#3
投稿が遅くなってごめんなさい。怒らないで。
「女々しいんだね、碧くん。」
あの時と同じ言葉。情けでかけられた言葉。
何も喋れない姿を見てまた思ったんだろう。
あの日から1年ぐらい経った。
少しは成長したのかと思ったんだろう。
でも、彼女の目にはあの時と同じように見えたんだろう。
あの時と同じ情けない姿に。
「碧、やっぱりまだ気にしてんのか?」
「・・・まぁ。初恋みたいなもんだったし。」
「まぁそりゃそうだよな~。そんな簡単に忘れられたら訳ないよな~。早瀬の奴も普通声掛けねーよな〜。」
「忘れようとはしてんだけどな。一応。」
「そうか〜。まぁそんな簡単な話じゃないよな。」
「まぁ・・・そうだと思う。」
「ていうか、今なんもしてないだろ?部活とかバイトとか。
何かしてみたらどうだ?
何かを継続するのって結構パワーいるし、気がまぎれるかもしれんぞ。
まぁ、辞めた俺が言うのもなんだけど。」
確かに。
何もしてなかった。
過去に怯えて、嫌なものに蓋をして、そこに立ってただけ。
竜胆はまだしも、久しぶりに会った早瀬が気づくぐらいだ。自分がわからないはずはない。
ただ、逃げてた。あの日、あの瞬間から。ずっと逃げてた。
「そうだな。なんか初めてみるよ。」
その通りだ。
ただ逃げてるだけじゃ、何も変わらない。
何も動かない。
進むんだ。前に。
「何がいいんだろうな。」
「いきなりバイトはハードル高そうだし、やっぱ部活か。」
「部活か~。特にしたいこととかないんだよな~。中学の頃も陸上すぐ辞めちゃったし。」
「う~ん。
あ、さっきの子は何部なんだ?」
「茶川さん?・・・何部なんだろ。」
「げ、知らないのかよ。他の人にちょっとは興味もてって〜。」
「自分のことで精一杯だったから…
まぁ話だけでも聞いてみるよ。」
今までは嫌なものに蓋をするだけで、そこからは動こうともせずに、ただ立ってただけだった。
そこにいるだけで苦しいのに、そんなことわかってたのに。
でも今は進もうとしてる。
今日早瀬が急に現われたのも、何か意味があったのかもしれない。
少しづつでいい。少しづつ、少しづつ。前に向かって進もうと思う。
「昼休みにでも聞いてみるよ。」
「まぁ気楽にいこうぜ。」
「そうだな・・・!」
午前の授業が終わり昼休み、茶川さんに声をかける。
「茶川さん、ちょっといいかな?」
絵に描いたような驚いた顔だった。
「きゃっ!?な、何…かな…?」
「あ〜、急にごめんね。ビックリしたよね。」
「う、ううん。だ、大丈夫。です。」
「それで、茶川さんって部活とか入ってるの?」
「ぶ、部活なら私は写真部に、入ってるよ。」
茶川さんは恥ずかしそうに答える。
「へ〜写真部か。そんなのあったんだね〜。」
「うん。もしかして、興味あったりする…のかな…。あ、いや別になかったらそれはそれでいいんだけど、なんかこう、お話できるのが嬉しくてつい…って私何言ってんだろ!ご、ごめんね!」
「あ、いや、そんな慌てなくて大丈夫だよ。
俺こそ急にごめんね。
俺、部活とか入ってなくて、なんかいい部活ないかな〜って思っててさ。もうすぐ5月だし、入るんなら早くしないとな〜って。」
「そう、なんだ。」
「うん。でも写真か〜。なんか意外だったな〜、茶川さんはもっとこう、」
「じゃ、じゃあ!放課後。見学、してみる?体験入部。みたいな。」
頰を赤らめる様は年頃の女の子そのものだった。
彼女にとってはかなりの勇気が必要だったはずだ。
写真にはあんまり興味がなかったけど、その想いを無碍にはできない。
それに、これをきっかけに何かを見出すかもしれない。
「わかった。じゃあ放課後、よろしく頼むよ。」
「えっ!?あ、う、うん。わかった。」
ーーーーーーーー
放課後、茶川さんと一緒に写真部の部室に向かう。
「へ〜。こんなところにあったんだな〜。こりゃわかんない訳だ。」
写真部の部室は美術室とか、特別教室がある棟の1番上の階の1番奥の部屋。2〜3年前まで物置として使われていたらしく、教室の見た目はかなり古い。
「ごめんね、こんな古い教室で。毎日掃除はしてるからそんなに汚れてないと思うんだけど。」
