46話
日が経つ毎に目に見えてやつれていくベルナのことを心配する人は多いがその原因を知る者は少なかった。人間を見ること自体が心労であり部屋に引きこもる毎日だった。人の全てが善意で行動しているとは思っていなかったがここまで利己的な人間が多いという事実は純粋を体現させた様なベルナを絶望させるには十分だった。唯一の救いは想い人である司祭のブロワだけはその身に黒いモヤは見えないことだったが何事にも始まりがあれば終わりもあるものでベルナは自身が望まない運命に翻弄されていく。
「あんた見えるんだろ?」
その一言がベルナの人生を変える始まりの言葉なのだがその事を思い出すのはまだ先の話。
いつものように部屋の中で自身の変化について嘆いているとその一言が聞こえたので振り返るとそこには村に来た行商人の護衛だった。
「見えてるって何がですか?」
急に部屋に現れたことよりもその一言の方が驚いたので自然と聞き返していた。
「人の身体の周りに。見えるんだろ?」
「あなたにも見えるんですか!?これは何なんですか?どうして私だけが」
「あんたは選ばれたんだ、不幸にもな。」
「選ばれた?誰に?どうして?」
「人が神と呼ぶ奴らに最後の玩具としてな」
「最後の玩具?言ってる意味が分かりませんが?」
そう言い終わると同時に自身が横になっているベッドの投げ込まれた。
「これは・・・時計?」
「中を開いてみな。あんたにはそれが何色に見える?」
言われるがままに時計を開いてみるが黒一色に染まって時間は全くわからなった。
「これ・・・真っ黒じゃないですか。時間なんてこれじゃ分からないですよ。」
「そうか。黒か。じゃああんたが最後の勇者様ってわけだ」
いきなり勇者だと言われてベルナは目の前にいる人間がひどく胡散臭く見えてきた。しかしながら身体からは黒いモヤの様なものは見えない。その事が余計に思考を混乱させた。
「あなたは一体・・・それに私が勇者だなんて何かの間違いですよ。私にそんな力はありませんし。」
「この時計は私がセントラルの森の中で倒れている少年から譲られたものだ。名を終末時計という。その少年は私に色々と語ってくれた。勇者と魔王・この世界の真実・そしてその解決方法も。あんたは真っ黒だと言ったが本当に真っ黒に染まっていたならこの世界はもう存在していなんだ。ここは神が作り出した箱庭。遥か天上から私を玩具としてしか見ていない奴らがこの世界を舞台に賭けをしているのさ。」
様々な情報が一気に話され彼女の頭はその処理が追い付かず目の前が歪んできた。
「すいません。ちょっと何を言っているのか分かりません。神がそのような事をなさるはずがないじゃないですか。自身が作った世界を人を生き物をかけの対象にするだなんて。」
「あんた、よく人が良いって言われるだろ。世界なんてそんな綺麗事でできてなんかいやしないさ。子供が飽きた玩具に興味を示さなくなるようなもんさ。興味が無くなったものを壊す。そんなのは人の子供でもやることさ。」
益々目の前の人間に対して不信感というのとは少し違う感情を抱いたベルナは自身の部屋から逃げ出した。外に出たときは辺りはもうすっかり暗くなっていたがそんなことはお構いなしに走った。その先に何があるのかも知らずに。




