3話
世界樹の森で3日を過ごしベネディクトの魔力も回復しアードックへ向かう為にミストランテへ転移魔法を唱える。
地面に浮かんだ魔法陣が天にかざした手に浮かんでいる魔法陣めがけて上がってくる。
全身を魔法陣が包み込んだと思うと目の前には華やかな街が見えた。
「あれがミストランテ。このセントラル一の自由都市だ」
そう言うベネディクトの言葉を聞きながらミリオは目の前にある都市の巨大さに唯々圧倒されるだけなのであった。
ミストランテを見渡せる丘を下り都市への侵入を拒むかのようにそびえる巨大な門が一歩また一歩と歩くたびに近づいてくる。そうして門に着く頃には端に門番がいるのが見て取れた。そちらへと歩いていくと門番はベネディクトの姿を見るなり敬礼をして
「賢者ベネディクト様ではありませんか。ここに戻ってこられたと言うことはついに魔王めを倒したのですな!」
と鼻息を荒くして話しかけてきた。周りに居た他の兵士達の中には魔王を倒したという言葉が一人歩きし喜んでいる者や泣いている者などが現れる始末でベネディクトはバツの悪そうに話しかけてきた兵士に
「いや、まだだ。まだ魔王は倒れていない。俺は勇者の命を受け動いているのでお前達もこの事は内密に頼む」
そう答えると兵士達に広がっていた歓喜の渦が次第に消えていき深い絶望が辺りに流れ始めた。
「取り敢えず門を開けてくれるか?中に入りたいのだが」
そう言うと番兵は本来の仕事を思い出したようにシャキッとし大きな声で
「かいも〜ん」と叫ぶのであった。
そしてゆっくりと目の前にそびえる巨大な扉がゆっくりと開き巨大都市ミストランテへの入り口が開かれた。
「ミリオ、この街は広い。その分良くない連中も多い。俺からはぐれないようにするんだぞ。」
ミリオは彼のローブの裾を掴み必至について行くがこんな人混みは初めてで前に上手く進めないだけでなくベネディクトの歩く歩幅が大きく次第に距離が開いていき掴んでいた彼のローブを離してしまった。
初めて訪れた巨大都市で頼る人もなくひとりぼっちで不安に押しつぶされそうになりながらベネディクトの姿を探すがそれらしき人物は見つからず目から溢れる涙を止める為路地の端で丸くなって嗚咽を漏らしていた。
これだけ大きな都市である。当然良くない輩も多い。
そんな奴らが路地の端で丸くなっているウサギを見逃すはずもない。
「坊や〜どうしたんだい?」
物腰柔らかに話しかけてきた声の方へ顔を向けるとそこには所々歯の抜けた男を筆頭に数人の男達がニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらこちらを見ていた。
彼らの悪意がモヤのように身体を覆っていてそれはミリオにとって初めて自分に向けられた明確な悪意と対峙するものであった。
今まではそんな事は感じたことがなかった。
父や仲間たちそれに関わる人間達に苦手だなと思う事はあってもこのように悪意が黒いモヤとなってハッキリと見える事はなかった。
人間の底なしの悪意に当てられてミリオは吐き気に抗うことが出来ずその場で吐いてしまった。
それを見た男達は「そんなに気分が悪いなんて大変だ。ゆっくりと休める場所へ行こう。」と棒読みの三文役者の様に言いミリオの身体を抱き上げ何処かへ連れて行こうとしたのだった。
ミリオは身体に残った僅かな力を振り絞り必至に対抗をするが男達にとってそれは何ら問題ではないようなものだった。そしてそのまま深い闇の中へと落ちて行くのであった。