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5 いざ行かん王宮舞踏会

※フランツ視点

 王宮の舞踏会当日、すっかり身支度を済ませたルイ―セの元にフランツが訪れた。


「どうせ同じ場所に向かうんだから、一緒に馬車で行こうと思って迎えに来たぞ」


 軽やかな足取りで現れたフランツは、ルイ―セを見た瞬間、唖然とした様子で固まった。


「やあ、フランツわざわざお迎えをありがとう。久しぶりだけど元気にしていたかい?」


 そう言って微笑む彼女はカールと瓜二つで、とても女性が男性のフリをしているようには見えない。どこからどう見てもアビ・ア・ラ・フランセーズを上品に着こなしている貴族令息だった。


「…ルイ―セ…だよな?驚いたぜ。…本当にカールがいるのかと思った」


 驚きに、掠れた声を出すフランツにニッコリと微笑むと、ルイ―セはリボンで纏めた髪をスルリと撫で下ろした。


「ハハハ…今日の私はカール・ティーセルだからね。王宮で名前を呼び間違えたりしないでくれよ?」

「ああ…気を付けるよ。まあ、今日の舞踏会さえ乗り切れば、お前は直ぐにでもティーセル領へ帰れるんだし、大丈夫だろう」

「そうだね。数年後の王立学術院入学は、カール兄様には免除試験を受けてもらう予定だ。今回の舞踏会さえしのげれば、私が学術院に入学した時、誰にも入れ替わっていたとは気づかれないだろうしね」

「よし、じゃあ王宮へ向かうか。…くれぐれも国王陛下への挨拶だけはミスするなよ」

「フフフ任せてくれ。準備は万端だからね」


 そっと手を差し出すと、ルイ―セは自然と手を合わせる。微笑み合うと二人は王宮へと向かう馬車に乗り込んだ。



 真っ白い大理石の敷き詰められた前庭で馬車を下りると、煌々とした光が幻想的な王宮の姿を浮かび上がらせている。

 正面玄関にはアーデルハイド王国を象徴する獅子とバラの花が王宮を支える円柱に彫刻されているのが見え、圧倒されるほどの白亜の城が二人の若者の到着を待ち構えているように見えた。

 既に会場となる大広間には老若男女の貴族達が溢れんばかりに参集している。


 今回が社交界デビュタントなのか、デビューを象徴する白いバラを髪に飾り緊張した面持ちで親の傍に立つご令嬢も少なくない。ダンスの順番まで親に管理されている様子で、オドオドしている様は初々しく二人の目に移った。


「カールも王宮は初めて来るだろう?感想はどうだい?」

「うーん…。まあ、かなり人が多いなとは思うけれど。逆にこれだけいれば目立たないから安心かな。ボロが出づらいだろう?」


 そう言いながら平然とテーブルから果実水を手に取るルイ―セを、フランツは“判っていないな、コイツ”と思いながら盗み見る。

 先ほどから、明らかにルイ―セに見惚れているご令嬢が何人もいるのだ。

 デビュタントした女性ばかりでは無く、貴族令息も見たことの無い彼女の姿をチラチラと盗み見ている。…もしルイ―セがドレスを着て参加したらその場で一目惚れした貴族から縁談が舞い込んだ危険も高い。これは男装で却って助かったのかもしれないな…。


 自分勝手にフランツがそんなことを考えていると、ファンファーレが鳴り響き、王家の入場が始まった。


 国王両陛下の隣には王太子殿下のディミトリ・アーデルハイトが立っている。

 美しい金髪に碧眼の美貌の王子は14歳だ。ロイヤルブルーで縞模様の重厚感あるアンカット・ベルベットのコートを身に纏い、肩には金糸銀糸の肩章と飾緒が飾られている。胸に付けた階級章が、彼が正当な王太子であることを証明していた。

 彼も今回が社交界デビューとなるため、会場中のご令嬢が彼とファーストダンスを踊ろうと王太子殿下に熱い視線を送っているが、彼自身は興味が無いのかその様子を、表情一つ変えないまま見下ろしている。


