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2、

領主は初夜を

実行する/実行しない →実行しないに進みました



 薄手のネグリジェをまとったクレアは、ダブルベッドの中央で膝を揃えて座っていた。両手は膝の上で重ね合わせ、結婚式の時と変わらずルイスの顔を見ようとしない。

 間接キスの動揺から立ち直った少女は、遠慮がちにこう言った。


 ──わたしとここで会ったこと、誰にも内緒にしてくれる?


 つまみぐいしていたことを誰にも知られたくないのだろう。姿からして年の頃は16、7歳に見えるのに、十歳に満たない子どものようなことを言うのでつい笑ってしまった。

 クレアは17歳だと父親から聞いた。

 しかし今目の前にいるクレアは年齢以上に年を重ねているように見える。

 笑うことなく、沈んだ表情をしているからだろうか。

 諦観したようなクレアの面持ちに、ルイスは胸を突かれていた。


 側に寄ってなぐさめたいと思う衝動と、ルイスとの結婚が本当は嫌だったのではないかという不安がせめぎ合う。

 どうしたらいいかわからなくて立ち尽くしていると、そのままの姿勢でクレアはぽつんと言った。


「お伺いしたいことがあります」


「……なんだい?」


「わたしは長女のほうなのですが、お間違いではないでしょうか?」


 質問の意味がよくわからない。確か、クレアの父親には娘がもう一人いたが、その娘と間違えているのではと言っているのだろうか。

 ルイスはベッドの端に座り、クレアの顔を覗き込んだ。父親から直接紹介されたもう一人の娘とは似ても似つかないから間違えようがないのに。

 それでも、念のため尋ねてみた。


「君は、僕と前に会ったことがあるよね? ガーデンパーティーの日に、君は庭園の片隅でパンにジャムとクリームを塗って食べていた」


 クレアはうつむくようにこくんと頷く。その返答に、ルイスはほっとした。


「じゃあ間違いない。僕が結婚したかったのは君だよ」



 けれどルイスは気になった。クレアが頷いたまま顔を上げようとしないことが。

 今日は結婚後初めて夫婦が寝室を共にする初夜だ。良家の娘であるクレアにとって、初めての経験になるだろう。

 知らないことに怯えるということならわかる。だが、クレアはどう見ても、怯えているというより諦めているようだった。

 あの日、あの庭園の片隅で、短い間だったけれどルイスとクレアは楽しく話をした。クレアは緊張気味だったけれど会話を楽しんでくれて、それなりにルイスに好意を持ってくれていると思っていた。

 けれどあの時クレアから感じた好意は、今はひとかけらも見当たらない。

 ルイスは小さくため息をつき、クレアの肩をそっと押してベッドに横たわらせた。毛布を引き上げ、クレアと自分の体にかける。


「何も今日から始めなくたっていい。君の心の準備ができたら、本当の夫婦になろう。──おやすみ」


 そう言って、ルイスは仰向けになる。

 残念に思いながら目を閉じた。

 本当に残念だった。クレアと夫婦になれる日を心待ちにしていたから余計に。

 だが、少なくとも今晩は諦めるしかないだろう。クレアを傷つけたいわけじゃない。

 ルイスはクレアよりずっと大人だし、一晩くらいおとなしく──


「眠ってられるかぁ!」


 そう叫んでルイスは飛び起きる。

 大人だからこそ我慢できないことだってある。今宵こそ我が物にできるはずだと期待に胸ふくらませた少女と、何もせず同じベッドで眠れるわけがなかった。

 ルイスはベッドから降り、クレアを振り返ることなくベッドから下りる。


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