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53話

 王宮内の衛兵全てとは言えないだろうが相当数が自分たちを探している中、唯一人信頼できる人間であると思えるトランジアの行方を探すためにベルナは一人城の中を彷徨っていた。ここまで誰にも見つかっていないのは奇跡・・・ではなくこれまでのトランジアからの「教育」の成果だと認めたくはないが、事実として未だにベルナは衛兵に捕まってはいないという事実がそこにはあった。非常に悔しいが確実に以前のベルナより強くはなっているという実感があった。頭の中に蘇るあの過酷な特訓の日々が走馬灯の如く見えてきた時にトランジアを見つけたと騒いでいる兵士たちの声が聞こえて我に返った。

「トランジアなら一人でもここから抜け出せる・・・。」

そう一人呟いて自己嫌悪に陥る。多少強くなったと言っても彼に比べたら、いや比べる事すら烏滸がましい位の厳然とした実力差があるの理解しているからこそだ。ただ、一人では探しあぐねていたトランジアの居場所が分かったというのはベルナにとっては嬉しい知らせであり気づかれないように彼らの後を追った。着いた先は王宮中庭。そこで彼は暢気にも歌を歌っていた。

「ここに伏したる我らが父祖よ 今宵の空をどう思う? 月夜に照らされ見えるもの 果たしてそれは真の姿なのか 今我が紡ぎしこの言葉 夜風に乗って飛んでいけ どこまでも どこまでも・・・」

その歌声に集まった兵士含め王を含めた重職たちも集まっていた。

「やぁ、今宵は星見をするには良い夜だ。皆さんお揃いでどうされましたかな?」

と普段なら絶対に使わないであろう丁寧な言葉が返って神経を逆撫でさせる。

「黙れ!カトレア様が居なくなったことにお前が関与してるのはここにいる皆が知っているのだ!大人しく捕まるのであれば今はその命保証しておいてやる!」

と一般の兵士よりも立派な鎧を着た上官らしき人物が声を荒げて半ば叫ぶかのように言った。その言葉を皮切りに一般の兵士たちもそうだそうだと怒鳴り声をあげる。だが、ただ一言とても静かな声がその怒声をかき消した。

「彼女は行ったのだな?」

そう言ったのはここにいる誰よりも目立つ白い鎧に身を包んだ男で

「そうだな。全てはこの世界の為に必要な事だ。」

そう答えたのは反対に全身を黒いローブに身を包んだ男であった。

数瞬の静寂が分かる者だけが交わすその言葉で破られる。

「そうか・・・ならば我らに出来ることはもうないということか。・・・・私の代で事は終わるか。」

「人の罪と奴らは言うだろうが、ここから人の時代が始まるんだ。」

一体何を話しているのか全く分からない周りの人間にとっては唯々彼らが交わす言葉を聞くしかなかった。

「ベルナ!行くぞ。時間はもう残されていない。」

そう言って彼女の前に歩を進め手を取りその場を立ち去るのであった。

後ろでは

「勇者の旅路に我らが願いを共に」

という声が聞こえた気がした。


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