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灰色の紫陽花  作者: 谷本旧
3/11

#3

投稿が遅くなってごめんなさい。怒らないで。


「女々しいんだね、碧くん。」


あの時と同じ言葉。情けでかけられた言葉。

何も喋れない姿を見てまた思ったんだろう。

あの日から1年ぐらい経った。

少しは成長したのかと思ったんだろう。

でも、彼女の目にはあの時と同じように見えたんだろう。

あの時と同じ情けない姿に。


「碧、やっぱりまだ気にしてんのか?」

「・・・まぁ。初恋みたいなもんだったし。」

「まぁそりゃそうだよな~。そんな簡単に忘れられたら訳ないよな~。早瀬の奴も普通声掛けねーよな〜。」

「忘れようとはしてんだけどな。一応。」

「そうか〜。まぁそんな簡単な話じゃないよな。」

「まぁ・・・そうだと思う。」

「ていうか、今なんもしてないだろ?部活とかバイトとか。

 何かしてみたらどうだ?

 何かを継続するのって結構パワーいるし、気がまぎれるかもしれんぞ。

 まぁ、辞めた俺が言うのもなんだけど。」


確かに。

何もしてなかった。

過去に怯えて、嫌なものに蓋をして、そこに立ってただけ。


竜胆はまだしも、久しぶりに会った早瀬が気づくぐらいだ。自分がわからないはずはない。

ただ、逃げてた。あの日、あの瞬間から。ずっと逃げてた。


「そうだな。なんか初めてみるよ。」


その通りだ。

ただ逃げてるだけじゃ、何も変わらない。

何も動かない。


進むんだ。前に。


「何がいいんだろうな。」

「いきなりバイトはハードル高そうだし、やっぱ部活か。」

「部活か~。特にしたいこととかないんだよな~。中学の頃も陸上すぐ辞めちゃったし。」

「う~ん。

 あ、さっきの子は何部なんだ?」

「茶川さん?・・・何部なんだろ。」

「げ、知らないのかよ。他の人にちょっとは興味もてって〜。」

「自分のことで精一杯だったから…

 まぁ話だけでも聞いてみるよ。」


今までは嫌なものに蓋をするだけで、そこからは動こうともせずに、ただ立ってただけだった。

そこにいるだけで苦しいのに、そんなことわかってたのに。

でも今は進もうとしてる。

今日早瀬が急に現われたのも、何か意味があったのかもしれない。

少しづつでいい。少しづつ、少しづつ。前に向かって進もうと思う。


「昼休みにでも聞いてみるよ。」

「まぁ気楽にいこうぜ。」

「そうだな・・・!」



午前の授業が終わり昼休み、茶川さんに声をかける。


「茶川さん、ちょっといいかな?」


絵に描いたような驚いた顔だった。


「きゃっ!?な、何…かな…?」

「あ〜、急にごめんね。ビックリしたよね。」

「う、ううん。だ、大丈夫。です。」

「それで、茶川さんって部活とか入ってるの?」

「ぶ、部活なら私は写真部に、入ってるよ。」


茶川さんは恥ずかしそうに答える。


「へ〜写真部か。そんなのあったんだね〜。」

「うん。もしかして、興味あったりする…のかな…。あ、いや別になかったらそれはそれでいいんだけど、なんかこう、お話できるのが嬉しくてつい…って私何言ってんだろ!ご、ごめんね!」

