ガイア編
太陽系から遠く離れた“リ・ザ・サン星系”
ここには地球と酷似した環境を持つ五つの惑星と木星に似た四つの惑星それぞれに人類が生 きていた。その中の一つ“惑星ガイア”には魔法文明が栄えていた。
世界を揺るがす事件は“惑星ガイア”から始まった・・・
星天暦3015年ガイアの半数を支配するアポロン帝国がガイア統一へ向けて進撃を開始した。それに反抗する者達は互いに協力し反アポロン帝国組織A・A・E―アンチ・アポロン・エンパイア―を築き上げた。アポロン帝国とA・A・Eの戦いは熾烈を極め両勢力の半数の戦力を失ったにも関わらずまだ戦いは終結しなかった・・・
星天暦3016年7月エンベルト島に位置する中立国家アール王国では一年に一度行われる魔術カーニバルが開催されていた。アール王国は魔術に力を入れていて、ガイアでも有数の魔術国家であった。この日この国で起こった事件が“リ・ザ・サン星系”の運命を左右する事になるとは誰も知らなかった・・・
―アール王国―
「おーいリュミン。始まっちまうぞー。」
今叫んでいるのはリュミンの家の近くに住んでいるカールである。カールはリュミンの幼なじみで今でも仲が良い。
リュミンの家の中ではお母さんが階段を上がりながらリュミンに声をかける。
「リュミン、カール君が迎えに来たわよ。早く行ってあげなさい。」
リュミンは着替えながら
「今着替えてるとこー。もうすぐ行くー。」
と返事した。
大急ぎで着替えたリュミンは階段を走りながら降りていく。
何かが落ちた音がした。お母さんが見るとリュミンが階段を踏み外して落ちてきたのだった。幸いにも怪我は無かった。リュミンは笑いながら家を出て行く。
「お母さん、行ってきまーす。」
リュミン・レイト。彼は髪は茶色で肌は白い。小柄でおとなしい性格だ。リュミンの友だち、カールは黒髪で少し肌の色が黒い。日焼けでもしているのだろうか?リュミンに比べればがっちりとした体つきで何事にも積極的に取り組もうとする。
そんな二人は城下町を歩いていく。
「やっと着いたぜ。パレードはどこで始まるんだ?」
とカールは背伸びをしながら呟いた。
「今何時だ。」
リュミンはそう呟きながら近くにある時計を見て慌てた。そうもうすぐ始まってしまうのだ。
その時アナウンスが流れた。
『さあーパレードの時間がやってまいりました。パレードを観覧する方は急いで中央広場へ集まって下さい。もう一度繰り返します・・・・・』
「中央広場だって。行こう。」カールはリュミンに話しかけた。
「走る?歩く?」
カールに尋ねた。
「当然走るだろ。」
カールがそう言ったとたん二人は走り出した。魔術サーカスのテント、魔術商店、魔術星占術テントを通り過ぎて行くと噴水のある中央広場にたどり着いた。広場にたどり着いた二人は人ごみの中に入っていく。賑やかだった。二人が席に座って少しして司会者がパレードの開始を宣言した。
『いよいよ始まりました。パレードの時間です。ではまず国王陛下と来賓の方々の紹介です。アール王国第七国王セプテン・アール様。アール王国最高評議会議長イステル・ファント様、アール王国国防部隊隊長エリー・グレイ様、アール王国第一王子リック・アール様、アーミン王国外交大使ゼラー・リー様。これにて来賓の紹介を終えます。続いて国王陛下のお言葉です。』
「私はアール王国第七国王セプテン・アールです。今年我がアール王国は建国150周年を迎えました。今日は記念すべき100回目の魔術カーニバルです。皆さん満足するまでお楽しみください。」
まもなくパレードが始まった。にぎやかな電飾を施されたパレードカーが陽気な音楽と共に進んでいく。先頭の車両に国王が乗っていた。がその国王がいきなり倒れた。
国王が撃たれたのだ・・・
会場は寂寞とした。だがその寂寞もすぐに終わった。
「皆のもの静かに。今よりこの私イステル・ファントが志半ばで倒れた国王陛下に代わってこの国を支配する。」
