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48 ルイスとマリアーナの恋模様

「ちょっ⁈ 待て待て待てーっ‼何で私が脱がされることになっているのよっ⁈」


 お茶会にマリアーナを招待した晴れ渡る良き日――私は何故か、自室で傍仕えのリリーとマリアーナの双方から、無理やり丸裸にされそうになっていた。




 ――お茶会開始時刻より一時間も早く到着したマリアーナを、ルイスは一輪の薔薇を差し出しながら魅惑的な微笑みを浮かべてエスコートしている。

 邸宅で開く細やかなお茶会にも拘らず、ルイスは全身にアビ・ア・ラ・フランセーズを身に纏い、一見どこぞの王子様かと思えるような爽やかな微笑みで馬車から下りたばかりのマリアーナを一瞬で虜にしていた。


「我が家へようこそ、マリアーナ・アウレイア男爵令嬢。そしてエリク様。本日は貴女達とお会いできるのを一日千秋の思いで心待ちにしておりました」


 恭しく手を取られ、エスコートされているマリアーナは、頬を薔薇色に染めて潤んだ瞳でルイスを凝視している。――完全に私は蚊帳の外だ。


「いつもルイーセと仲良くして下さっていると聞きました。妹は学術院内では令息と偽り暮らしている為、どうしてもご令嬢の友人を作ることが出来なくて…。貴女のようなお優しい女性とお近づきになれるなんて、本当に幸運でした。…勿論、私にとっても」


 “ニッコリ”と微笑みを浮かべるルイスに、彼女は益々顔を赤らめる。


「あの…私の事はマリアーナとお呼びください。私は彼女の近しい友人ですもの…ぜひルイス様ともお友達になれたらと思っておりますのよ」

「フフ…私は貴女のような魅力的な女性とは、只の友人でいられる自信がありませんね。どうしても、もっと深く貴女の心を知りたいと願ってしまいますから…」

「まあ…ルイス様ったら…。私も同じ気持ち…そう申し上げたら破廉恥だと思われてしまうかと口に出来ませんでした。如何すれば貴方にこの胸の想いが届くのかと悩んでおりましたのに…」

「ああ…マリアーナ。そんな言葉は二人きりの時に聞かせて欲しい。その時は遠慮せず、可愛らしい唇を塞いでしまうよ?」


 …こんな真昼間から、目の前で繰り広げられる“愛の劇場”に言葉が出ない。

 どう見ても二人の世界…しかしここは一階にある客間の中で、室内には私や使い魔のエリク、そして傍仕えのリリーまでいることを思い出して欲しい。

 非常に居心地が悪いことを、この二人には理解してもらいたいものだ。


「…キミのルイス兄様は随分と令嬢を口説くことに手慣れているんだね☆…完全にマリアーナは彼の虜だよぅ」


 エリクがゲンナリした表情を見せるのも無理はない。それくらい二人は恋人同士の距離感で愛おし気に囁き合っている。――今日、初めて会話らしい会話をしたにも関わらず…だ。


「ねえ…ルイスは今までマリアーナに興味が無かったよね?好感度はずっと0のままだったのに、何でいきなり好感度があそこまで上がったの?キミ、何かやった?」


 エリクの疑問は尤もだろう。

 私は、数日前にマリアーナが【聖女】であることや、この世界が作られたゲームの世界であることをルイスに話したことを恐る恐る説明した。


「うーん…本来はゲーム内容に関する事は対象者に知られるのは不味いんだけど…。まあ、僕たちも口止めしなかったからなぁ。つまり、ルイスは自分の命を助けて欲しいから、マリアーナを好きになったって事だよねぇ?…うーん、それを愛と呼んで良いものか」


 ムムムと唸るエリクの気持ちは判るけれど、私はあんなに満面の笑みをたたえながら、ご令嬢に迫る兄を見たことは無い。

 どれ程に美しい令嬢から誉めそやされ、求愛されても、表面上で取り繕ったあの笑顔が崩れる事など一度だって無かった事。

 …そんなルイスが自分から動き、愛を得ようとしたのは実はマリアーナが初めてなのだ。


「幼少の頃から自分の欲しい物には執着心が凄かったけれど、今まで手に入れてきたどの玩具より、今が一番幸せそうな顔をしているもの。きっとマリアーナがルイスの気持ちを受け入れたら、兄は死ぬまで手離さないと思うのよねぇ…」


 今も恍惚の表情を浮かべるルイスの瞳には、時折チラチラと仄暗い感情が見え隠れしている気がする。

 あれは多分――彼女への執着の炎…なのだろう。


「玩具ねぇ…マリアーナも大変な男を選んじゃったのかもしれないね☆アハハ‼まあ、本人たちが幸せそうだから良いか」


 エリクの言葉に頷くと、ふと此処にいるのは邪魔では無いかという気がしてきた。

 流石に、未婚の令嬢とルイスを室内に二人きりにする訳にはいかないが、リリーさえ立ち会っていれば問題無いだろう。


「私たちが此処にいても二人のお邪魔みたいだし、エリクは私の部屋へ…」


 その言葉は最後まで言わせて貰えず、いつの間に傍に来たのか、ルイスは私の肩に手をかけると、何故かニッコリと微笑みかけられた。


「ルイ―セ、エリクとは私も話をしてみたかったんだ。良いだろう?その代わり、君はマリアーナと一緒に部屋で着替えておいで?勿論、既にドレスは準備済みだから心配はご無用だよ」

