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19話

空腹を満たしたところで女主人が口を開く。

「ネスト、貴方達今夜ウエストに向かうんですって?」

「相変わらず耳が早いな。ここは少し留まるには障害が多くてな。」

「フフフ、ネスト貴方デロスに売られてるわよ。」

そうニッコリと言う目の前の女性にネストは目を丸くした。

「売られた?それはあり得ん。アイツがワシを売るなんて。何年の付き合いかはお前が1番知ってるじゃろ。」

「相変わらず甘くてお人好しなのね。まぁそこが貴方の魅力でもあるんだけど。今回はデロスも家族を人質に取られてるみたいよ。それだけベルナルドの恨みは深いって事ね。まぁ貴方にとってはとばっちり以外の何物でもないのだから気の毒だとは思うけれど。」

「デロスがお前がここに居ると教えたのはこの話をさせる為か?」

「それもあるけれど今の貴方達の状況は貴方達が思っている以上に深刻なのよ。」

「それはどういう・・・」

全てを言い終わる前に口元を人差し指で塞がれて

「この先が聞きたいなら昔みたいにベッドの上で聞き出してみたら?」

そう言い放つ顔は悪戯を楽しむ少女でしかなかった。

「一体いつの話をしてるんじゃ。ワシはもうあの頃とは違うんじゃ」

「あらあら振られちゃったわね。」

「振るもなにもお前ワシより年上のババアじゃろが。」

「そんなババアに夢中になってたのはどこのどなた様でしょうかね」

そう言ってまた悪戯を楽しむ顔になる。

フランとミリオからしたら2人の話を理解できずポカーンと口を開いたままであった。

「師匠何言ってんだ。こんなに若い人が師匠より年上だなんてまだボケるには早いぜ。」

そう言うフランに

「フランよ。見た目だけでなく物事の本質を見極める目をもっと養うべきじゃな。此奴は始まりの魔法使いと言われとるババアじゃ。今世界にある魔法は全て此奴が作ったものじゃて。」

始まりの魔法使いの話なら誰もが子供の頃に読み聞かされる本に出てくる昔の英雄の1人である。

「師匠何言ってんだよ。始まりの魔法使いって言えば御伽話の中だけのことじゃないかよ。そんなのが生きている訳ないしもし生きていてもこんなに若くて美人な筈なんかないぜ」

そう言い切ったフランに対して

「若くて美人だなんて貴方のお弟子さんの方が正直者でなくて?」

そう言ってまた意地悪そうな笑みを浮かべる。

ハァーと大きな溜息が祖父から漏れ

「此奴はな自身の時間を止めているだけなんじゃ。見た目に騙されるな」

「あら、騙すなんて酷い言い草ね。世の中知らないままでいた方がいいことの方が多いのに聞き出したお馬鹿さんがそれを言うのはどうなのかしら?」

「あーもう話が先に進まんからお前達は黙ってろ。で?ワシらを取り巻く状況が深刻とはどう言う意味じゃ?」

「それはベッドの上で聞き出して・・・」

「冗談はもういい。時間の無駄じゃ」

「つまらないわね。昔の貴方の方が魅力的だったわよ?」「人は変わるもんじゃ。いつまでもあの頃のままという訳にもいかん。」

「貴方も言うようになったわね。良いわ、話を先に進めましょう。先ず貴方達が向かおうとしてるイースタンだけどあそこのは代替わりしてその王妃になったのが貴方の大嫌いなベルナルドの娘よ。更に言うとノースタンもウェスタンもベルナルドの手が回っているわ。」

「じゃがイースタンには勇者の村があるじゃろ。あそこに入りさえすれば取り敢えずは安心ではないか。」

「ネスト、貴方にとっては残念なお知らせだけれど勇者の村アルはイースタン王の手に堕ちたわよ。ついこないだの話ね。」

「なんじゃと!?では村の者は?」

女主人は首を横に振るだけであった。

その場に膝をつき魂が抜けたようになる祖父を見てどうにか元気付けようと側に寄り添い広い背中に手を添えることしかできない自分に苛立ちを覚えた。

「このまま予定通り船に乗ってイースタンへ向かうと沖に出たところで貴方達は捕縛され王都で公開処刑される事になるわ」

「では、ワシらにはもう逃げ場はないと言うことか・・・」

そう小さく呟く祖父に始まりの魔法使いはある取引を持ちかけるのであった。

「逃げ場がないなんて事は言ってないわよ?」

「じゃが,・・」

「まだサースタン、帝国が残っているわよ」

「セントラルから帝国行きへの船は出ておらん。転移魔法も感知される中どうやって・・・そもそもワシは帝国にツテなど無い。」

そう小さく呟く祖父に

「そこで取引よ。勇者、いや元勇者アルネスト。」


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