#10
放課後。情報処理部の部室。
まず俺たちは果島やその周りにいる奴らのことを調べることにした。
どうやら果島は先輩達に逆らえず、女の子の手配とか色々こき使われているらしい。
柊が提案した。
「果島にいやらしいサイトのURLをメールで送るんだ。
そのURLにバックドアを仕込む。」
「バックドアって?」
よくわからない俺は柊に尋ねた。
「バックドアは、第三者がいつでもその端末、システムに侵入できるようにするウィルスだ。
これを使えば、果島のケータイは我々の物同然だ。」
竜胆が問いかける。
「本当にそんなことできんのか?」
「はっ!俺のことを舐めるなよ!」
啖呵を切った柊が果島にメールを送る。
一体どこからあいつのメールアドレスを仕入れたのだろうか。
まぁこの際細かいことは気にしないことにしよう。
「ふん。これだから馬鹿は!我々の思惑通り大きな魚が釣れたぞ。」
「うわ、まじか。柊お前すげーのな。」
竜胆の言う通りだ。
実は柊は凄いやつなのかも知れない。
「どれどれ、ほーう。なるほどなるほど。ふーむ。」
「どうだ?何かわかったか?」
「まぁそう焦るな碧。急いては事を仕損じる、だ。」
「お、おう。そうだな。」
なんだこいつ、難しい言葉使いやがって。
「どうやら、5/9に集まるらしいぞ。場所は碧が話していた廃倉庫みたいだ。」
「そうか。じゃあ決行はその日だな。」
「その日その場所に輩がいると警察に通報すれば、」
「待ってくれ、早瀬のことが心配だ。あんまり大事にして周囲にバレてしまうのは、」
「大丈夫だ。もう手は考えてある。奴らが持ってる早瀬つぐみに関するデータも全て消すつもりだ。」
「柊…お前…」
「ふっ。友に感謝するんだな。」
「なんか腹立つな。」
「なんだと!?」
この作戦はほとんど柊によって遂行される。
こいつは本当に何者なんだ…。
ーーーーーーー
5/9
作戦決行の日。
廃倉庫前に俺たち3人は待機していた。
「本当に上手くいくと思うか?」
「大丈夫だっつーの、なんとかなるって。」
「そうだ。俺たちは三本の矢。三人寄れば文殊の知恵だ。」
また難しい言葉を使ってやがる。
「おい、来たぞ。」
竜胆が輩達にいち早く気づく。
「おい果島〜!俺たち呼び出してどうしたんだよ。
また新しい女の子でも紹介してくれんのか〜?
ギャハハハハハ!!」
「え、呼んだの先輩達じゃないんすか?」
「は?お前がメールしてきたんだろ?」
「そうだぜ、果島。」
「え、いや俺そんなメール送ってないっすよ。」
「何言ってんだてめぇ。なめてんのか?」
輩達のケータイが一斉に鳴り出す。
「あ?なんだ?メール?」
「おい、なんだこれ、なんかカウントダウン始まってるぞ!」
「おい果島ぁあ!!なんのつもりだ!!」
「いや、知らないっすよ!俺のケータイもなってるんすから!」
輩達のケータイから爆発音が鳴る。
「おい、データ全部消えてんぞ。」
「どうなってんだよこれ。」
輩達が困惑している最中、俺たちが颯爽と姿を表す。
「おい、愚民共。お前達のケータイは全て初期化した。どこにもお前らのデータは残っていない。バックアップも削除しておいた。」
「おい、柊!あんま刺激すんなよ!」
碧が小声で注意する。
「ちっ、テメェの仕業かクソメガネ。」
「お前ら!?どうしてここに!?」
「よぉ果島。中学卒業ぶりか?」
「何しにきたんだよ!辰巳と綱志まで…!」
「見てわからんのか。お前らに鉄槌を下しにきた。」
「なにが鉄槌だ。おい、やっちまうぞ。」
輩達が一斉に襲いかかろうとしてきたそのときだった。
「おい待て。果島お前、さっき辰巳って言ったか…?」
「え、あ、はい。中学の同級生で。」
輩達がざわつく。
「辰巳?ってあの辰巳か?」
「おい嘘だろ、なんでこんなとこにいんだよ。」
「やべぇって俺たち殺されるぞ…!」
なんだこのビビりようは…?
