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5、

「自分で何とかしてください」(言葉遣い通りの堅物)/「私がそれとなく尋ねてみましょうか?」(意外に軟派)

→「私がそれとなく尋ねてみましょうか?」(意外に軟派)に進みました



「私がそれとなく尋ねてみましょうか?」


 従者のこの一言に、前髪をかき上げていたルイスはその手をぴたっと止める。


「……誰に?」


「もちろん奥様にです」


 ルイスは椅子から勢いよく立ちあがってがなった。


「駄目だ駄目だ駄目だ! おまえはクレアの3メートル以内に近づくな! いや、同じ部屋にも入るな! クレアに姿も見せるんじゃない!」


 ルイスがこんなにも慌てるのには理由がある。

 この従者、天然のたらしなのだ。

 それなりに顔立ちは整っているものの、特に美形ではないのに、いつの間にか女を引き寄せている。


 実のところ、学生時代従者には世話を申し出てくれる女が数多いて、彼女たちが何だかんだでメシを食わせていたので飢える心配はなかった。のだが、「金がないから」と言って飯を抜こうとしたこいつを一度だけ下宿に連れ帰って食わせたら、下宿屋のおかみに「お腹すかせてちゃかわいそうだから連れておいで」としつこく言われ、仕方なく連れ帰っていたという経緯すらあったりする。

 別にメシの恩を売られなくてもいいのに誘えば下宿についてきてくれて、うるさいおかみからルイスを解放してくれて、その上礼にとレポートの代筆までしてくれた(何度も言うが、それがいいことかはともかくとして)。そんないいヤツだから、住み込みの仕事を探していると聞いて、領主になるため田舎にひっこむ際に「ついてくるか?」と誘ったのだが。


 だが、クレアのこととなれば話は別だ。


 ルイスは今、猛烈に後悔していた。

 何で歩く天然たらしを連れ帰ってしまったのか。初心なクレアなんてイチコロじゃないか。


 ──奥さま、どうかわたしを信用して打ち明けてください。貴女の苦しみを取り除いて差し上げたいのです。


 ──まあ、何てお優しい。でもこれは夫との間の問題です。夫の従者であるあなたに打ち明けるわけには……。


──ご安心ください。ルイスには決して言いません。お辛いのでしたら、わたしの胸をお貸しいたしましょう。ただお泣きになるだけで、心安らぐこともあるでしょう。


 ──ああ、ありがとう……。


「うがーー!!!」


 自分の妄想に耐えきれなくなって、ルイスは両手で頭をかきむしる。


「……包帯を巻いてほしくないなら、そう言ってくださらなければ困ります」


 冷淡な口調で言いながら、ルイスの前の椅子に座っていた従者は、体を屈めて包帯を拾う。見れば、ルイスの腕に巻かれかけていた包帯はすっかりほどけ、包帯の端がかろうじてルイスの腕にからまっている状態になっていた。


 従者は床に転がった包帯をぽんぽんと叩いて、埃を払いながら言う。


「また馬鹿なことを考えていたんでしょう。安心してください。主人の奥方に手を出すような真似はしません。せっかく手に入れた部屋と食事付きの仕事を、早々に失いたくありませんからね」


「“早々に”ってことは、早々じゃなくなったら手を出すかもしれないってことか!?」


「──馬鹿も大概にして、腕出しておとなしくしてください」


 呆れを隠さない盛大なため息をついて、従者はルイスの怪我をしたほうの腕を引っ張り寄せ、包帯を一から巻き直し始める。


「ある程度の嫉妬がなければ、相手に“自分は好かれていない”という印象を与えてしまいますが、度を超すと嫌われますよ」


「……嫌われるどころか、クレアの目には僕が映ってないんだ」


 だから不安になる。

 誰かにクレアを奪われやしないか。

 クレアとルイスの間には、確かなものが何一つないから。


「ヘタレも大概にしておかないと、愛想尽かされる要因になりますよ」


「……ぐっ」


 その時、扉が控えめにノックされた。



ノックしたのは

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