7話
アードックを目指し再び馬車の旅が続くがやはり1日そこらで慣れるものではなく朝に食べたモノは既に通り過ぎた道へと消えていった。
最悪の気分のまま今朝ベネディクトに言われた言葉を反芻して自分なりの答えを探そうとする。
「ねぇ、ベネディクト。今までの勇者はその、力に溺れたりしなかったの?」
疑問に思ったので聞いてみた
「人間というのはな、とても弱い生き物なんだ。弱いからこそ群れて行動する。それがやがて国という形になっていったわけだ。その人間の国を脅かそうと魔族は何度となく攻めてきてはその時代の勇者に討たれて来た。が、人は弱いだけでなく愚かな生き物でもある。人間というのは種族に対しての敵が居なくなればその敵を倒した者が次なる脅威として認識するのだ。それが例え世界を救った勇者であってもだ。」
「じゃあ、じゃあ・・・勇者は何の為に戦わなければならないの・・・」
「ただ今までの文献を漁ってみても脅威として認識された勇者が倒されたという記述はどこにも無かった。勇者と言うモノには俺たちが知らない秘密があるはずだ。だからこそお前にはキチンとした力の使い方を学んでほしいのだよ」
そんな話をしていると空が急に暗くなりそこには父の顔が浮かんでいた。
「世界の皆さんこんにちは。私は君たちが魔王と呼ぶ存在である。私を討ち亡ぼす為に勇者と言われる者を寄越してくれてまずは感謝の意を述べさせて頂きたい。神の因子を持つ者をわざわざそちらから向かわせてくれたのだ。探す手間が省けてとても感謝している。当代の勇者なる者は私の手により討ち果たされた。だが、奴には子供が居たのだ。神の因子を持つ者は全て滅ぼさなければならない。愚かな人間共よ、勇者の子供を差し出すのだ。そうすればお前たちの命だけは助けてやろう。」
そう言うと空に映った父と同じ顔は消え色も元の青に戻った。
「クソッ!魔王め、深手を負わせた筈なのにもう回復したのか。幾ら何でも早すぎる。それにあれはバートと同じ顔・・・どう言う事なんだ。」
暫しの沈黙が流れベネディクトは小さな声で考えろ考えろと呟いて思考を巡らせていた。
その時空の変化によって止まっていた馬車の御者がこちらを向いて言葉をかけてきた。
「旦那さん方、いやそちらのローブの魔法使い様はどこかで見たことがあると思っていましたがもしや勇者様のパーティの方で間違いないですよね?」
その言葉を聞いてベネディクトはとっさにミリオを背後に庇い己の武器たる杖を御者に向けるのであった。