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40 最愛は腕の中に(※フランツ視点)

※フランツ視点です。


 “本当に何なんだ⁈ あのいかれた女は何を考えているんだ⁈”


 大切な女性を腕の中に抱きしめながら、俺は頭が沸騰しそうなぐらい怒っていた。



 俺とカール――本名ルイ―セ・ティーセルとの出会いは、実は兄のカール…今はルイスと名乗っているが…との出会いが最初だった。


 幼い頃から母親に連れられて、貴族の令息同士がお茶会に集うことは結構頻繁にあった。

 だから、その頃はまだ王都で暮らしていたカールも同じように茶会に来ていたから、顔だけは見知っていたのだ。


 体が弱かったカールは、いつでも騒がしい子供の輪に入らず、静かに本を読んでいるような子供だった。

 透けるように白い肌に、潤んだ大きな碧い瞳、サラサラの金の髪…その全てに魅了された俺は一目でカールを好きになってしまった。…多分“初恋”だったのだと思う。


 だからカールが男だと知った時の衝撃は大きく、俺は絶望のあまり高熱を出した。

 幼いながらも真剣に好きになった相手が男で、しかも告白も出来ないまま玉砕したんだから幼い俺の切ない気持ちも察してほしい…。


 熱に浮かされながら「もう二度と人を好きになんかならない」と涙を零した俺は、舌の音も乾かないうちに翌日――人生二度目の恋をした。


 その相手がルイ―セ・ティーセルだった訳だ。


 俺のお見舞いに、カールとルイ―セが手を繋いで部屋に入って来た時の衝撃たるや…“あれ?双子の天使様がいる…これは夢…?…それとも俺は既に死んで天国にいるのか?”とキョロキョロと辺りを見回したくらいだ。

 だって一目惚れをした美少年と全く同じ顔をした美少女が、互いに手を繋いで俺を見て微笑んでいるんだぞ?夢かと思うのも当たり前じゃないか。

 因みに、その時初めて二人が双子だったことも聞かされた。


 マヌケな俺は「初めまして、ルイ―セ・ティーセルです。フランツ様のお加減は如何ですか?」と、愛らしく微笑む彼女のカーテシーを見てそのまま気を失った。

 興奮のあまり熱が上がったと主治医から診断されて、見舞いに来ていた双子は『風邪がうつっては不味い』と、早々に家へ帰されたことも後で知った。


 ――俺の熱は三十九度を超えていたというから、そのまま絶対安静を医師から申し付けられてしまい、その後彼女に正式に会えたのは更に一か月後になってしまったのだけれど…。


 そんな訳で、俺の初恋はそのままルイ―セへと移行して今に至るのだ。


 ――ただ、外見の美しさだけでルイ―セを好きになった俺は若干の及び腰…というか、慎重に相手を見極めないとカールを好きになった時の二の舞になるのでは…という不安があった。

 それ程に初恋相手が男だったことは、俺の心に深い傷を残したのだ。


 …二度目の失敗が無いなんて誰が保証してくれる?



 カールは大人しく、ふんわりとした優し気な印象も相まって『俺の天使‼好きだ‼』と一目惚れをしてしまった経緯があるが、ルイ―セに至っては初恋の相手と同じ顔というだけの理由だったから、余計に慎重にもなるだろう?


 “少しずつ交流を深めて、彼女の内面を見定めてから好きだと告白しよう”…そんなことを考えていたのだから、今思えば子供らしさの欠片も無い恋心だなとは思う。

 そこで素直に『俺はルイ―セが好きだ』と告白出来ていれば、今のような拗れた状態にはならなかったと………悔やんだけれど、後の祭りだろう。


 幼かった俺はせっせとティーセル家に遊びに行ってはルイ―セの気を引こうと彼女に纏わりついた。

 暫くして、何故かルイ―セと会わせて貰えない日々が数か月も続いた時に、俺は本気でルイ―セの事が好きなのだと――漸く自覚できたのだ。


 だから“今日こそルイ―セに気持ちを伝えよう”と意気込んでティーセル家に向かった俺は、彼らの両親から『二人は静養の為に、暫くの間はティーセル領で暮らすことになったから、王都にはいない』と聞かされて愕然としたのだ。


 …今でこそ単騎馬を飛ばせば彼らの処まで向かうのは大変では無いが、子供の俺にとって馬車で数日かかる距離に引き裂かれた事は絶望に等しかった。


 わんわんと泣きじゃくって両親を困らせた俺は、両親からその時諭されたのだ。


「欲しい物があるのなら、手に入れるための努力を続けなさい。自分から諦めなければ今は手に入らなくても、何れは手に入る可能性があるのだから」


 “だから本気で好きならば諦めては駄目だよ”と父から頭を撫でられた俺は、怠けることなく勉学に勤しんだ。

 一人での行動が許されてからは週末ごとに“カールの見舞い”という名目でティーセル領に会いに行き続けたのだから、我ながら行動力も忍耐力も涙ぐましいと思う。


 今更好きだと告げようにも、ルイ―セにとっての俺は“幼馴染”と言う括りの中に存在していて、あまりにも長い時間をそこで過ごしてしまったせいで、下手をすると家族のような扱いになっていた。


