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11 バレたら大事…じゃあバレなければ良いじゃないか

ルイ―セは王宮から逃げるように邸宅へ帰ると、両親に本日の件を話した。

母親はその場で卒倒し、父親は真っ青な顔をして絶句したが、何とか話を続けることが出来た。


「王宮内でドルディーノ子爵に襲われて、王太子殿下に助けられた。…その状況でお前の事を何故か気に入った王太子殿下は、カールを王都に呼び寄せると言ったのだな?」

「…そうです。しかもカール兄様の為に医師も派遣して診療には王宮の離宮を提供して下さるとか…」

「…我が家に金銭的な余裕は無い事は伝えたのか?」

「もちろんです。ティーセル家は貧乏で、とても支払いは出来ないと言ったら、私がディミトリ殿下のお傍で一緒に学べば良いからと…」

「…まさかとは思うが、ルイ―セが令嬢だとバレたのではないか⁈愛妾として、傍に置いて躰で支払え的な…」

「あり得ません。ドルディーノ子爵には撫でまわされましたが、コルセットの上からでしたし、王太子殿下も特に何も言っていませんでしたから。もし見た目で判るぐらいならとっくにバレていますしね」

「余計に理由が判らんな…?」

「ええ…私にもさっぱり判りません」


父と一緒に頭を悩ませるも、結局いい案など浮かぶはずもない。


「まあ、王太子殿下がこんな無茶なことを言いだしても、離宮と言えば、本来は国王陛下の愛妾や側室を置くべき場所です。いくら今は使用されていなくても、王太子殿下の一存でどうこう出来るわけはありません。きっと国王陛下が諫めてくださいますよ」

「…それもそうだな」


そんな風に楽観視していた数日後、王宮から書簡が届いた。


「…ティーセル領に王宮から医師を数名派遣し、今後は治療の為、ルイスを離宮預かりとする…」


ワナワナと震えながら父が読み上げた手紙は、まさかの国王陛下の勅命だった。


貴族令息として登録されているのはカールのみだし、本来ルイスなどという者は存在しない。

ルイ―セの細やかな嘘偽りがとんでもない大事になってしまったのだ。

アーデルハイド国王陛下にもし嘘がバレたとしたら…ティーセル男爵家は爵位をはく奪の上で、領土も没収…さらに命の保証もない…。


「…もう、ここまで来たら嘘を吐きとおしましょう‼今さら謝っても許されるわけがないし、いっそカール兄様がタダで病気の治療をしてもらえるんだから一石二鳥ですよ‼」


ヤケクソになりながらルイ―セが叫ぶと父も諦めた様子で頷いた。


「だが、カールはティーセルの領地で何も知らされていないのだぞ?王宮からの迎えの者に、真実を話したらどうするつもりだ?」


確かに父の言うとおりだ。…ここは口裏を合わせるためにも、ルイ―セが迎えに行くしかないと腹を括る。


「…私が王宮からの迎えと一緒に、ティーセル領に出向きます。お父様は今回の詳細な説明を手紙に記してください。領地に到着したらカール兄様にその手紙を読ませてから王都へ連れてきますから」


