第一話:転移
初作品、初投稿となります。
勝手がわかっておらずまた稚拙な箇所があるかもしれませんが、
興味を持ってもらえたら幸いです。
よろしくおねがいします。
第一話:転移
遠大な地下都市の天井にはいくつもの巨大なファンが回っている。
そのファンの間隙を縫うように光が漏れる。
太陽の光が届かないその街ではファンから漏れ出る光が太陽の役割を担っていた。
しかし人工的な光では十分ではなく、どこか世界が暗く、荒んで見る。
鉄臭く埃が舞うその街の広場で、二人の男が殴り合いをしている。
それを幾人もの人が囲みながら観戦している。
あるものは野次を飛ばしながら、あるものは歓喜しながら殴り合いを見ているが、
その目はみんな狂気に滲んだ血走った目をしている。
誰もその男たちの殴り合いを止める者はいない。
暫く続いていた殴り合いが終わった。
片方の男が地面に仰向けに転がる。
もはや目に意識は宿っておらず息も絶え絶えだった。
それでももう片方の男は仰向けに倒れている男に馬乗りになり更に殴り続ける。
その顔に写るものは憎悪というより、相手を殴り殺すことへの愉悦であった。
ようやく殴り疲れたのか男は振るっていた拳を止め、
【人だったモノ】から身ぐるみを剥がし始める。
服から何から身につけているものを全て剥がして去っていく。
男が去っていったのを見届け、周りの観客たちがハイエナの様に【人だったモノ】に群がり始める。
「まだ使える臓器があるかもしれない!」
「腕でも脚でも無いよりかはマシだ。持って帰ろう。」
人々が去っていったあと残されたのは原形のない肉塊だけだった。
この街ではこんな出来事は珍しくなく、街のいたる所に【人だったモノ】が落ちている有様だった。
この世界の誰もが人が死ぬのを見ることに慣れてしまっていた。
【死】という事象が日常的にありふれており、人々はそれに対してもはや特別な感情は抱いていなかった。
(誰も彼もが死の狂気に冒されてしまっている__。
いや、人だけではない。街までもが死の狂気に染まっている。
やがてこの世界全体が死に向かっていくことだろう__・)
一部始終を見ていた少女は心の中で呟く。
その目には諦めと、覚悟の様なものが写っていた。
銀色に輝く髪を隠すようにフードを被り、その場を後にする。
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蝉が忙しなく鳴いている。
空は青く、高く、夏らしい入道雲が見える。
七月に入り梅雨が空け、暗く湿った日々が終わり本格的な夏が到来した。
学校からの帰り道、青年は照りつける太陽を気にもせず目的地へと足を急がせる。
程なくして街一番の規模である大学病院が見えてきた。
急がせていた足を更に急がせ青年はその大学病院の一室へと向かった。
部屋のドアを開けるとそこには規則正しく配置されている医療器具、
それらに囲われる形で置いてあるベッド、
そしてのベッドの上には本を読んでいる少女がいる。
ドアを開けると少女は目線を本からドアを開けた青年へと移し目を見開いた。
「__お兄ちゃん!!」
少女は眠たそうな顔から表情を一変させ喜々とした声を上げた。
「調子はどうだ!心花。苦しいところや痛いところは無いか…?」
心配そうな顔で青年は聞く。
「大丈夫だよ。薬も飲んでいるし今日も少し身体を動かしたんだ。早く良くなって学校に行けるように頑張る!」
暗い表情一つ見せず話す少女の姿に健気さを感じる。
「そう言えば心花が欲しがっていた写真集を買ってきたんだ。誕生日に間に合うようにもう少し早く手に入れたかったけど、なかなか手に入りづらくて…。」
青年はカバンの中から取り出した写真集を少女に手渡す。
「これ廃盤で物凄くレアなのに!よく手に入ったね!高かったでしょう…?」
「大したこと無いさ。バイト代も入ったし、心花が喜んでくれたらそれが何よりだ。」
「妹思いはいいけど、あんまり無理しないでね。でも本当にありがとう!大事にするね!」
心花は【写真で見る世界の軌跡】と書かれたその本をゆっくり丁寧に開き眺めはじめた。
物心ついた頃から写真に興味があり、特に自然や美しい街並みといった風景写真が好きだった。
国内外様々な風景が好きで、大きくなったら写真家になって風景や街並みを撮りながら世界中を巡ってみたい__心花は幼い頃からそう語っていた。
今から四年前、まだ心花が小学校5年生だった。
通学途中に突然身体が痙攣しはじめその場に倒れ込んだ。
病院に運ばれ数々の検査を受けた後、判明したのは治療法が確立されていない難病であること。
身体中の筋肉が衰えそのうち自分では歩くことすらできなくなる。
最後には呼吸もすることが難しくなり死を迎える。ただし薬によりその進行を抑えることはできる。
医師からはそう説明された。
悔しかったし何より悲しかった。だけどいつかは治療法を見つけて必ず治してみせる。そのために今は薬に頼っても心花を生かすんだ!