 その隣に立つのが、未来の宰相候補と言われているグロスター伯爵の息子、シャルル・グロスター。とても14歳とは思えない落ち着きぶりだが、彼もまた今回が社交界デビューとなる。

 シルバーグレーの髪にブルーの瞳を持つ彼は見た目だけなら少女と見紛うばかりの美少年だが、辛辣な物言いと、策略に長けたその能力は敵に回すと恐ろしいと貴族間では噂の的だ。

 だが、遠目から見るシャルルの姿は非常に愛らしく可憐に映った。


 ディミトリ王太子の斜め後ろから辺りを警戒するように視線を飛ばすのは、彼の乳母兄妹であり騎士見習のジョゼル・ルークだ。赤髪にブラウンの瞳の少年は王太子殿下よりも頭一つ分大きい。

 彼も既に頭角を現しており、将来は王宮騎士団長の座を担うのではと注目の的だった。


 この3人の少年が再来年には【王立学術院】に入学するとあって、その前にぜひお近づきになりたい貴族集団と、彼らに愛を乞いたいご令嬢たちが食いつかんばかりのギラギラした視線を3人に向けていたのだ。


 むしろ、全く興味の無さそうな様子で飲み食いをしていたルイ―セは、逆に玉座上段に立つ彼らから不審な目で注視されていることにも気づかなかった。

 まさか自分が王太子殿下や宰相・騎士などといった雲の上の人物から見られているとも思わず、フランツと共に、今まで食べたことにない食事に夢中になっていたのだから。


「フランツ…このローストビーフ…柔らかいし、かかっているフルーツソースがすごく美味い‼さすがは王宮の食事は食材が違うよな…。はぁ…兄様にも食べさせたい」

「馬鹿…持って帰れる訳無いだろう。あ、こっちの生ハムも美味いぜ?」


 男爵家とは言っても普段の食事は慎ましいので、美味しい物を目の前にするとつい夢中になってしまう。

 あくまでも下品にならないように…しかし色々食べてみたい…。当初の目的も忘れ、ルイ―セは夢中になって食べていた。



 やがて今回召喚された貴族令息のみが国王陛下にお目通りする時間となった。

 空腹が満たされると同時に緊張感までもが解れてしまったルイ―セは国王両陛下の御前に出た時も臆さずに微笑みながら挨拶することが出来た。


「お初にお目にかかります。ティーセル男爵家のカール・ティーセルにございます。本日は舞踏会にお招きいただきまして、ありがとうございました」


 ハキハキと挨拶するその姿はかなり好印象だったようで、国王陛下からもお褒めの言葉を賜った。


「中々肝の据わった少年だ。確か、カールは我が息子ディミトリと同い年だな…本来であれば王宮の茶会にも招待が言っているはずだが、今まで一度も見かけたことが無いのは何故だ?」

「はい。私は現在療養の為に王都から離れたティーセル領に住んでおりますから」

「療養…?そなたは元気そうに見えるが…どこか病気なのか?」


 国王陛下の言葉に思わずシマッタ…とは思うが、言ってしまったものは仕方ない。


「いいえ…あの、私の兄弟が…非常にその体が弱いもので。ですから弟と一緒に領地で静養をしております」

「なんと健気な…。早く弟君の病気が癒えることを願っておるぞ。また王宮にも顔を出すが良い。その際には是非、私にも顔を見せよ」

「はい!ありがとうございます」


 最後に一礼して挨拶は終了となったが、周りの貴族たちがざわついたのにルイ―セは気づかなかった。彼女にしてみれば国王陛下からのお言葉は、只の“社交辞令”と受け取っていたからだ。

 

 国王陛下から直々に王宮に顔を出せと言われるなどデビューしたての男爵令息としては前代未聞であり、顔を認知されたということは、将来有望な側近候補として国王陛下が認めたということ…そんな貴族間の常識を彼女は知らなかったのだから。


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