席から立ちパレードのコースから離れる二人。二人は目の前に人がいるのを確認した。
アールの王子リックとアーミンの大使ゼラーがいた。カールを見たゼラーは
「あなた方もこちらへ。」
とカールに声をかけた。
「何ですか?」
カールは不思議そうに聞いた。その後にゼラーがこう言った。
「あなたの顔に見覚えがある・・・確かアーミンの・・・シャリアさんの息子か!!」
「そうだが・・・」
何故母の名前を知っているんだ?カールはさらに考え込んでしまった。
「では来てくれないか。君に来てもらわなければならないんだ。」
「分かった。行こう。」
カールは承諾した。
―アポロン帝国 皇帝の間―
「我々ガイアの民の運命は・・・この戦いに勝利しなければガイアの民は・・・おろかな者たちはこの事実も知らずに戦いを挑むなど・・・あの予言を変えなければ、未来は我々の手で切り開いていくのだ!!」
5年前・・・
「カール・・・私はアーミンに残るけどあなたはあの人と暮らすのよね?」
「うん。お母さん。」
「元気でね・・・」
カールの両親はカールが10歳の時に離婚していた。母親はアーミンに残ったが父親とともにカールはアールへ移住した。それから2年後母親はゼラーの息子と結婚した。その1年後父親は病に倒れ返らぬ人となった。
そして今・・・
―アーミン王国―
「国王陛下、アール王国がアポロンの手の者によって略奪されました・・・」
「それはまことか・・・ゼラーはっ・・・リックはどうした。」
「ゼラー大使は生きております。リック王子とともにアーミンに向かっております。」
「アールの国王は・・・」
「それが・・・」
―アール近郊―
カールとゼラーはみんなから離れて近くを流れる川の岸に座り込んだ。ゼラーはなんだか懐かしい気分になった。
「母さんはどうしているんです?」
「カール君、君のお母さんは私の息子と結婚した。話で聞いていた通りだ。君のお父さんに似ているな・・・」
ゼラーはカールに語りかけた。
「父を知っているんですか?」
「ああ・・・君のお父さんとは幼馴染でなもちろん君のお母さんともだ。」
「あなたが・・・父がもう一度会いたいと言っていたゼラーさんだったんですか。名前は聞かされてなくて・・・」
「おや?君が小さいころにあった事があるじゃないか。」
「え・・・まさかあの時の・・・あの時はあなたの毛がフサフサだったから・・・」
「な・・・なんてことを言うんだねきみはっ!!まあ・・・いいが・・・」
そんな話をしていると遠くから声が聞こえた。
「おーい二人ともー行くぞーー。」
リックが叫んだ。二人は同時に立ち上がりリック達の方に走った。両親の過去を知ったカールはなんだかゼラーに対し親近感が沸いてきたように思えた。またゼラーも二人の面影のあるカールが懐かしく感じていた。ついさっきあったばかりなのに・・・ずっと前から知っていたような・・・そんな気持ちに二人は支配されていた。
―アポロン帝国―
「イステルはうまくやっているか?」
「まずまずといったところです。」
「さて・・・これからどうなるかA・A・Eの動きも・・・あの予言を現実のものにしてはならないというのに・・・愚かものどもが・・・」
―アール近郊―
夜になりリュミンたちはどこか泊まれるところを探していた。リックが声を出した。
「あれはなんだ?」
みんなで近づくと小屋だった。灯りは点いていて誰かが住んでいるようだった。
ゼラーがドアを叩きながら
「ごめんください・・・」
と言った。
だが返事がない。少し待ってみた。すると5分ほどたってから中から人が出てきた。
「何事じゃ・・・用が無いなら帰ってくれ。」
ひげの生えた白髪の老人が家から出てきてそう言った。
「泊めて欲しいんですが・・・」
「ほう・・・泊めて欲しいとな・・・お前達から何かを感じた。ガイアの英雄の再来と。見た所宿無しの子供・老人にしか見えんな。」