青年は妹の突然の難病に絶望しながらも、強い信念を以て必ず妹を救うと心に誓った。
それ以降足繁く妹の元へ通っている。
「それじゃあそろそろバイトの時間だから行くよ。」
「もうそんな時間なんだ…。寂しいけど無理しないでよね。私のためにお兄ちゃんまで倒れたりしたら、それこそ最悪なんだから!」
「大丈夫だよ。この程度なんてことない。また明日来るけど、何かあったら連絡しろよ。」
「バイバイお兄ちゃん!写真集ありがとうね!」
手をふる妹を背に病室から退室する。
四年前に妹が難病に冒されはじめたという不幸に重なるように、
三年前両親が交通事故で他界した。
何も取り柄のない自分と、難病に冒されている妹だけが残された。
不幸中の幸いと呼んでいいのかわからないが、両親残した遺産と保険により妹の医療費は賄われている。
ただしそれもいずれ底が尽きるため、こうして放課後にバイトをしてお金を貯めている。
(それでもこんな不幸には絶対に敗けない…。どんな困難も必ず乗り越える!)
敢えてこの青年の取り柄を挙げるとするならば、【前向きさ】が挙げられるのかもしれない。
並の人間ならここまでの不幸に遭遇したら心が折れてしまってもおかしくないが、
この青年は一度たりとも弱音を吐いたことがなく、
この状況を乗り越えようと直向きに努力している。
自らの心を鼓舞しながら、青年はバイト先へと向かう。
「さっきまであんなに快晴だったのに!雨宿りできる場所まで走ろう!」
バイトへ向かう途中突然の豪雨に見舞われた。
数メートル先もまともに見えないような滝のような豪雨。
すぐ前には自分と同じく雨に打たれながら走っている子供がいる。
「___ッ!」
突如前を走っていた子供が信号も横断歩道もない道を突っ切ろうとする。
そのすぐ近くを迫るように大型トラックが向かって走ってきているが、
豪雨による視界の悪さもあり気づいていないのか減速する素振りがない。
(___このタイミングは確実にぶつかるッ!)
その刹那、青年は大型トラックの迫る前を横断している子供の背中を思い切り押しトラックの軌道の外に追いやった。
自分がそのトラックの軌道に入れ替わる形をとって…。
目の前に迫るトラック。
(俺は死ぬのか…。でも俺が死んだら妹はどうなる?本当にこんな所で死んでいいのか?
いや、ダメだ…。こんなところで死んでたまるか!どんな状況でも俺は絶対に諦めない__ッ!
妹のためにも、自分のためにも、俺は絶対に生きてやる!死んでたまるか__ッ!)
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目が覚めた。目の前には切れかけた電球が音とともに灯ったり消えたりを繰り返している。
(俺は……どうした…?ここは……?何が起きた?ここはベッドの上……?
確か俺は子供を助けるためにトラックに轢かれて…あの子供は無事なのか?俺は……生きている?)
身体を起こそうとするが何かに縛られているようで起き上がることができない。
幸い頭は拘束されていなかったため、
顔を動かし自分の身体を見回すとベッドに拘束されていることに気づく。
トラックに轢かれる寸前の記憶から突然今の状況に場面が一転して考えが追いつかない青年。
「目が覚めたみたい。よかった……身体は無事みたい。」
突然響く女の声。その声の主の方に目を向ける。
(誰だ?女の子?あの子供……ではないな。妹と同じかそれくらいに見える。)
女性は銀色に輝いた髪の毛を揺らしながら、青年の顔をじっと見て言う。
「ようこそ、この死に狂った世界へ。そしてお願い。私を連れ出して。」
沈黙が流れる___。
少し文章が長くなってしまったかもしれません。
もう少しコンパクトにテンポよくまとめられたらと思います。