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6、

クレア(ルイスがクレアから従者を遠ざけようとするお馬鹿エピソードが入る)/家政婦(すぐさまクレアとの食事が始まる)

→家政婦(すぐさまクレアとの食事が始まる)に進みました。


家政婦に『マリリエンヌ』と名前いただきました!

従者の名前に『バーナード』と名前をいただきました!


 ノックの音に、ルイスは慌てた。

 傷の手当てをしていることがバレたら、初夜の偽装工作を疑われてしまうかもしれない!


「何の用だ!? そこで用件を言え!」


 ルイスが怒鳴ると、扉の向こうからどっしりとした声が控え目に聞こえてくる。


「お食事のご用意ができました。奥さまが食事室でお待ちです」


 控えめな小声のはずなのに、どっしりと聞こえるとは……。


と、家政婦の声を奇妙がっている場合じゃない。


「すぐに行く!」


 再び扉の向こうへ怒鳴りながら、ルイスは血で汚したガウンと寝巻を脱ぎ始める。


「バーナード」


「はいはい、わかっています。ルイス様が怪我をなさった痕跡は全て消し去るように、ということでしょう? 血の付いたものは、ベッドのシーツ以外は全部秘密裏に処分します。そのガウンも寝巻も、そこまで汚れてしまってはきっと洗ってもきれいにならないでしょうし」


 主寝室と続きになっている私室に移動するまで、ルイスは傷をつけた腕を自らの腹部に押しつけ、傷口をそうやって押さえるのと同時に滴る血を受けていたので、ガウンの前身ごろは血でべったり汚れてしまっている。そしてまくり上げたとはいえ傷口に近かった寝巻の袖も、同様に血に染まっていた。


 ルイスがガウンと寝巻を脱いでいる最中に、従者のバーナードは着替えを用意する。汚れたガウンなどを椅子の上に置いて着替えると、ルイスは片付けをするバーナードを私室に残して食事室に急いだ。



 家の者や親しい友人とだけで食事するための小さな部屋で、クレアは部屋の真ん中に置かれた長テーブルの端に座って待っていた。

 もう一つの席はその反対側に用意されていたため、ルイスは仕方なくそちらに座る。


 食事のワゴンを押して入ってきた家政婦が、部屋の中をきょろきょろと見回した。


「あら? ご主人様、バーナードさんはどうしたんです?」


「バーナードなら後片付……いや、用事を言いつけて──」


「ダメじゃないですか。バーナードさんには給仕のお仕事もあるんですから、お食事の時間に用事を言いつけたりしちゃあ。仕方ありません。今回はわたくしが給仕いたします。ご主人様もご不便はお嫌でしょうから、早く執事を雇ってください」


 この館に、現在執事はいない。長年この館を仕切ってきた執事が引退した父についていってしまい、後任がいまだ決まらないからだ。


 ──俺たち、こいつがいないと何にもできないから、連れていくね。


 ──ルイスも、人生を預けられるような素敵な執事を見つけなさい。


 ──そういうわけでさらばだ! 引退記念旅行に出かけてくる。


 ──あらやだあなた。数年遅ればせながらの銀婚式の旅行だっておっしゃってなかった?


 ──ああそうだった。ハネムーンの時は一カ月しか旅行できなかったから、今回はおまえが望むだけ、何年でも何十年でも旅して回ろう。


 ──嬉しいあなた! じゃあルイス、頑張ってね。


 何が銀婚式の旅行だ! こっちはハネムーンにすら行けそうもないっていうのに!