ルイ―セは直ちに王太子殿下に訪問を取りつけると、今回の温情へのお礼と自分が愛する弟の迎えに同行したいことを伝えた。

あっさりとルイ―セの言い分を信じた王太子殿下はそれを了承し、一週間後には2台の馬車がティーセル領に向けて出発したのであった。




 久しぶりに帰って来たティーセル領は相変わらず平穏だった。

 王宮から派遣された二名の医師と警備兵にはティーセルの町にある宿屋で一端休んでもらい、ルイ―セだけが一足先に邸宅へと向かった。


「ルイ―セ、お帰り。今回は随分と長い留守だったね」


 ベッドの上でニコニコと微笑みを浮かべるカールに“ギュッ”と抱き着くと得も言われぬ安心感に包まれる気がする。

 カールは相変わらず青白い顔をしているが、メイドのアンによればここ最近は高熱を出すことも無く、食欲も細ってはいないという。


「いきなりで悪いのだけれど、カールには王都へ出向いてもらう事になったから」


 口頭で説明するより早いからと、父から預かった手紙を見せるとカールはおかしそうに喉を震わせた。


「フフフ…私の身代わりに王宮舞踏会へ出向いただけのはずなのに、随分と大仰な事になっているみたいだね。私は構わないけれど、バレたら我が家は破滅するんじゃないの?」


 カールの軽口が耳に痛い。――そうならない為にも気を引き締めて事に当たるしかないのだ。


「今後は私が兄のカール、兄様は弟のルイスと名乗ってもらいたいの。王宮だけでなく、邸宅の使用人にも呼び間違えの無いように徹底して貰うつもりよ」

「判ったよ。じゃあカール、王都へはいつ向かうつもりだい?」

「ルイスの体調さえ問題無ければ、今日にも出発するつもりよ。下手に時間を引き延ばしても、また体調が悪化するといつまでも発つことが出来ないから」


 ルイスには悪いが、出来るだけ急いで出発したい。そのために、領地の家令とアンには既に荷物を纏めて貰ってある。


「私が王都へ戻るのは十年ぶりぐらいかなぁ…すっかりお上りさんの気分だよ」

「田舎者の私でもなんとかなったから大丈夫よ。興奮しすぎて熱を出さないようにしてね」


 クスクス笑いながらルイスの身支度を手伝っていると「本当に興奮して熱が出そう」と抱き着いてくる。


「どうせ王太子殿下の気が変わるまでの短い期間だとは思うけれど、ルイスはしばらく王宮の離宮で暮らすことになるわ。私も毎日顔を出すから安心してね」

「成程ね…王太子殿下の狙いはソコか…。これで君が女性だとバレたら違う意味で大変なことになるかもね」


 ニヤニヤしながら頷く兄様の言うことは全く意味が解らない。

 こうして二人は迎えの馬車に乗り込むと、王都へ向けて出発したのだった。


 ルイスの体調を気遣い、常に医師が様子を見ながらゆっくり進んでくれるおかげで、数日を掛けて無事にアーデルハイドの王都へと到着することが出来た。


 疲れからか微熱気味のルイスを医師に任せると、王太子殿下の元に王都への到着を知らせる。

 ルイスが使用する部屋の使用許可を貰う為に向かった先では執事のジアンが待ち構えており、その場で離宮の客間へと案内された。

“自由に使って良い”と用意された部屋は、清潔感のある白で統一されていた。

 大きな天蓋付きのベッドが中心に据えられ、中庭を見渡せる窓からは陽の光が降り注いで温かい。

 日常生活に必要なチェストやビロード張りの肘掛椅子なども全て揃えられているようで、奥の扉は浴室とトイレに繋がっていた。


「まさかこんなに素晴らしい部屋をご用意いただけるなんて…。まるで賓客のような扱いじゃないか。私も王太子殿下に直ぐにでもご挨拶すべきかな」


 軽口をたたいいてはいるものの、ルイスは明らかに顔色が優れず具合も悪そうだ。

 王宮医師曰く“疲れでしょう”との診断結果に、ルイスをベッドへ押し込めることにする。


「急ぐことは無いわ。既に私たちが王都へ到着したことは王太子殿下にも報告済みだから、必要であれば私が行って来るから。ルイスは少しでも体を休めて、万全の体調でご挨拶できるように頑張ってちょうだい」

「うん…ごめん…ありが…とう」


 どうやら気力だけで保っていたらしく、目を閉じるとルイスは直ぐに眠りについた。

 余程疲れたのだろうと、彼の額にかかる金色の髪をそっと撫でつけた。

 本来ならティーセル男爵家の嫡男として、王都で何不自由なく暮らしていたはずの兄は、病弱なばかりに長い間不便な田舎暮らしを余儀なくされているのだ。

 青白い顔で眠るルイスを見つめながら”どうか彼が幸せになれますように”とカールは心から願ったのだった。



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