「あ、いや、そんな慌てなくて大丈夫だよ。

 俺こそ急にごめんね。

 俺、部活とか入ってなくて、なんかいい部活ないかな〜って思っててさ。もうすぐ5月だし、入るんなら早くしないとな〜って。」

「そう、なんだ。」

「うん。でも写真か〜。なんか意外だったな〜、茶川さんはもっとこう、」

「じゃ、じゃあ!放課後。見学、してみる?体験入部。みたいな。」


頰を赤らめる様は年頃の女の子そのものだった。

彼女にとってはかなりの勇気が必要だったはずだ。

写真にはあんまり興味がなかったけど、その想いを無碍にはできない。

それに、これをきっかけに何かを見出すかもしれない。


「わかった。じゃあ放課後、よろしく頼むよ。」

「えっ!?あ、う、うん。わかった。」



ーーーーーーーー



放課後、茶川さんと一緒に写真部の部室に向かう。


「へ〜。こんなところにあったんだな〜。こりゃわかんない訳だ。」


写真部の部室は美術室とか、特別教室がある棟の1番上の階の1番奥の部屋。2〜3年前まで物置として使われていたらしく、教室の見た目はかなり古い。


「ごめんね、こんな古い教室で。毎日掃除はしてるからそんなに汚れてないと思うんだけど。」

「大丈夫だよ、気にしてない。それに古い教室なんだし仕方ないよ。」

「そ、そうだよね。」


部室の中は古びた机と椅子。棚には一眼レフカメラが何台も並べられている。

壁には部員が撮ったであろう写真が貼ってある。

壁の写真を眺めていたら茶川さんの名前を見つけた。


「(茶川能登子(さがわのとこ)…)この写真って茶川さんが撮ったの?」

「そ、そうだよ。」


花の写真。

下から花を見上げるように撮ってる。

一体どうやって撮ったんだろう。


「これってどうやって撮ったの?かがんで?」

「え?あ、あ~、かがんで、撮ったの。ちょっと恥ずかしかったけど。」

「へ〜。いい写真じゃん。なんか茶川さんって感じの写真。」

「そう、かな。なんか、そう言われると嬉しい。」

「でも、なんでかがんで撮ってるの?」

「それは、その、テ、テーマがあって。」

「テーマって?」

「あの、その。えーっと。」

「いいじゃん、教えてよ。」

「足元から見た、世界…。みたいな。恥ずかしいな〜。なんか。あはは〜。」

「足元から見た、世界…。良いじゃん!」

「ほ、ほんと!?」

「うん。普段の俺たちからは見えない世界だしね。」

「そ、そうなの!普段ならなんてことない景色でも、下から見てみると全然違って、気づかないことに気づけたりとか、色んな発見があって!それにこの世界は私しか知らないんだって思えて、!」

「好きなんだね。写真。」

「えっ!?あ、ごめんなさい!私ベラベラ1人で話しちゃって!」

「全然。聞いたのは俺の方だし。ありがとう。」

「どう…いたしまして…。」


茶川さんの様子から、本当に写真が好きなんだなと伝わってくる。

物静かで、あまり主張しない茶川さんがここまで夢中になるものだ。きっと何かあるんだろう。

俺がまだその魅力に全く気づいていないだけだ。やってみる価値はある。


「あのさ、写真部入ってみてもいいかな?」

「ほ、ほんと!?」

「うん。茶川さんみてたら興味出てきてさ。下手かもしれないけど、やってみようかなって。」

「じゃ、じゃあ!顧問の先生呼んで来るね!」

「うん。」



茶川さんが連れてきたのは古典の教師の牧里(まきり)。小難しいで有名だ。


「ふ~む。君が入部希望者か。」

「はい・・・」


何故睨む。


「カメラに興味があるみたいだが、触ったことはあるのか?」

「あ~・・・デジカメぐらいなら・・・」

「ふ~む。その程度か。」

「・・・すいません。」


わかってはいたがそういわれると中々に刺さる。


「それなら君の入部に一つ条件をだそう。」

「条件?」


入部条件だと?運動部じゃないんだ。なんでそんな必要があるんだ。

少し面倒だな・・・。


「条件は、写真を撮ってきて私に提出して認めさせること。テーマは『美しいもの』期限は1週間だ。」

「先生さすがにそれは・・・」

「なんだ?写真に興味があるならそれくらいやってみせてほしいものだ。これぐらいで逃げるような女々しい奴は、どこに行ってもこれから先通用しない。」


逃げる?女々しい?


今まで散々逃げてきたんだ。進もうとしてる今逃げてどうする?

女々しさを捨てるんだ。

俺は進む。


「わかりました。やってみます。」

「・・・そこの棚にあるカメラ、自由に使うといい。」

「はい。ありがとうございます。」


牧里はそう言い残して部室を出ていく。


「ごめんね、綱志君。牧里先生難しいところあるから。」

「大丈夫だよ。それに俺が綺麗だと思うものを撮ってくればいいんでしょ?意外と何とかなるかもしれないし。撮ってみるよ。」

「あ、あの。」

「うん?」

「わ、私も一緒に行っていいかな・・・?」

「勿論!色々教えて欲しいし。こっちからもお願いするよ。」

「じゃ、じゃあ早速撮りに行こう!」

「うん。」


一度も持ったのことないカメラを手に持ち、学校から出る。

いつもと同じ光景のはずなのに、今日は少し違って見えた。


一歩進んだ気がする、少し前に。


入部条件に出されたのは美しいものの写真を撮ってくること!?

しかも期限は三日!?

碧は牧里が認める写真を撮ることができるのか!?



遂に一歩踏み出した碧君。

彼はこの入部試験?で何を得て、何を知るのか!

次回をお楽しみに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一番最初にインパクトがある 主人公にとってきつい事実をつきつけられたが それに腐らず前に進もうとするところが好きです [一言] 難しい内容の文章ですし遅れた程度で怒ったりはしないですよねぇ…
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