アン視点
またライバルが降って湧いて来た。
アンは拳を握りしめ、どう対処しようか揺れている花を眺めながら思案し始めた。
婚約者のダージリー公爵家嫡男レモンド様は容姿端麗、性格も良く紳士的で家柄も良く、しかも現陛下の甥だ。
キャスリーア伯爵家長女アンである私は、王命によりレモンド様の婚約者となった日から日夜その立場を死守してきた。
レモンド様はアンより一年早く卒業され、1ヶ月前に公爵家領へ帰っていかれた。
「可愛いアン、早く一緒に公爵領で穏やかに暮らしたいな。」
と去り際に言ってくれたし、在学中に薔薇園でプロポーズまでしてくれた。
5日に1回は手紙のやりとりもしているし、王都へ来る際は必ずアンの顔を見に来てくれる。
アンも会った時や手紙で「今日も大好きです!」と自身の気持ちを必ず伝えているし、
レモンド様もそれを照れた笑みを漏らしながら「ありがとう。」「今日も飛び切り可愛いね」等と返してくれるし、手紙にも「可愛いアンへ」と書いてくれる。
どう見ても、大好きなレモンド様がアンを思ってくれており、アンもレモンド様を思っている。
お互いにこんなに想い合っているのに、伝わらない外野の目は節穴なのだろう。
そして、その外野はアンの周りに次から次にわいてくるのだ。
「ねぇ、聞いた!?」
アンに聞こえるように令嬢達があの噂を今日もまた話し出す。
「聞いたわよ!お可哀想だわ。アン様ってば、身代わりなんですって。イリス第二王女様とレモンド様がなぜ婚約されなかったか、当時噂になったじゃない?」
「ええ、血が近すぎるからでしょ。それに公爵家にパワーバランスが偏るものね。王命によって切り裂かれた2人。それでも、隠れて愛し合っていらしたのね。」
「公爵領までの道のりでイリス第二王女様がレモンド様の瞳の色の青紫のドレスをお召しになって歩いておられるのを何人も目撃していたって話だわ。」
「それに、公爵家の使いの者が王宮にイリス第二王女様に青紫の髪飾りをお待ちしたって言うじゃない!」
「何もないのに、王女様自ら出向くわけないものね。しかも、レモンド様の瞳の色のお召し物に髪飾り。愛されていらっしゃるのよ、きっとレモンド様からの贈り物よ!」
「アン様ってば、身代わりなのに愛されているなんて思っているのかしら?お可哀想に。」
こちらを見ながら優越感に浸った顔で喋っている。その令嬢達に敢えてニッコリ笑い、その場をあとにした。
ーー聡明な陛下が身代わりなど許すとお思いなのかしら、イリス第二王女様の名に傷がつくではないの。
しかも、噂の事実を整理するのなら、
『イリス第二王女様が青紫のドレスを着て公爵領に行って帰って来られ、その後に公爵家の者が青紫の髪飾りを王宮でイリス第二王女様に渡した。』
たったこれだけだ。
レモンド様とイリス第二王女様が逢瀬を重ねている所を見た訳でもなく、レモンド様が自身の瞳の色のドレスや髪飾りを注文した店が発覚した訳でもない。それどころか、2人が会っているところを目撃した人すらいない。
どこで噂に尾鰭が付いたのか。
そう考えていた途中で思考を放棄した。
ーーどんな尾鰭が付こうが関係ない。
私は自身の目を信じているし、レモンド様の私への態度を見誤ったりしない。
イリス第二王女様のお考えがどう及ぼうとも、絶対に負けるものか。
婚約者は私だ!