「英雄?そんなことがあるはずが無い。俺たちはアールから来たんだぜ?英雄は今アポロン帝国がある北メアリー大陸とオストラ大陸に旅立ってそこで子孫に世界を託したんだろ?おかしいじゃないか。」
カールは否定した。
「英雄の子孫がここエンベルトに来たとは考えられんか?」
「そ・・・それは・・・」
「そのうち自ずと分かってくるだろう。ガイアの運命を背負っていると・・・まあ今日はここに泊めてやる。」
―A・A・E本部―
「アポロン帝国にアールが侵略された。このままではアーミンもすぐに陥落してしまうだろう。そこでだ、我々はアーミンにA・A・Eへの参加を要請及び防衛部隊の派遣を検討している。異議のある者は?」
「俺たちはアポロン帝国に反抗しているんだ。アポロンの奴らにどこかが狙われたら部隊を派遣し防衛する。そう決まっていただろ。」
「ああ。我々の戦いには意義があるのだという事をアポロンに見せ付けるためにもアーミンに部隊を派遣しよう。」
―アポロン帝国―
「皇帝陛下、A・A・Eがアーミンへの部隊派遣を決定したようです。」
「予想通りだな・・・グレゴリアの準備はどうだ?」
「はっ、グレゴリア準備できております。主力艦隊及び随伴艦隊の出撃準備も順調です。」
「よしっ、A・A・Eとの交戦中に私がグレゴリア艦隊を率いてここを飛び立ちメディスへ向かう。私が居ない間、ロジュナ将軍にガイアを任せる。」
「了解しました。メディスのトークナー王家に連絡いたします。」
―A・A・E―
「どうやらエンベルトで決戦になりそうだな。」
そう言ったのはA・A・Eの総司令官レイヤー・マケット。
「マケット、宇宙へ艦隊を上げるべきだと思うんだが・・・」
「ああ、メディスの高水準機械製造技術を手に入れればアポロンとも対等に戦えるな。エンベルト決戦が終わってから向かうとしよう。」
「マケット、俺たちはアポロンから奪取したアークとか言う艦に乗っていくんだろ?」
「ああ。そうするつもりだ。で、そのまま宇宙へドーンってわけ。」
「落とされないようにしないとな?」
「そうだな。」
―アーミン―
「A・A・Eが我が国に防衛部隊の派遣を行うとのことです。」
「なにっ・・・まあアールを救うには必要な事だ。A・A・Eには了承したと伝えておけ。」
「はいっ。」
―東の森―
「ここを抜ければアーミンだ。」
ゼラーはそう言った。
少し歩いていくと木が減ってきて町が目の前に広がっていた。
―アーミン―
「私だ。ゼラーだ。」
ゼラーは城下町の閉め切られた門に向かって声をかけた。
「ゼラー様なのですか?ゼラー様ー。」
門が開いて兵士が一人出てきた。名はトミー。トミー・クライ。彼はゼラーの息子ヒューノの友人であり小さい頃からゼラーに息子のように可愛がられていた。
「おおトミーではないか。」
「ゼラー様、ヒューノ様をお連れしましょうか?」
「いや、いい。あと『様』をつけるのは止めてくれ。出来れば『さん』で呼んでくれないか?」
「はい。ゼラーさん。お城へ行くんですよね?お連れします。」
トミーが先頭を歩きゼラーたちを城へ誘導する。
レンガで出来た家、コンクリートで固められた家、木で出来た家。そんな家が城下町には広がっていて、レンガで出来た家の地区をリュール地区、コンクリートで出来た家の地区をメレン地区、木でできた地区をモクウド地区と呼んでいた。城はリュール地区を越えた所に在る。しばらく歩いていくと城が見えてきた。レンガで出来た大きな城はまさに城塞と呼べるものだった。城門の近くは厳重に警備されていた。警備兵が5人、騎士団の旗を掲げて警備していた。
「ゼラー様が帰られました。」
トミーは警備兵に伝えた。
すると警備兵達は黙りながら敬礼していた。
一行はトミーに連れられて国王の間に案内された。
