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灰色の紫陽花  作者: 谷本旧
4/11

#4

今回は早めの投稿です。捗ったもので。


※今更書くのもなんですが、この作品に出てくる街や施設などの名前は全て架空のものです。

この作品に出てきた街や施設の正式な名前や簡単な説明などを書いておきます。

軽く目を通してもらえれば嬉しいです。

随時増えていき次第簡単に説明していきます。

次回以降からは前書きではなく、後書きで描かせて頂きます。


海城府羽山市羽山町(うみしろふはねやましはねやまちょう)

海城府で1番栄えてる街で、東区、中区、西区で構成されている。

学校もいくつかある。

府の地方は中国地方。


山吹西高校(やまぶきにしこうこう)

碧、竜胆、柊が通っている私立校。

碧達の町からは10駅離れている。

羽山町西区にある。通称:西校


羽山東高校(はねやまひがしこうこう)

早瀬の通っている市立高校。

羽山町東区にある。通称:東高


七浜町(ななはまちょう)

羽山町から9駅目の町。

茶川の地元。


宇海町(うかいちょう)

西校から10駅目の町。碧や竜胆、柊、早瀬の地元。


写真を撮ろうと息をまいて出てきたものの、何を撮ればいいのか全くわからないし、思いつかない。

どうしたものか。


「写真、何撮ればいいんだろう。」

「ん~。綱志君の好きなものを撮るのが一番だと思うけど。」

「好きなものか~。改めて聞かれると困るな~。」

「すぐに思いつかないなら街を散歩するのもありかも。ふとしたものが綺麗に見えたりするし。」

「とりあえず歩いてみるか~。」


『美しいもの』を求めて茶川さんと街を歩く。


「茶川さんってどこに住んでるの?」

「七浜だよ。」

「うそ!?俺は、!」

「宇海でしょ?」

「え!?何で知ってんの?!」

「このあいだ電車で見かけたからそうじゃないかな~って。」

「え~声かけてよ~。」

「人も多かったから声かけづらくて。」

「あぁ~、宇海線、田舎のくせに結構人多いもんなぁ~。」

「ほんとだよね。毎回押しつぶされそうになるもん。こないだなんてオジサンがもたれかかってきて大変だったんだ~。」

「とんでもないおっさんだな~。」

「ほんとに潰されるかと思ったよ。」

「ふふ。」

「ん?どうしたの?綱志君?」

「いや、茶川さんが前より話してくるようになったから嬉しくてさ。」

「あ~・・・私人見知り激しくて。初対面の人とか全然話せないんだ。でも綱志君はなんか、話しやすい感じがする。」

「そうかな?結構人と距離置いちゃうタイプだと思うけど。他人には関わらない的な。」

「そ、そんなことないよ!綱志君は周りしっかり見てるし、優しい人だと思う!綱志君は覚えてないかもしれないけど、私入学してすぐの時に助けてもらったもん。」

「えぇ?そんなことあったっけ・・・?」

「そんなことあったんだよ。」


本当に覚えてない。何のことだろうか。


「ほら、うちの学校って私立だし、結構広くて入り組んでるでしょ?」

「まぁそう言われてみれば。」

「それで、入学してすぐの時に校内で迷っちゃってさ。教室探してたら後ろから綱志君が『同じクラスの子でしょ?教室こっちだよ。』って助けてくれたの。」


あった。そんなことあった。思い出した。


「他にも、女の先生の荷物運ぶの手伝ってあげたりとか。」


確かに教室こっちだよとは言ったけど、泣きそうな顔で校内うろうろしてるの見かけたら誰でも助けるに決まってるじゃないか。

そんなことをずっと…。


昔、似たようなことがあったのを思い出した。


ーーー


(あれ、碧君じゃ〜ん。教室残って何してるの?)

(お、おぉ早瀬じゃん。日直だし、先生にこのプリント整理して運んどいてって頼まれてさ。)

(ふ〜ん。結構あるね。)

(重すぎ。)

(手伝ってあげよっか?)

