが放つ、光だった。


 種子の頃から見せていた、淡い光などではなく。


 満月の明かりと見まごうばかりの、強い光。



「……りぃと・りかると」



 苗木の前に、一瞬。


 銀髪の少女が現れて、夜闇にかき消えるように姿を消した。



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