「…今日はマリアーナの為のお茶会でしょう?今更私がドレスに着替える意味がないじゃない…?」


 すると、ルイスは事も無げに「今日のお茶会にはフランツも招待したんだよ」と微笑んだ。


「フランツがマリアーナに対して強い嫌悪感を持っているのも、全てはルイ―セ絡みだからね。君がドレス姿で『彼女と友人になったからフランツも今後は仲良くして♡』とでも耳元で囁けば、彼の事だ、直ぐにでも機嫌を直すだろうさ」


 ――いやいやいや、本気で意味が解らない。

 それならば、マリアーナと友人になったことを、私が口頭で説明すれば済む話だ。

 それが何故、ドレスに着替えるという話に繋がるのかが全く理解できない…。


「私が出した招待状に『本日の茶会で、ルイ―セはフランツだけの為に装い、二人きりで語らいたいと願っているようだ。ルイーセの願いを叶えて欲しい』と一筆、書き添えておいたんだ。だから君がドレスに着替えなければ、書いたことが嘘になるだろう?」


 シレッと言ってくるが、当事者が知らないところで、話を進めるのは如何なものだろう。

 知らされていなかった私だけでなく、エリクまでもが「ルイスはかなり腹が真っ黒だな」と引いている。


「ウフフ…観念して着替えに行くわよ。さあリリー、ルイ―セの部屋へ案内して頂戴」

「ええ‼ルイ―セ様がドレス姿を披露される日が来るなんて…フランツ様の為にも私、張り切っちゃいますわー」


 結局、右側にマリアーナ、左側にリリーが張り付くと、私は二人がかりでズルズルと部屋へ引きずられて行くことになったのだった。


 そうして冒頭へと戻る訳なのだが…(回想終わり)


「早く着替えをしないと、お茶会の時間になってフランツ様が来ちゃうわよ」

「そうですよ~‼たまには装った姿でフランツ様を喜ばせてあげて下さい」


 マリアーナとメイドのリリーは楽しそうに私を脱がせようとしてくるけれど、まるで私が駄々を捏ねているみたいに言うのは止めて欲しい‼


「フランツ様は王宮舞踏会の時から、ルイ―セ様のドレス姿を楽しみになさっていたのですよ?いつも男装ばかりでは、いくらなんでもお気の毒ですわ。せめて本日ぐらいは美しく装った姿を見せて差し上げて下さい」


 そう言うと、リリーは光沢のあるペールピンクのシフォンドレスを目の前に掲げる。

 そのドレスはデコルテのラインにはフリルが添えられていて、肩にはリボンと真珠が縫い留められている。ふんわりと広がる裾にかけて、細やかな花の刺繍があしらわれていた。


「こちらはルイ―セ様が王宮舞踏会で着るようにと、以前から奥様がご準備されていた物です。まあ、実際には男装されていたので箪笥の肥やしになっていたのですが…」


(どういう事なの?我が家は貧乏で、私のドレス代にも事欠くと聞いていたのに…)


 両親は私の社交界デビュタントに興味が無いのだとばかり思っていた…。それにこんな可愛らしいドレスを準備してくれていたのなら、一言ぐらい私に伝えてくれても良いのでは無いだろうか?


 ――まあ、あの時のルイ―セは兄の身代わりで男装する事ばかり考えていたから、両親も敢えて口にしなかった可能性はあるが。


「折角ですから、今日の茶会の席でフランツ様にお披露目して、目いっぱい褒めて頂きましょう。あ…このドレスの件は奥様には内密にお願いします」


 何が何だか分からないうちにそのドレスに着替えさせられると、そのまま化粧まで施された。

 まるで夜会にでも出掛けるような物々しさだと思うが、どうやらリリーのお眼鏡には敵ったようで、彼女は満足気に頷きながらため息を吐いている。


「…いつもの男装も倒錯的で素敵ですが、こういった格好をなさると深窓のご令嬢の様ですわ~。本当にいつも隠しているのが勿体ない程スタイルも宜しいですし、これはフランツ様も大満足ですわね‼」

「こうやってドレス姿を見ると、本当に別人みたい。いつもの男装が見なれ過ぎていて、何だか変な感じだわ…」


 二人からまじまじと見つめられると、気まずさから無言になってしまう。


 客間へ戻り、エリクから「化けたなぁ…これだから女は怖いよ」と“ゲラゲラ”笑われ、兄から大げさに「可愛らしい‼流石は私の妹だけの事はあるよ‼」と大絶賛された後は、フランツの到着を待つだけとなったのだった。


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