愛する人を手に入れる為なら、何度でも繰り返すのよ、たとえ愚かだとしても。
初めての投稿なので、勝手がわからなく、戸惑っています。
40年以上前に死に別れた彼に逢いたいと思い、「世界の魔女」と呼ばれている魔術師に、やはり40年以上の間、あらゆるものを便宜してきましたが、その投資がようやく回収できるらしい。
らしいというのは、私自身最初に会ったっきりで、この魔術師にはそれきり息子が対応していた為、詳しい事がわかっていないからです。
そんなよく分かっていない相手を、なぜ40年以上も便宜を図ってきたのか?
それは、息子が見つけてきたからです。
そして、息子は言いました。
「あなたの願いが叶う」
と。
その一言で私は決めましたが、その後、私は多くの苦悩苛まれました。
あらゆるものを諦め、又は手放してきました。
救えるものを救わず、ただ、怠惰で有り続けたのだから。
そんな私に、本当に最後までついてきてくれた息子、本当は血の繋がりなどなく、あの人の子でもない。
本当はただの他人なのだけれども、あの人が拾い、育てた、あの人の子供。
あの人の全てを受け継ぎ、あの人のように、私に寄り添ってくれた息子。
他の誰よりも、私が信頼している人。
そんな息子が、今日約束を果たしに来ると言いました。
ならばそうなのでしょう。
さきほど客室に、世界の魔女が到着したと連絡がありました。
息子は今、魔女の御持て成し中とのこと。
しばらくしたら、私が魔女に会いに行くのです、私の願いの為に。
いくぶんか時間を置いて、私は魔女のいる客室に足を踏み入れた。
そして私は目を疑った。
そこには、40年以上前の魔女がソファーに座ってお茶を楽しんでいたからだ。
私や息子は、すでに歳を取って老人となっているのに、今なお若々しく、見た目20台、いや、10台と言っても不思議ではない容姿をしていた。
もしかして別人?
と思って息子を見れば、息子は首を横に振りました。
息子は、本物だと言っています。
ならば、本物なのでしょう。
なるほど、世界の魔女と言われるだけの事はあります。
外見は若いまま…いえ、40年以上前より若返った魔女に、無言のまま挨拶すると、魔女の正面に腰を下ろしました。
「おや?40年ぶりなのに、寂しいじゃないか?何を警戒しているのかな?」
などと、魔女は話しかけてきました。
その体内に渦巻く、膨大な魔力を見せつけるかのようにしながら。
40年前は、こんなに強く感じなかったのに、こんなに魔力を育て上げるとは。
「本当にお久しぶりです、私は、こんなにおばあさんになりましたが、貴女は逆に若返ったようですね?」
「ありがとう、若返ったのも、魔力が増えたのも、貴女のおかげだよ、とても感謝している」
「そうですか、私もまた、私自身の望みを叶える為、貴女に縋ったのです、感謝される必要はありません」
「あれー?今回の貴方は、どうも固いのね?いやそうか、今回は、あれがいなくなったからこうなっているのか・・・」
「・・・?今回がいつの事かは存じ上げませんが、些細な事はどうでも良いでしょう、私が貴女に望むのは、契約の履行のみです、分かっていますね?」
「もう、せっかちな人ね、そんな所は変わらないんだから、そんなに焦らなくても、約束はきちんと守るって、あ、いや、今回は時間がないのか・・・」
「・・・?時間がない?先ほども言っていましたが今回とは何のことです?契約は履行されるのですか?」
「ああ…こっちの話…なんだけど、実は予定が狂ってしまってね、ちょっと時間が足らなくなったんだ、次回からもどんどん足らなくなっていくと思うけど、頑張ってね?」
「意味が分かりません、予定とは何です?時間とは?契約とは何か関係がありますか?」
私は何か嫌な予感がして、魔女を睨みつけました。
同時に魔力を練り上げて、何時でも攻撃できるように、魔女の前面に火球をいくつも作りだしました。
「おお怖い、本当に短気なんだから、どうしてあの2人は、貴女を愛したんだろうね?こんなに怖いのに、まあそれは、次回に明かされるかもしれないし、今回はちょっと急がないと、貴女がもたないし」
「私がもたない・・・?それは・・・何を言っているのです?」
「あはは、わかっているくせに、貴女の寿命だよ、本当は1年あるはずなんだけど、今回からは1年少なくなるんだよ、だから時間がない。そしてその為に、予定が変更になります、まあ、どうなるかはちょっと分からないんだよね、ただ、貴女の想いは彼に届くと約束するけどね」
寿命、それは私がいつ死ぬかを、この魔女は知っているという事。
そして、短くなったのは今回からというのは、今まで何回もやってきたということで、おそらく寿命が短くなったのも、私の願いと関りがあるという事ね。
ならば、今の私が考えなければいけないことは、契約の履行と、予定外が何か?という事ね。
魔女をことさら攻め立てたとしても、何も解決しない。
私は魔術を解き、体内の魔力の循環を止めた。
「うんうん、さすが理解が早いね、たとえ貴女が全力で攻撃しても・・・まあ、傷はつけられると思うけど、殺すには及ばないかな?それに私が力を使ってしまえば、貴女の願いが叶わなくなるし、私も困る」
魔女は、うんうんと唸りながら、全てわかっていると言わんばかりに頷いている。
事実、全て分かっているのだろう。
これからどうなるのか?