(え、いいよ・・・)

(まぁまぁそう言わずに〜)


ーーーー


俺にも同じようなことがあった。

同じなんだ。茶川さんも。

慣れてない異性からの優しさに驚いて、心を持っていかれる。


「綱志君がどれだけそうじゃないっていっても、私はちゃんと、見てるよ。」

「そっか。ありがとう。」

「うん!」

「茶川さん。」

「?」

「碧でいいよ。」

「え、!?あ、う、うん。わかった。・・・み、碧、くん…。」

「とりあえずもうちょっと歩いてみようか。」

「うん。そうだね。」


入学して1ヶ月。初めて竜胆と柊以外の親しい人が出来た気がする。


2人で他愛もない話をしながら街を歩き回った。

写真も沢山撮った。

海の写真。公園の写真。夕陽の写真。どれも綺麗に撮れた気がする。我ながらいい腕をしてる。多分。


「沢山撮ったね〜。」

「撮りすぎたかもしんない。」

「あはは。写真はね、撮りすぎたぐらいが丁度良いんだよ〜。それに碧君はまだ少ない方だよ。」

「げ、まじで?みんなどんだけ撮ってんだよ。」

「ふふふ。」

「でも、こうやって自分で見て、良いって思ったものを切り取るのはなんか気持ちが良いね。」

「碧君が楽しそうで良かった。牧里先生はあんなこと言ってたけど、気にしなくて良いと思うよ。」

「う〜ん。それはどうなんだろ〜。牧里先生の言ってたこともよくわかるんだ。痛いほど身に染みる。ここでなぁなぁにして、適当に写真部に入り浸るのは違うと思う。だから、牧里先生のだした入部条件はクリアしたい。」

「そっか。とりあえず、今日撮った写真、明日見せてみよ。それでOKもらえるかも。」

「そうだね。気に入ったの1枚選んどくよ。」

「うん。明日の放課後に現像だね。」

「クリアできるかな〜、一発で。」

「碧君なら大丈夫だよ。きっと。」

「だといいけどね〜。」


翌日の放課後。茶川さんと一緒に牧里先生に昨日撮った写真を見せる。海と夕焼けが写った写真。

100何枚ある中から選んだ1枚だ。それなりに自信はある。

でも、先生の口から出たのはただ一言。


「駄目だ。」

「えぇ!?どうして!?何が駄目なんですか!?」

「駄目なものは駄目だ!」

「牧里先生、せめて理由くらい教えてくれても…!」

「それも駄目だ。」

「えぇ〜、そんなぁ〜。」


駄目だの一点張りで、それ以上は何も教えてくれなかった。

こんなに悔しいのは久しぶりだ。



ーーー職員室。


「牧里先生。随分と厳しいんですなぁ。」

「そうでもないですよ、佐藤先生。これぐらい普通です。」

「それはまた何でですか?」

「また野暮なことを。佐藤先生ならわかってるでしょ。」

「ん〜〜。牧里先生の口から聞きたいですね〜。」

「はぁ〜。貴方って人は。

 テーマは『美しいもの』です。

 そして、美しいにも色々あります。可愛いとか綺麗とか、そんな一言では言い表せないものが色々あるんですよ。」

「えぇ、わかりますよ。これでも私、現代文の教師ですから。」

「はぁ〜。

 それで僕が彼に求めているのは、ただ美しいものではなく、彼が本当に美しいと思ったものです。

 それを見ているだけで吸い込まれてしまいそうな。そんなものが見たいんです。さっきの様子を見る限りじゃ、ただ目につく美しいものを撮っただけのようでしたし、写真からも伝わってきました。」