 初めての社交デビュタントで踊る相手はルイ―セしかいないと意気込んでいた俺は、何とかして彼女に男として意識して貰おうと意を決し、あの日も訪ねて行ったのだ。


 ――それなのに、王宮舞踏会に彼女は“カールの身代わり”として出席すると言い出した。


(舞踏会でパートナーになれば、少なくとも同年齢の奴らにはルイ―セが俺のものだと牽制できる!密着して踊れば、彼女が俺の事を意識して…恋人になれるかも‼)


 …そんな目論見は一瞬で木端みじんに砕かれて、愛の告白をする暇さえ与えられなかった…。


 しかも舞踏会場では、カールが国王陛下から直々のお言葉を頂戴するから、貴族連中の彼女に対する認知度がとんでもなく上がってしまうおまけつきで、だ。


 彼女とワルツを踊った女性たちは、全て高位貴族のご令嬢だったんだから、親の政治的思惑が俺には透けて見えるのに、肝心のルイ―セは気づかない始末だしな。


(…本当に無自覚の人タラシは止めてくれよ…)


 それだけでも俺の精神は抉られていたのに、王太子殿下に次期宰相候補と呼ばれる伯爵家のシャルル・グロスターだの、王宮騎士見習の子爵家ジョゼル・ルークまで引っかけて兄妹で王宮に取り込まれるのだから質が悪い。


 俺が最初に好きになったのに、横から掻っ攫われるとか本当にあり得ないだろう⁈


 彼女に会えない寂しさから、迷惑だとは判っていたけど早朝にティーセル家を訪ねてしまうと、ルイ―セは笑顔で歓待してくれた。

 しかも「フランツの為に作ったの」とクッキーを作ってくれて、零れんばかりの微笑みまで見せられたら…俺はあの日幸せの絶頂の中にいたと言っても過言ではない。


 ――そこで俺は腹を括った。


 王宮で彼女が執務の手伝いをするのは、どうせ【王立学術院】に入学するまでの短い期間だけだ。

 それに王太子殿下達はルイ―セを令息だと思っているから、彼女を女性として好きになる事はまず無いだろう。


 もし気の迷いから意識したとしても、彼らは高位貴族だからどうせ自由恋愛など認められず、政略結婚するだろうし、ルイ―セが女性だとバレさえしなければ打つ手などいくらでもあるという事だ。


 王立学術院に入学後は、いつも隣に居座って、彼女から意識して貰えた瞬間、愛の告白をすれば良い――そう俺は考えた。


 だから、ルイ―セと会えないこの期間を有効に活用して、彼女を俺の婚約者として迎え入れる準備をすることにしたのだ。


 ルイ―セが男爵令嬢だから婚姻を認めない等と両親が…主に母親が言えない状況を作り出さなければ俺に幸せな未来はやってこない。

 先ずは俺自身が、バッヘンベルグ家を継ぐに相応しい実績を上げなければ、両親にはいつまでも子供扱いされ、意見を聞いてもらう事は出来ないのだから。


 その為に俺はバッヘンベルグ領の商品価値無しとして切り捨てられていた産出物の有効活用に目を付けた。




 バッヘンベルグ領には鉱石の鉱脈が存在しているため、今までも安定的な鉱物の産出が領土の収入の要になっていた。

 だが、鉱脈には限りがある。今まで小さな鉱石は利用価値無しだと打ち捨てられていた物を領地の宝石商と交渉し、安価であっても見栄えのいい宝飾品に加工させるように依頼した。


 今まで、宝飾品は貴族令嬢のみというイメージを払拭するため、意匠も今までのような華美でゴテゴテとした物から一転、シンプルで男性でも身につけられるような物に切り替えさせたのだ。


 “愛する者同士が安価でお揃いの宝飾品を身に着けることができる”ことを謳い文句に、先ずはバッヘンベルグ領内のみで販売を始めたところ、庶民の間で大流行させることに成功した。


 普段使いも出来ることから、他領地の貴族や、宝石商からも引き合いがあり、元手は掛からないままに、バッヘンベルグ領の知名度と税収は今期大幅に増収した。



 …おかげで俺に殺到した縁談には正直辟易したが、両親にもルイ―セの事を話すいい機会にはなった。

 まあ、両親には既に俺の気持ちは筒抜けだったので『いい加減に彼女に告白しろ』と逆に発破をかけられたのだが…。



 こうやって、彼女を手に入れるための努力を重ねている俺の気も知らないで、ルイ―セは無自覚に人の気持ちを掻き乱しては、厄介ごとに舞い込まれてくれる。


 マリアーナ・アウレイアが自業自得で別の令嬢たちと揉めた時も、ルイ―セは自分を犠牲にして彼女を助けるのだから始末が悪い。

 挙句の果てに「勝手に助けたのだから、助けた方が悪い」とマリアーナから醜悪な言葉を投げつけられても、ルイ―セは「私のせいでフランツに迷惑を掛けてごめんね」と俺の腕の中で震えながら俯く。


 俺は完全にお前の事になると他が見えなくなるし、自分でも恥ずかしいぐらいに嫉妬深くなる。


 あんな馬鹿女に目や心を向けるのなら、ずっと俺の事だけ見ていて欲しいと願うくらいに心が狭いのも理解している。


(…だからいつかは俺の事を愛してほしい…)


 これ以上腕の中で柔らかな躰を抱いていると理性が飛びそうで…俺はルイ―セを部屋の風呂場に放り込むと、足早にその場を去ったのだった。


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