「おい、竜胆。お前なにしたんだ…?」
「ん、別に。
あー、いや、待てよ、前、難癖つけてきたやつ返り討ちにしたことはあったな。」
「お前まじか。」
「いやぁ、向こうから先に手出してきたんだぜ?」
「おいおいこんなの勝てる訳ねぇだろ!
先輩!どうするんですか!?」
「ちっ!逃げるしかねぇだろ!」
輩達が逃げだそうとしたとき、外からサイレンの音が聞こえてくる。
「警察!?どうして!?」
動揺する輩達に碧が言い放つ。
「俺たちが通報した。お前たちのせいで一体どれだけの人が苦しんで、傷ついたと思ってる!あいつだって…!」
「なめた真似しやがって…!」
『警察だ!動くな!!』
十何人の警察が倉庫に入ってくる。
これでこいつらはもう自由には動けない。
「通報したのは君たちか?」
「はい。」
「どうして中に入ったんだ?君たちも危ない目に遭ってたかもしれないだろう。」
「・・・奴らが逃げたらいけないと、思ったので。」
「そうか。君たちの勇気は認める。
だが、時に勇気は無謀にもなる。よく考えて行動しなさい。」
「はい。すみませんでした。」
「じゃ、話は署で聞くから。」
パトカーに乗る直前、少し遠くに早瀬らしき人影が見えた。
「な、なにこれ。」
「(あれは、柊くんに竜胆くん…?
じゃあ、奥の人は碧くん…?)」
思わず声が出ていた。
「遅くなってごめん!もう大丈夫だから!」
「ん、なんだ?まだ関係者がいるのか?」
「いえ、独り言です。」
「そうか。」
「うそ…ほんとに…。どうして…。」
ーーーーーー
取り調べは親同伴の元、深夜まで続いた。
特にお咎めなしとなったが、親と警察、両方からこっぴどく叱られた。
帰りの車内。
父親が口を開く。
「おい、碧。本当はどうしてこんなことしたんだ?」
「・・・助けたい人がいた。
そいつは見かけるたびに苦しそうで、放っておけなかった。」
「そうか。助けたい人がいたか。
懐かしいなぁ。父さんも昔はそんな時期があったなぁ。」
母が口を開く。
「懐かしいわね、紅太郎さん。」
「あぁ、そうだな白奈。」
「え、なんの話?」
「いやー、いいんだ。聞かなかったことにしてくれ。
はっはっはー!」
「おい誤魔化すなよ!」
ーーーーーー
次の日。
学校でも先生に叱られ、クラスメイトにからかわれて大変だった。
茶川さんには「優しい顔に戻った。」って言われた。
確かに、前よりは気分が良い。スッキリした気がする。
1日を無事に終え、帰路につく。
いつもと違う道を通った。寄り道をしようと思ったんだ。
早瀬に会って、話してから帰ろうって。
この選択が正しかったのか、間違えていたのかは俺にはわからない。
ーーーーーー
早瀬の家の近くにつくと何か騒がしい声が聞こえる。
中年男性の声と女子の声。
女子の声には聞き覚えがあった。
「もう!離してよ!触らないで!」
「なんだお前!俺に逆らう気か!」
「もう!離して!!」
「俺がいないと何もできないくせに!逆らったらどうなるか思い知らせてやる!こい!」
「もうっ!やめてっ!!」
「おい!離せよ!」
俺は気づいたら2人の間に割って入り、中年男性の手を掴んでいた。
「なんだお前は!どこの誰だ!
・・・さてはつぐみの彼氏か?」
「(つぐみ…?)そ、そんなんじゃない!とりあえずその手を離せ!」
「なんなんだお前は!部外者なら引っ込んでろ!!これは親子の問題だぞっ!!」
「(親子!?こいつが早瀬の父親なのか!?やってしまったのか!?
