9話
馬車を降りてから3日、人目を避けて行動したのでようやくアードックに着いた2人。
初めて訪れる街に警戒しつつもどこか浮き足立っている少年に対してフードを被った男はこの街の人間全てが敵だと言わんばかりの敵意を薄く薄く自身を中心に周りへと放っている。常人には分からないがある程度の鍛錬を積んだ者であればこの男には関わってはいけないと理解させるには十分なほどではあった。
そのおかげか2人に絡んでくるような輩はおらず安全に街の宿へとたどり着いた。
先日空に浮かんだ仇敵の言葉により人混みではより一層の警戒をしなければいけなくなっていた。宿の部屋へ入り一息ついた所で周囲に放っていた敵意を止めたが自分たちに近づいて来る者があれば分かるように索敵は怠らなかった。
そんな男の顔を少年が何か言いたそうに見つめていた。それに気づいてどうかしたのか?と問うと初めての街なので色々見て回りたいと言うが自分たちの置かれている立場を考えると人混みに入っていくのは賢いとは言えなかった。仮にも賢しこき者と呼ばれる男にとっては少し頭の痛いお願いであった。
しかし、この街で先代の勇者の情報を集めなければならないのも事実であり重い腰を上げて
「取り敢えず飯屋へ行こう。この3日ロクな物を口にしていないからな。」
そう言って街の飯屋を目指して2人は宿を出るのであった。
飯屋を見つけ適当に注文をし腹を満たす。
「さて、先代勇者さまとやらはどこにいるのか。確か街のはずれで隠居をしていると言っていたな。とりあえず街の奴らに聞いてみるか。」
そう言って最初の青果店で聞き込みをするといとも簡単に場所が分かった。どうやら街の東にある森の中にそれと思われる爺さんがいるらしい。早速向かおうとすると店のオヤジの一言が二人の足を止めた。
「ただあの爺さん相当な変わり者で街の人間ともほとんど交流がないしよく問題も起こすんだ。あんな爺さんに用事があるなんてあんた達も変わり者だね。」
まぁなと返してから礼代わりににリンゴを2つ買って齧りながら言われた森へと向かうのであった。
街の東側にはダイダロス山脈が高々と聳えその下には陽の光も当たらないような深い森が広がっていた。
「この中からお爺ちゃんを探すの?」
どこか諦めの混じった顔でそう言うアルに対して
「大丈夫だ。先代と言えど勇者なんだ。その魔力を探れば迷いはしないさ。」
それを聞いたアルは祖父に会えるという喜びが優ったのかじゃあ早く行こうよ!と急かすのであった。
そして森に入った瞬間に違和感を感じた。
(かなり薄いがこれは・・・ 結界か。成る程随分と用心深い爺さんのようだ)
どうやら目当ての人物は森の中央にいるらしく森の中を目的地を目指して進むが、中心に近づくにつれて霧のようなモノが出てきた。
この霧のようなものに目的の爺さんと同種の魔力を感じるので探している人物の正確な位置の把握は難しくなった。それよりもこの霧は自分達を敵とみなしての攻撃と考えていいだろう。
「ミリオ、俺から決して離れるなよ。どこから何が来るか分からんからな。」
流石にこれだけ同種の魔力の中では索敵など意味をなさないので敵からの強襲に備えて防護の魔法を3重に張る。敵に悪意があろうがなかろうがこの子の無事は確保しなくてはならない。
そんなことを考えながらさらに奥に分け入っていると頭上の霧が少し揺らいだ気がしたので上を見上げると、この立ち込める霧とは別種の魔力が頭上から降ってきた。
身の丈に合った長さの剣を俺目掛けて振り下ろしてくる姿が目視でも確認できた。
が、所詮は普通の剣戟である。杖で弾き返し襲撃者が反動で膝をついている。こいつを捕らえて目的地までの案内をさせようと相手が態勢を立て直す前に魔法で拘束し襲撃者に近づく。
そしてその姿を見た時に思わず漏れた。
「子供?」
「誰が子供だ!おれは先生の1番弟子のフランだ!お前ら先生を殺しに来た魔王の手下だろ!人間に化けても俺には分かるぞ!」
そうまくし立てる目の前のフランという少年に
「いや、俺達は今の・・・という言い方は良くないか俺達は先代勇者つまりこの森の主人の息子の仲間だ。勇者から託されたこの子を無事に祖父のところへ連れて行きたいのだが案内をしてくれないだろうか?」
出来るだけ敵意のないよう好意的に話すが
「そんな事信じられるか!この前空に魔王が出てきて以来先生の命を狙って来る奴らが増えたんだ!お前らだってそいつらの仲間だろ!」
全くこちらの言い分に耳を貸さないので少し頭が痛くなってきた所に
「これ、フランやめんか。全くお前はどうしてそうも早とちりなんじゃ。」
と言いながら額に手を当て首を横に数回振りながら探していたと思われる人物が霧の中から姿を現した。