#1
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俺の青春はあの日から止まったままだった。
動こうにも動けない、いつ動けるのかもわからない。
止まったままの『青春』。
"青い春"だなんてよくいったものだ。
動かない、止まったままの青春は、灰色だった。
---1年前。中学3年生。14歳の梅雨。
ここ4日間、雨が降り続けている。
通学路には紫陽花が咲いていて、灰色の空に反抗するように街を彩っている。
「おはよう、碧君!」
今俺が想いを寄せている同級生の早瀬だ。
可愛い声でおはようと言われるだけで元気がでる。
湿気と雨のせいか、毛先がちょっと湿ってて、濡れたブラウスが少し透けていて、妙な色気があった。
「おはよう早瀬。」
「梅雨っていやだよねぇ~。湿気で髪の毛はねるし、ジメジメしてるし、気分も落ちちゃう。」
「確かに。早く終わってほしいよな。俺は頭が痛いよ。」
「あ~、なんか気圧の変化で頭痛くなっちゃう人いるってテレビで聞いたことある!」
こんな他愛もない会話をしてる朝のちょっとした時間が日々の支えになってる。
「まさにそれだよ。6月なんて別になくてもいい気がする。」
「でも、碧君は良いこともあるでしょ?6月。」
「いいこと?」
「そう!」
「え、何・・・?」
「誕生日じゃん!6月6日」
早瀬が俺の誕生日を覚えてるなんて思ってもみなかった。
「あ、あ~そういえばそうだったな。あはは~」
「自分の誕生日忘れるなんてほんとにあるんだね~。私初めてだよそんな人。」
「あはは~」
「碧君てちょっと抜けてるんだね。」
上目遣いで顔を覗いてくる早瀬はとても愛らしく、鬱屈とした6月に咲く紫陽花のようだった。
そうこうしているともう校門まで来てしまった。俺と早瀬がまともに話せる時間は下駄箱までのたったの60mしかない。楽しい時間はあっという間に終わる。
「じゃあね碧君。」
「おう。」
楽しい時間が終わるのが惜しくて、つい強がってしまって、いつもそっけない返事をしてしまう。
でも、今日はなんだか言える気がする。多分良いことがあったからだ。
少しでも俺のことを覚えていてくれたから。全く興味をもたれていない訳じゃないってわかったから。
言える気がする。
「は、早瀬…!」
「ん?何?」
「あ、あの、今度、一緒に帰らない?」
緊張して声が裏返った。死ぬほど恥ずかしい。
返事を聞くどころじゃない。今すぐこの場を離れたい。
「いいよ!じゃあ今日一緒に帰ろうよ。」
「え?まじで?」
「うん。」
「そ、そっか。じゃあ、放課後校門集合で。」
「うん!じゃあまた放課後に!」
「お、おう。」
早瀬と一緒に帰れる。
あの早瀬と一緒に。
まだ授業も始まっていないけど、今日は良い日だ。
そんな気がする。
なんだか落ち着かない。授業も耳に入ってこない。
一体どれだけ浮かれているのだろう。俺はわかりやすい男だ。
4時間目の終わりをチャイムが告げる。
みんなが購買にいったり教室で弁当箱を広げる。
しかし、俺は弁当を持ってあるところに向かう。
部室棟にある野球部の部室だ。
昼休みに部室棟に集まるような奴らは大体地味な奴らだ。
教室に居場所がないから俺たち地味な奴らはここに来る。
平和で静かで頭の悪い連中はいない。この場所は割と気にいってる。
「おい遅いぞ碧!何をしていたんだ!一体俺たちがどれだけ待ったか。」
「おい柊、そんなに待ってないだろ。俺たちもさっき来たところだ。」
友達の辰巳竜胆と柊要だ。
坊主頭の背の高い、いかにもいい奴そうなのが竜胆で、眼鏡をかけた胡散臭い直毛の奴が柊。
二人とも大切な友達だ。
竜胆が野球部で部室の管理を任されていることをいいことに俺たちは割と好き勝手に使っている。
「相変わらずめんどくさい奴だな~。」
「めんどくさいとはなんだ!遅刻魔め。」
「あ~俺が悪かったよ。ごめんごめん。」
「なんだその謝り方は!これだから悪魔の子は!」
「はぁん?誰が悪魔の子だよ!オーメンなら6が一つ足りないだろキモロン毛!」
「キ、キモ…!?俺の髪はキモくない!この髪は直毛至上主義の中でもトップクラスのキューティクルをだなぁ!!」
「まぁまぁ早く食べようぜ」
竜胆が俺と柊の小競り合いを止めてくれる。いつもの流れだ。
「竜胆に免じて今日はこれくらいにしてやる悪魔の子め!」
「はいはいわかりましたよキモロン毛さ~ん」
「な!まだやる気か!」
「まぁもういいじゃん。
あ、碧、そういえばさ、」
「ん、どうした?竜胆?」
「さっき、こないだ碧が言ってた、誰だっけ、え~と、はやせ?かな?その子見たよ。」
「え!?どこで!?」
「ここ」
「ここって、部室棟…?」
「おう」
早瀬が部室棟に?どうしてだ?
早瀬はカーストでは上の方にいるはずだ。こんなところに来るような奴じゃない。
一体何をしにここに?