いや、でも早瀬があの時と同じような苦しい顔をしてる。
何があったかは知らないけど、とりあえず早瀬を守らないとっ!)」
「碧くん。どうしてここに…!」
「そんなの今関係ないだろ!一体何があったんだよ!」
「そ、それは…!」
「お前、彼氏のくせに知らないのか!はっはっは!!」
「??一体何のことだよ…!」
「こいつはなぁ!俺の性処理道具なんだよっ!
何も知らずにこいつと過ごして楽しかったか?幸せだったか?
これだから世間知らずのガキは!俺が大人の世界ってのを教えてやるよ!」
咄嗟にというか、気付いたらというか。
俺は早瀬の父親を殴り飛ばしていた。
初めて本気で人を殴った気がする。
こんなに手が痛いのか。
「てめぇ、ふざけてんじゃねぇぞ…。」
「碧くん…」
「お前が早瀬にどれだけの苦しみを与えたわかってんのか?
早瀬がどれだけ苦しい思いをしたと思う?答えてみろよ。」
「お、おまえ!大人にこんなことをしてどうなるかわかってんのか!」
「知らねぇよそんなこと。早く答えろよ。」
「くっ!!何が苦しみだっ!本当は楽しんでたんだろ!
俺にはわかるぞつぐみっ!!そうだろっ!!」
「意味のわからねぇことを言ってんじゃねぇ…!」
早瀬の父親に馬乗りになって顔を殴った。
何回も殴った。
俺の手が青く腫れ上がるぐらいに殴った。
何回殴ったかもう覚えてない。
相手の顔が血でグチャグチャになるぐらい殴った。
俺の手も血で真っ赤に染まってる。
「み、碧くん!もうやめて!」
早瀬の声で我に帰った。
「くそっ…くそっ…!なんでこんな奴が!こんな奴がっ!!」
パトカーのサイレンの音が聞こえる。
きっと近所の人が通報したんだろう。
「碧くん…ごめんね。私のせいで。」
「いいよ。早瀬は何も悪くない。」
「昨日のだって、私のためにしてくれたんでしょ?」
「・・・まぁ、そんなとこかな。」
「ごめんね…ごめんね…」
早瀬が泣き出してしまった。
いつかの早朝を思い出す。
あのときは何故泣いていたのか分からなかったけど、今は全ての点と点が繋がった気がする。
警察が到着して、パトカーから降りてくる。
「酷い有様だな、少年。」
「昨日の…」
「君がやったのか?」
「・・・はい。僕がやりました。」
「そうか。話は署で聞かせてもらう。」
「はい。」
警察官が早瀬の父親に向かって言い放つ。
「早瀬正造さん、貴方に強姦及び虐待の容疑で逮捕状が出ている。
あなたも署まで来てもらう。
まだ意識はあるだろう。立たせろ。」
警察官が部下らしき人物達に指示を出す。
「さぁ、いくぞ少年。」
「あ、あの私は…?」
早瀬が警察官に問いかける。
「君はもうすぐ着く別の者が保護する。もう少し待っててくれ。」
「わ、わかりました。
か、彼は、碧くんは、どうなるんですか?」
「・・・彼のしたことはれっきとした犯罪だ。
未成年だからそこまで重いことはないだろうが、それ相応の償いはしてもらうことになるだろう。」
「そう、ですか…。」
「気にすんなって言っても無理、だよな。ははは。」
「碧くん、私…」
「早瀬を苦しめる奴らはもういない。
大丈夫だ。ちゃんと帰ってくる。」
「うん…私、待ってるから…!」
「あぁ。」
「少年、行くぞ。乗るんだ。」
俺はパトカーに乗せられて警察署に向かう。
車窓から座り込んで泣く早瀬の姿が見えたーーー。
遅くなってごめん。
でも、もう大丈夫ーーーー。
碧くん、やっちゃいましたね。
でも、これで早瀬さんを苦しめる人はもういません。
もう、大丈夫でしょう。