魔女
人の子とはすぐに大きくなる不思議なものだ。
この前まで地を這っていたかと思えばもう二本の足で立っている。
与えた服が魔法のように小さくなってしまい着ることができなくなってしまった。私が魔法を使っていないことを私が知っているので、服が小さくなったのではなく子がまた大きくなった。
「ま」と「ま」しか言えない貧弱なおつむがいつの間にやら写本をこなすようになっている。「この字、間違えてるよ」うるさい小童になった。
おお、おお、よくやった! 私の大好物のパンケーキを作りよった! ブルーベリーとカラントのジャムがたっぷりかかった最高のパンケーキだ。おまえを拾って本当に良かった。次の日スープにサラダというものを出してきてものだからパンケーキはどうしたのかと聞けば「昨日は特別。毎日あんなものを食べていたら体に悪いよ」と言いよった。
集会に連れて行けば、退屈と孤独の魔女たちの注目度の的となってしまった。私以外の魔女を見るのは初めてだろう、借りてきた猫のようにおとなしい。いつもこれくらいなら可愛げもある。
漆黒の炎が煌々と夜を照らす。見知った魔女たちは思い想いの場所で空に上がる炎を見つめる。お前だけは結界の境目で外を見ていた。「もう眠いよ」子供だなあ「子供じゃない」子供は皆そういう「眠って起きたら」ん?「眠って起きたらまた二人でしょ、俺たち」「だから眠いんだ」
「ソワレ、また夜遅くまで起きていたんだね」と眠っている私を容赦なく起こす。いつから、いつからこんなに大人になってしまったんだろう。微睡む私の髪をすく。わずかに触れるお前の手はあの頃のように柔らかく暖かく小さくない。もうこの手では花摘みなどしないだろう。集会で聞いたのだろう私の名前で呼ぶようになった。「ソワレ、髪触って」お前はもう子供じゃないんだ「じゃあなに」大人だ「俺はソワレにとって大人の男?」子はずっと子だ「じゃあソワレ、おやすみのキスが欲しい」
文字が読みづらい、そう思えば辺りは暗く灯りひとつない。いつもならお前が灯りをつかに来るのに。この気持ちはなんなのだろうか、私は部屋を出て探す。洗い立てのシーツにお前は倒れている。おそらくシーツは血で染まっているのだろう? ルキ。「ソワレ、シーツを、汚して」いいんだ、もういいんだ「すごく体が重いんだ」この世界で魔女以外は生きていけない。
「おれは、魔女になれなかったね」魔女になんてなるもんじゃないさ「でもそしたらソワレと一緒に居られるだろう」そうだな「でもソワレ以外に愛しいものなんてない」そうか「ごめんねソワレ」
謝るのは私の方だよ、ルキ。なんで私はまだお前を失えないんだろう。お前がいないこの家なんて想像ができないことなんだよ。お前を還してやることができない。すまない、ルキ。
おまえの書いた写本が燃える炎は美しい。街の灯よりもなによりも。また書いておくれ、私のために。
椅子に座り呪文を唱える。お前の顔を見るのが辛くて私は背を向けてしまう。
呪文が終わればおまえはまた赤子から私と始めるからだ。