「なるほどですね〜。さすが、元カメラマンは伊達じゃないですね〜。」

「やめてください。10年も前のことです。僕は今は古典の教師ですよ。」

「ははは。貴方はやっぱり面白い人だ〜。

 では私は会議がありますので、これで失礼します。」

「はぁ〜。本当にあの人は。今も昔も変わらない。何も知らないような顔をして、全部見透かしてる。」


ーーーーーーー


牧里先生に一蹴された俺は部室でうなだれていた。


「あぁ〜〜〜。どうしよ〜〜〜。」

「碧くん、落ち込まないで。まだチャンスはあるから…!」

「そうだけどさ〜〜。あそこまではっきり駄目って言われると…。結構キツイなぁ〜。」

「大丈夫!碧君なら絶対!」

「そうかな〜〜〜。」

「そうだよ!碧君なら撮れるよ!」

「あーーーー!うだうだ言ってても仕方ない!よし!撮りにいこう!」

「うん!行こう!」


2人で息を巻いて街に繰り出す。

今日こそは『美しいもの』を撮ってみせるという熱い意志を持って!


「駄目だぁ〜〜〜。なんっにも綺麗に見えない。」

「うう〜ん。どうしたらいいんだろうね〜。」


昨日先生に見せた写真と同じ場所でまたしてもうなだれていた。

驚くほど綺麗に見えない。昨日はあんなに綺麗だったのに。どうしてこうなった…。

そもそも牧里先生の出した『美しいもの』っていうお題が抽象的すぎる。別にケチをつける訳じゃない。

ただ、抽象的だと言いたい。駄目だった理由もそうだ。何も教えてくれないから直しようがない。

どうしたらいいんだ。何をどうすれば俺の撮った写真は『美しいもの』になる。

いや、はなっからそんなものは、俺にはなかったのかもしれない。それが自分にあると思ってただけで。俺にはあの時みたいに全部が汚れて見えてるのかもしれない。それを誤魔化そうとして無理矢理、綺麗だと思ってたのかもしれない。


きっとそうなんだ。


俺の踏み出した一歩は無駄じゃあなかった。

ただ、自分の汚さを自覚するための一歩で、進んだ訳じゃなかった。結局その一歩で止まるんだ。


「はぁ〜。」

「碧君、私飲み物買ってくるね。ちょっと一息つこ?」

「そうだね…。ごめん…。」

「ううん。じゃあ行ってくるね。」


茶川さんに気を使わせてしまった。

なんて惨めなんだ。


「はぁ〜、情けない…。」



「ねぇ、こんなところで何してるの?」


聞き覚えのある可愛い声。

振り向くと早瀬がいた。


「は、早瀬…!?」

「そんな驚かなくていいじゃ〜ん。

 で、こんなところで何してるの?1人で。」

「・・・。」

「まだ、話せないの?もしかして口なくなった?」

「は、話せる、けど。」

「けど?何?ちゃんと言って。」

「まさかこんなところで、は、早瀬に会うとは思わなかったから。」

「何それ。こないだも同じ感じで会ったじゃん。」

「そ、そうだけど…。」

「あ〜、もう。けどけどうるさいな〜。普通に話せばいいじゃん。そんなだから女々…」

「違う…」

「ふ〜ん。そんなに嫌なんだ。言われるの。」

「・・・」

「言えるじゃん。思ったこと。」


変わったのか、本当はこうだったのか、俺が理想を抱きすぎてたのか、高校生の早瀬にはあの時みたいなおしとやかさは感じなかった。

でも嫌な感じはしない。ただ気まずいのは気まずいけど。


「写真撮るの上手なの?」

「いや、上手くはない。」

「ふ〜ん。」

「・・・何…?」

「別に〜〜。・・・そうだ、1枚撮ってよ!」

「え?早瀬を?」

「そう!ねぇいいじゃん!お願い!」

「まぁ、別にいいけど。向こう立って。」

「やったね〜。」

「じゃあ、撮るよ〜〜。」


接眼窓を覗きこみ、シャッターを押す。



その瞬間、世界が変わって見えた。


ただこちらを振り返って笑ってるだけの写真なのに。



ただそれだけなのに。


思わず言葉が溢れてしまう。



「綺麗だ・・・。」



4話は捗ったおかげか、文字数が多くなってます。

長々と読んで頂きありがとうございます。


碧が、何が自分にとって『美しいもの」なのかに気付き、実感する回でした。

彼にとって早瀬とは、あんなことがあっても、『特別な存在』なんでしょうかね……

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