「国王陛下、ゼラー只今戻ってまいりました。リック王子も一緒にいます。」
ゼラーは国王に話しかけながらリックを前に出した。
「国王陛下!!父上は・・・」
リックは泣きそうになりながら話した。
「恐らく・・・心配するな!!私が君を支えてやろう。」
国王はリックの肩をトンッと叩くと微笑んだ。
「ところでゼラー。実はなA・A・Eがアポロンと戦闘を行うかもしれんのだ。それもこのエンベルトで!!無論我々はアール国王を殺したアポロンと敵対する事になる。つまりA・A・Eに参加するという事だ。そこでゼラー、お前にはA・A・Eがアポロンから奪取したアークという艦でリック王子と共に宇宙へ逃げて欲しいのだ。リック王子はアールの忘れ形見、アポロンからは命を狙われているはずだからな。」
「後ろにいる者たちも一緒でよろしいでしょうか?」
ゼラーは一度後ろを向きリュミンたちの顔を見てまた国王の顔を見た。
「良かろう。行ってくれるのだな?」
「はい。当然です。」
「リック王子と後ろの者たちの命・・・お前に預けたぞゼラー。」
国王の間を後にしたゼラーたちは城の中庭に居た。
それと時を同じくしてA・A・Eのアークがアーミンに着いたとの報告があった。
その報告を受けてゼラー達はアークへと乗り込んだ。
―エンベルト平原―
ここはエンベルト島の中央に位置する広大な平原。岩はほとんどなく見渡す限り緑の草に覆われていた。
星天暦3015年5月19日―
この日ガイア史上第3の戦争が始まろうとしていた。アポロンとA・A・E両軍の部隊が集結した。そして今!!戦いが始まろうとしていた・・・
―アポロン帝国 艦隊基地―
「グレゴリア艦隊、発進準備OKいつでも出れます。」
整備士の男が言った。
「グレゴリア艦隊、目標メディス。発進!!」
グレゴリアの艦長オードル・レ・ビュールが大声で叫んだ。
その後3・2・1のカウントダウンの後グレゴリア艦隊は続々と飛び立っていった。
―アーク―
「エンベルト平原で戦闘が始まったらしい。」
そういったのはリュミンであった。
それを聞いてカール達はアークの飛ぶ空の下に広がるエンベルト平原に目をやった。
―エンベルト平原―
カール達が上空から見ているエンベルト平原・・・
ここではA・A・Eとアポロン帝国の主力部隊が結集しガイアの覇権を賭けた戦いが行われていた。アポロン軍総数550万、A・A・E総数350万・・・数の面ではアポロンが圧倒していた。
両軍の歩兵、騎士、騎馬兵が入り乱れて戦い、次々に人が死んでいく。指揮官を失った部隊は敵に降伏したり、脱走したり、自決したりした。人が・・・命が・・・消えていく。悲しみだけが広がっていく。突如上空に黒い雲が現れた。黒い雲が悲しみを吸収して大きくなっていく。その雲がエンベルト全体を包んだ時、事件は起こった。空から無数の稲妻、雷が地上に降ってきたのだ。両軍の兵士は一人残らず雷に飲み込まれ姿を消した。アークは最大加速でエンベルト上空を離脱した事で難を逃れることが出来た。黒い雷雲は戦いが終わりすぐに消えていった。アポロンもA・A・Eも事態を把握する事ができなかった。ただただ世界は混乱へと進んでいくのだった。
グレゴリア艦隊、アークがガイアを離脱して数日が経った。エンベルトでの戦いの処理も終わり混乱は少しずつだが収まってきていた。ガイアは未だアポロンとA・A・Eに分かれて対立を続けていた。
「ふっ・・・これが愚かな人間達のすることなんだろ?ガブリエル。」
「そのようだな・・・人間は何のために生まれてきたんだ?戦うためだけに生まれてきた!!そんな野蛮な種族は僕らが始末しなくちゃね。そうだろ?ラファエル。」
「ガブリエル、ラファエル、ミカエル・・・その時はすぐに来る・・・」
「ウリエルの言うとおりだよ。もうすぐだ。」
彼らの正体は?ガイアは、リュミン達はどうなってしまうのか?更なる災いがリ・ザ・サン星系を襲う・・・