未来すら見通しているのかもしれない。
「それにしても、今回の貴女はずいぶんとおとなしい振る舞いを取るね?よほどあの2人が貴女を愛してくれたのかな?それはそれで良かったのかもしれないけど、おかげで予定が狂ってしまったのは痛いね、私も困るし、貴女もこれから苦労するし、まあ、良いか悪いかは、その人によって違うものだし、次からはもう少し立ち回るから許してね?」
だんだん理解してきました。
この魔女は今の私ではない、もう一人の私と何回も、この契約を取り交わしてきたのだ。
そしてこの契約は、魔女も望んでいることで、メリットがあるのだ。
おそらく時間を遡っているのだろうけど、同じ事を何回も繰り返す事に、意味があるのだろうか?
そんな事を思い、思案に耽っていると、魔女は次の話を振ってきた。
「その顔は、だいたい答えにたどり着いたって顔だね?私が話すまでも無いのはさすがと言っておくよ、一応補足すると、力が足らなくなったのは、貴女の苦悩が足らなかったから、そしてこの40年以上もの間、私に貢いできた「財力」「人材」「意志の力」のうち、貴女の意志の力が足らなくなった。
実は他の2つの力は、貴女の意志の力を「型」にする為の補助でしかなかったの、型にするべき力が無いのに、入れ物だけあっても仕方ないでしょう?おかげで私も一部とはいえ、私の力を使う羽目になっちゃったのよ?気を付けてほしいわ、それに感謝してもらいたいわね」
そんな事を宣った魔女は、前回よりも小さくなった胸を張り、なんだか小さな子供を相手にしているようだったが、大事な事はそこではない。
いや、本当は色々聞きたいことはあるが、おそらく本当に時間がないのだろう。
どんなに心や意志の力で補っても、老化した体は言う事を聞いてくれないのだ。
自分の思いとは裏腹に、体は永遠の眠りに就こうとしているかのように、とても緩慢だ。
このままでは、明日には死んでいると思えるほど、世界が冷たく、そして昏く感じるのだ。
この魔女と遊んでいる暇などないのである。
そんな事を思っていると、魔女は人の心を読んだかのように、私に話しかけてきた。
「少し焦った顔だね?その顔は貴女の寿命に対しての反応と見た!どう?あっているでしょう?ああ、力を使ったとかではないわよ、私が趣味で覚えた読心術、なんでも魔術で解決しちゃったら、面白くないじゃない、それに、この術は心を読むといっても、それに至るまでいくつもの段階があって、とっても難しいんだよ、ええと・・・」
「その話はいいわ、その事は次の私にして頂戴、私には時間が無いんでしょう?」
長くなりそうな魔女の話を、打ち切って、本題に入らせてもらう。
本当に時間もないのだから。
「ああ、いけない、貴女に死なれたら、とても面倒な事になる所だった、時間も・・・ああ!1時間もなかった!危ない危ない、何で今日、急いできたのかって私・・・」
1時間!
どういう事だと思う反面、そんな事よりも、間に合うのですか?
後1時間で契約が履行できるのですか?
そちらの事が不安になっていました。
やはり不安が顔に出ていたのでしょう、魔女は陽気に話してきた。
「ああ、心配しないで、契約の履行は1分も掛からないから、必要なのは貴女の意志のみ、貴女が生きて、心から望めば、契約は果たされる。ただし、今回からは体は持っていけないの、心と意志のみだね。どうしても力が足らなくて、でも、過程はともかく、結果だけはうまくいく事になっているよ、でないと私も困るし」
だんだんと、この魔女の事が分かってきました。
この魔女は何処かずれている。
考えというか、なんというか。
だが、この魔女に求めたのは社交性でも、常識でもない。
その魔術の腕なのだから。
ならば・・・
「細かい事はいいわ、『私の願い、叶うのね?』」
この一言を、魂を込めて声に出した。
その瞬間、魔女の瞳の色が黒から赤に変わり、何処か笑っているようだった顔が真剣な表情になっていった。
そして、嬉しそうにほほ笑んだ。
そして・・
「人の子よ、そなたの願い、聞き届けた。」
「この『天秤の魔女』の御名において、そなたを輪廻の楔よりほどき、今一度、私の右手が指し示す場所へ届けん」
その瞬間、あたりは真っ白になり、私は自身を失った・・・