「大丈夫だよ、気にしてない。それに古い教室なんだし仕方ないよ。」
「そ、そうだよね。」
部室の中は古びた机と椅子。棚には一眼レフカメラが何台も並べられている。
壁には部員が撮ったであろう写真が貼ってある。
壁の写真を眺めていたら茶川さんの名前を見つけた。
「(茶川能登子…)この写真って茶川さんが撮ったの?」
「そ、そうだよ。」
花の写真。
下から花を見上げるように撮ってる。
一体どうやって撮ったんだろう。
「これってどうやって撮ったの?かがんで?」
「え?あ、あ~、かがんで、撮ったの。ちょっと恥ずかしかったけど。」
「へ〜。いい写真じゃん。なんか茶川さんって感じの写真。」
「そう、かな。なんか、そう言われると嬉しい。」
「でも、なんでかがんで撮ってるの?」
「それは、その、テ、テーマがあって。」
「テーマって?」
「あの、その。えーっと。」
「いいじゃん、教えてよ。」
「足元から見た、世界…。みたいな。恥ずかしいな〜。なんか。あはは〜。」
「足元から見た、世界…。良いじゃん!」
「ほ、ほんと!?」
「うん。普段の俺たちからは見えない世界だしね。」
「そ、そうなの!普段ならなんてことない景色でも、下から見てみると全然違って、気づかないことに気づけたりとか、色んな発見があって!それにこの世界は私しか知らないんだって思えて、!」
「好きなんだね。写真。」
「えっ!?あ、ごめんなさい!私ベラベラ1人で話しちゃって!」
「全然。聞いたのは俺の方だし。ありがとう。」
「どう…いたしまして…。」
茶川さんの様子から、本当に写真が好きなんだなと伝わってくる。
物静かで、あまり主張しない茶川さんがここまで夢中になるものだ。きっと何かあるんだろう。
俺がまだその魅力に全く気づいていないだけだ。やってみる価値はある。
「あのさ、写真部入ってみてもいいかな?」
「ほ、ほんと!?」
「うん。茶川さんみてたら興味出てきてさ。下手かもしれないけど、やってみようかなって。」
「じゃ、じゃあ!顧問の先生呼んで来るね!」
「うん。」
茶川さんが連れてきたのは古典の教師の牧里。小難しいで有名だ。
「ふ~む。君が入部希望者か。」
「はい・・・」
何故睨む。
「カメラに興味があるみたいだが、触ったことはあるのか?」
「あ~・・・デジカメぐらいなら・・・」
「ふ~む。その程度か。」
「・・・すいません。」
わかってはいたがそういわれると中々に刺さる。
「それなら君の入部に一つ条件をだそう。」
「条件?」
入部条件だと?運動部じゃないんだ。なんでそんな必要があるんだ。
少し面倒だな・・・。
「条件は、写真を撮ってきて私に提出して認めさせること。テーマは『美しいもの』期限は1週間だ。」
「先生さすがにそれは・・・」
「なんだ?写真に興味があるならそれくらいやってみせてほしいものだ。これぐらいで逃げるような女々しい奴は、どこに行ってもこれから先通用しない。」
逃げる?女々しい?
今まで散々逃げてきたんだ。進もうとしてる今逃げてどうする?
女々しさを捨てるんだ。
俺は進む。
「わかりました。やってみます。」
「・・・そこの棚にあるカメラ、自由に使うといい。」
「はい。ありがとうございます。」
牧里はそう言い残して部室を出ていく。
「ごめんね、綱志君。牧里先生難しいところあるから。」
「大丈夫だよ。それに俺が綺麗だと思うものを撮ってくればいいんでしょ?意外と何とかなるかもしれないし。撮ってみるよ。」
「あ、あの。」
「うん?」
「わ、私も一緒に行っていいかな・・・?」
「勿論!色々教えて欲しいし。こっちからもお願いするよ。」
「じゃ、じゃあ早速撮りに行こう!」
「うん。」
一度も持ったのことないカメラを手に持ち、学校から出る。
いつもと同じ光景のはずなのに、今日は少し違って見えた。
一歩進んだ気がする、少し前に。
入部条件に出されたのは美しいものの写真を撮ってくること!?
しかも期限は三日!?
碧は牧里が認める写真を撮ることができるのか!?
遂に一歩踏み出した碧君。
彼はこの入部試験?で何を得て、何を知るのか!
次回をお楽しみに。