まさか・・・
「だ、誰か一緒にいたのか?」
「あぁ。男と一緒だった。多分バスケ部の果島だと思う。顔ちゃんと見てないけど。」
「は、果島ってあの・・・?」
「あぁ。あの果島だ」
「果島・・・。あの頭に陰毛を生やした下らない男か。股間に脳があると噂になってるぞ。」
柊の言う通りだ。
俺たちの学年で一番といってもいいぐらいの女たらしだ。
節操なく、手当たり次第に手を出してるとかなんとか。
泣かされた女の子も多いらしい。
そんな奴と早瀬が何で?
嫌な予感がする。
「なぁ竜胆。二人は今どこに…?」
「多分バスケ部の部室だ。」
「・・・え〜、2人付き合ってんのかな…?」
「う〜ん、そう言われたらそうな気もするし、そうじゃないと言われたらそうじゃない気もするな。」
「おいおい、なんだよそれ…どうしたらいいんだよ…」
「ん〜、聞いて確かめるとか。」
「確かめる?2人は付き合ってますか?って聞くのか?!」
「まぁ今じゃなくても良いと思うけど。」
「え〜、ちょっとどうしたらいいんだよ…。」
黙っていた柊が口を開く。
「碧、お前は男だろう。」
「はぁ?当たり前だろ…?」
「そう、当たり前なんだ。
なら話は早いだろう!男なら!男らしく!ドシっとバシッと聞いてこい!」
「柊…お前…そんな一面があったんだな…。」
竜胆が柊の意外な一面に感心する。
「・・・よし、決めた。行くよ。
なんかこのままじゃ後悔しそうだし。何もないならないで、それでいいんだ。」
「大丈夫か?無理に今行かなくてもいいんだぞ?」
「いや、今行く。」
「そうか。なら俺たちも行こう。なぁ竜胆。」
「・・・そうだな。俺たちは見守ってよう。」
「ありがとう。二人とも。」
確認するだけ。
2人が付き合っているのか確認するだけ。
ドアを開けて聞くだけだ。
バスケ部の部室は三階。俺たちがいるのは二階。
部室棟の屋上には何回も上がったことがある。三階なんて屋上までの通り道だ。
一つ階を上がるだけ。
いつも駆け上がる階段が、今この瞬間は一歩が、一段が重く感じる。
「がんばれ碧。果島なんか殴り飛ばしてやれ!」
「殴ったらダメだろ~」
「殴るって俺一体どんな奴だよ。でも、それぐらいの気持ちでいくよ」
「おう。頑張ってこい。」
階段を上る。一段一段上るたびに息が苦しくなる。
嫌な予感がする。
雨が強くなって周囲の音をかき消しているのに今更気づいた。どれだけ緊張して周りが見えてなかったのかを実感する。
嫌な予感がする。
階段を上りきった。あとは部室まで歩くだけ。
嫌な予感がする。
一歩ずつ、静かに進んでいく。
何をコソコソしているのか。
今から二人のところに乗り込むというのに。
この雨だ。普通に歩いても音なんて聞こえないだろう。
嫌な予感がする。
部室の前についた。あとはノックして、ドアを開けるだけだ。
中から何か声が聞こえる。
きっと果島にしつこく口説かれているんだろう。
助けてあげなきゃ。
あとはドアを開けるだけ。ドアノブに手をかける。
嫌な予感がする。
嫌な予感がする。
雨の音が止む。
いや実際には止んでいない。そう感じただけ。
声が聞こえる。息遣いの荒い声だ。
甘い綿菓子のような、ねっとりとした声が聞こえる。
へばりついて離れないガムのような、粘着質な声が聞こえてくる。
少し考えればわかることだった。
俺たちが色々話している間も二人はずっと部室にいたんだ。
考えればわかる。二人の関係なんて。
嫌な予感がしていたのに、気づかないようにしていた。
きっと俺は知るべきじゃなかった。
知らない方が幸せだった。
(あぁっ!)
大きな声だ。
(ばかっ!声でけぇよ!)
はっきり聞こえた。
きっと少し後ろにいる二人にも聞こえただろう。
考えれば、わかることだった。
二人がそういう関係だったことなんて予想できたことだ。
俺たちが、いや俺が思っているより世の中は汚かったみたいだ。
「おい碧!」
聞こえない。
「何してんだこっちこい!見つかるぞ!」
聞きたくない。
「たくっあの野郎!柊は人来ないか見てろ!」
「え?あ、あぁわかった。」
何も聞きたくない。
「おいしっかりしろよ碧!気持ちはわかる。でも今は下に降りよう!」
竜胆に手を引かれて、気づいたら下の階にいた。
「二人ともごめん。俺…」
「あぁ、俺たちも聞こえてた。」
「あの時行かせるべきじゃなかった。軽率なことをした。すまない。碧。
こんなつもりじゃなかった…」
「いや、いいんだ。多分こういう運命だったんだ。最初から。」
「「・・・」」
あまりの空気の重さに二人とも黙ってしまう。
当たり前だ。こんな空気で話せるほうが凄い。
予鈴がなる。昼休みが終わる。
「もう~、ギリギリじゃ~ん」
「そんな怒るなって~!」
二人の声が聞こえる。
今一番聞きたくない奴らの声だ。
今朝はあんなに可愛い声だったのに。
今は薄汚れた、汚い声に聞こえる。
6月3日。
俺の青春が止まった日。
胸の中に咲いたのは灰色の何かだった。
少し重たい、生々しい人間模様を書きたかったのでずっとこんな感じです。
書いててちょっとしんどいですね・・・頑張りましょう。