16話
祖父の生まれた村を目指して人目を忍んで移動をして20日目。
世界の中心にある大陸セントラルを脱出するべく3人は港町イクスの入り口に立っていた。
世界が混沌に落ちようとこの街には今こそが商機とばかりに人々が集まり活気に満ちていた。
「さて、ここまで来たのはいいが・・・問題は船の調達じゃな。他の大陸への定期便は出ていたとしても恐らくは事前に何かしらのチェックがあるじゃろうし。」
「街に入る前からそんな心配したって意味ないですよ!取り敢えず俺が港まで行って様子を見てくるので2人は何処かに隠れていてください。」
「それもそうじゃな。では待ち合わせ場所を決めておこう。この街の裏通りに妖精の綿毛という酒場がある。そこで3つ目の鐘が鳴る頃に落ち合おう。」
「裏通りの妖精の綿毛ですね!分かりました!」
そう言ってローブのフードから顔を出し堂々とした足取りで港を目指して行くのをただ見送るしか出来なかった。
「ワシらも行くか。いつまでもここに居るのも怪しまれるじゃろうて。」
大通りを堂々と歩くフランとは対照的にローブのフードを目深に被り人目を避けて裏通りを目指して歩き出す。
目の前を歩く祖父の背中に少しだけ父の面影を感じ今更ではあるが改めて血の繋がりを感じた。
2人はどこかに寄り道するでもなく真っ直ぐ妖精の綿毛を目指した。
店のある裏通りは日の光こそ当たるもののそこにいる人が発する重い空気が立ち込めて街の表と裏を自分とフランに重ねてしまう自分に嫌悪感を抱くミリオであった。
「ここじゃ」
そう一言だけ呟いた祖父が重厚感のある扉を両の手を使い容易く開けて中へ入って行く。扉が閉じる前に置いていかれない様に続いて中に入る。
カウンターにはグラスを拭く老人が1人。他には酔い潰れて寝ている男が3人テーブルで寝ていた。
祖父はカウンターに座りフードから頭を出し寡黙な老人に
「まだ生きとったか老いぼれ」
と見たこともない笑顔で話しかけると
「その言葉そのまま返してやるクソジジイ」
と両者声を大にして笑い出す。その笑い声に反応したのかテーブルで寝ている何人かが唸りながら少し動いた。
「それで?お前がここに来るって事はまた何か厄介事にでも巻き込まれてるのか?」
「ああ、厄介も厄介。ワシもこの歳になってここまで追い込まれるとは思ってもなかったわ。」
とまた笑い出す。
「その厄介事にそこの坊主も関わっているのか?」
「まぁな。それにコイツはワシの孫じゃ。」
「ほう?という事はお前の息子名前は何と言ったか・・・アイツがそんなに大きくなっていたのか。ワシらもジジイになるわけだ。」
そう言ってまた笑い出す。
「それで?ここには何の用事で来たんだ?」
「この坊主・・・ミリオの父親であるワシの息子、バートは死んだ。」
「アイツが!?」
「この坊主を守る為にその命を使ったんだ。アイツにとっては世界全ての人間よりこの子の命の方が重かったって事だ。それを責める事は誰にも出来はしない。だが・・・」
「なるほどそれでこの間この街にも王国軍の奴らが来てあの張り紙をしていったのか。」
そう言って壁の方を見ろと顎をそちらに動かすのであった。
2人は言われた方へ視線を向けるとそこには祖父の顔が書かれた手配書が貼ってあった。ミリオの顔は書かれていなかったが子供を1人連れているとの注意書きがしてあった。
「ここにも彼奴の手の手の者が来ていたか。全くいつまでも50年も前のことを根に持ちおって。」
祖父がここまで饒舌になっている所を初めて見たのと話を邪魔をしてはいけないという空気が出ていたので大人しく祖父の隣に座り俯いているだけであった。
そんなミリオの行動を察していたからなのか年老いたバーテンからミルクを出されたのでそちらを向いて小さな声ではあったが「ありがとう」と言うと
「礼儀正しい良い子じゃないか。なぁに、ここなら何も心配する事はない・・・なんて安直な事は言わないがゆっくりしておいき。」
そう言われ自分もフードを取ると
「バートにそっくりじゃないか。良かったな坊主。こんなクソジジイに似なくて。」
また笑い声が店内に響いた。
「だが、目はサラーナ似じゃな。」
知らない女の人の名前が出てきたが話の内容からどうやら自分の母親のことらしいと察しはついたが、今まで母の話などしたことが無いのでこれからもこの話には触れてはいけないんだと思っていた。
そうこうしているうちに指定した時間を知らせる鐘が鳴り始めた。
それと同時にフードを目深に被った自分よりいくらか背の高い人物が店に入ってきて中を見回しこちらの事を見つけると走り寄ってきた。
「先生!フードを被ってなくて大丈夫なんですか?」
そう言って祖父の右隣に座る。
「ああ、ここは昔からのケンカ仲間がやっている店でな。それより港の方はどうじゃった?ワシらが乗れそうな船はあったか?」
そうやって聞いているうちにフランの顔色から察することができたのか祖父は「そうか、ダメじゃったか。」そう一言呟いた。