 両親が執事を連れて旅に出て半年が経過した。ルイスは手紙も送ってこない両親のことは死んだとみなし、結婚式の招待状さえ送っていない。……今どこにいるのかわからないから送りようがないし、送れたとしても結婚式に間にあうように帰ってこれるとは限らないし、そもそも結婚式とは両親も招待する側であり招待状を送られる側では決してないはずだし。……ともかく、息子の晴れの日に立ち会えなくて両親はさぞや悔しがるだろうと想像することで、慣れない領地の管理のために多忙でハネムーンに行けそうもないことへの溜飲を下げておく。


 話がだいぶんそれたが、館の主人の食事を給仕するのは、執事の仕事に分類される。しかし、その肝心な執事が不在のため、従者のバーナードがひとまず受け持つことになっていた。

 館を主人に代わって取り仕切る執事ともなると、人選は非常に難しい。信用のおける人物でなければならないのはもちろんのこと、長年この館で働いてきたプライドを持つ使用人たちをまとめ上げられるだけの経験と技量を持ち合せていなければならない。


 この館には、家政婦という大ボス……いや、古株がいるため、彼女をしのぐ統率力を持つ人物でなければ務まらないと思うのだ。──執事を雇いたいけど家政婦がいるためなかなか雇えない。そのため家政婦に執事と同等の権限を与えて、使用人たちの統率を任せなければならない。

 起き抜けのようなこともあるから解雇したいけれど、解雇してから雇い入れた執事が使いものにならなかった時が悲惨だと思うと、そういう決断に踏み切れない。


「ご主人様、何悶えてるんですか?」


「い、いや、何でも……」


 ジレンマを抱えるあまり、無意識に頭まで抱えてしまったらしい。ルイスは頬を赤らめ、頭から手を下ろして姿勢を正す。

 咳払いをして取り繕ったルイスの前に、家政婦は慣れた手つきで料理を並べた。



 そうして食事が始まったのだが。


「こ、このスープ美味しいね」


「はい……」


「パンに塗るのは、バターとジャムとどっちが好き?」


「……」


 ……き、気まずい。


 クレアは相変わらず言葉少なで、ガラスのような瞳は今も何も見ていないかのように焦点が合っていない。

 あの日庭園の片隅にいた生き生きとした少女は、本当に一体どこへ行ってしまったんだ?


 気まずさに耐えきれなくなってきた頃、バーナードがせかせかとやってきた。


「遅れてすみません。あとは僕がします、マリリエンヌさん」


「“マリリエンヌ”!?」


 ルイスは素っ頓狂な声を上げるが、バーナードは不思議そうに眉をしかめる。


「家政婦さんの名前ですが、知らなかったんですか?」


 物心つく前からこの館にいたし、特に名前を呼ぶ必要もなかったから、知らないことを気にしたことすらなかった。それにしても、“マリリエンヌ”?


「え……ええと、ホントに“マリリエンヌ”?」


 太……いや、恰幅のいいこの中年女性の名前が? 名前の響きからして、可憐で愛らしい女性の名前だろう、それは。

 困惑するルイスに、家政婦ことマリリエンヌはふんと鼻を鳴らした。


「わたくし、これでも昔は美人で通っておりまして、年頃には求婚者が列をなしたんですよ」


 自慢げだが、にわかに……いや、全く信じられん。


 ルイスが呆然としていると、誰に言われたわけでもないのにクレアが口を開いた。


「マリリエンヌさん……よろしくお願いします。これから……」


 そよ風に揺らされた葉擦れのようなかすかな声だったけれど、それを聞きつけたマリリエンヌは近寄っていって機嫌よさそうに返事する。


「こちらこそよろしくお願いいたします、クレア奥様。この館の立派な女主人になられるように、しっかりお教えいたしますからね。それでは、食事が終わりましたら早速使用人たちと顔合わせをいたしましょうか? 本当なら結婚式の前にすべきでしたが、奥様は結婚が終わってからこの館に来られましたからね」


「はい……」


 女主人と家政婦の仲がいいのはいいことだ。だが、その光景を見ていると、何故こうも敗北感で胸がいっぱいになるのか……。


 クレアとマリリエンヌがたどたどしくも会話を続けるのを見て疎外感を覚えながら、ルイスはもそもそと食事を続けた。



 食事のあと、マリリエンヌはクレアを連れて使用人たちに挨拶しに行く。



その後ルイスは、

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