アン視点とイリス視点
その頃、アンが通う学園では、
「さっさと身を引いてくださらない?イリス第二王女様がお可哀想だわ。」
アンは数人の令嬢に取り囲まれていた。
「まあ、何を仰っているの?王命での婚約ですのよ。こちらから、辞退するなどできる訳ないではありませんか。」
「では、イリス第二王女様とレモンド様の思いはどうなるのです?!」
アンは思わず笑ってしまった。
「ふふふ、可笑しなことを仰らないで。イリス第二王女様とレモンド様の逢瀬をどなたかご覧になったのですか?レモンド様が髪飾りをご購入されたお店すら見つけられてないではないですか。」
「地味な伯爵令嬢如きに何がわかるというの?!お二人はとてもお似合いだわ!」
令嬢達はどんどん激昂していく。
「事実を言ったまでです。貴方達こそ、余り噂を吹聴しない方が宜しいわ。不敬になるということがわかっていらっしゃらないの?」
アンがそういうと一斉にアンをなじり始めたが、全く気にせず、
「それと、お似合いかどうか外野がどう騒ごうが私には関係ないことです。陛下が私をお認めになり、レモンド様が私を思い、私もレモンド様を思っております。これが全てだわ。」
と静かに平然と言った。
「皆様のお顔、覚えておきます。私は将来レモンド様の妻になるのです。伯爵令嬢如きと仰ることができるのも今のうちにだけよ。」
ーーそう、数人の令嬢に取り囲まれなじられたくらいで折れる気持ちなど持ち合わせていない
悔しそうに口をつぐみ、睨みを利かせていた令嬢達の顔がいきなり驚きに変わる。
ふと後ろを振り向くと、
「その通りだよ。アン。」
レモンド様が少し後ろにいるではないか。
「こんにちは、アン。皆さん。」
アンに微笑んでくれた後、冷たい目で令嬢達を見て、
「イリス第二王女は、近々ご婚約される予定だ。先程、陛下から直接聞いた確かな情報だ。余り変な噂を吹聴しない方がいい。陛下も『王女に傷がつく噂をよくも』と大変お怒りだ。ご婚約が上手くいかなければ不敬とされ処分もあり得る。貴方達の顔は私もよく覚えておこう。」
と威圧的に言った。
令嬢達は蜘蛛の子が散らばるように一目散に礼もせず去って行く。
レモンド様がアンの手を正面からそっと握り、
「アン、会いたかったよ。いつも、信じていてくれてありがとう。」
と少し照れた顔で仰る。
「私も会いたかったです、レモンド様!私はいつもレモンド様が私に寄せてくれる信頼をそのまま言葉にしただけです。当たり前のことです。こんなに言葉にも行動にも示してくれているのです!疑う方がどうかしています。」
レモンド様の青紫色の瞳を見つめながら、
「レモンド様、今日も大好きです。」
アンがそういうと少し耳を赤くして、
「ありがとう。今日も飛び切り可愛いね。」
と言ってくれる。
今日もアンは最高に幸せだ。
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その後、イリス第二王女の婚約が大々的に発表された。
田舎のサノーレ子爵家の嫡男ソーマだった。
イリス第二王女がサノーレ子爵家の領地へ足を運び一目惚れ、外出時は子息の瞳の色に近い青紫のドレスや髪飾りを付け、度々アピールされていたらしい。その好意を受け取る決意があるか陛下がソーマ殿を試し合格したため、婚約の運びになったそうだ。
そして、「アンが身代わり」という噂はあっという間に消えた。
ある王宮の一室で母と子が話している。
「イリス。陛下は貴方のことを愛してるわ。瞳の色だけで選んだのではないの。この婚約は父としての愛よ。それをわかってほしいの。」
王妃が王女に言う。
「はい。わかっております。お父様の背中はいつも見ていました。そのお父様の愛情を疑う訳がありません。」
王女はしっかりとした目で宣言した。
「必ず、幸せになります。ソーマ様をよく知りよく見て、自分自身で考え行動し、噂や悪意に負けず、必ず。」
「貴方のわかりやすい性格。母はとても可愛らしいと思うの。自分を卑下せずにね。貴方ならできるわ。」
王妃は王女を抱き寄せる。
「イリス、貴方はさらに幸せになる準備をしているの。それを忘れないで。」
王女の心に王妃の言葉は深く刺さった。
この婚約は罰ではない。相手にも失礼だ。
幸せは自分で掴み取る。
その決意を込めて力強く頷いた。
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