会合、そして
そのころヒレイたちは、言われた通りに、特別訓練所へ向かっていた。
「そこに行けば、キサラギさんがいるんだな!」
「ちげーよ、いるかもしれない。だろ。だいたい、どうやって入るんだ?第1部隊がいるんだったら、無理だろ。」
カゲミヤは言った。確かにそうだ、第1部隊がいるなかで、忍び込んで連れ帰るなんて無理だ。でも、いると決まったわけじゃない。
「さっきまで、軍の演習だったろ。だったらウシジマも軍の本部にいる。と言うことは、第1部隊も本部にいる。」
カゲミヤが降下し始めた。納得したようだ。俺も続いて降下し始める。ここには平地があるので、そこに着陸する。
そして、特別訓練所の方を見た。すると、キサラギさんがいた。目があった。キサラギさんの方もこちらを見ている。
カゲミヤが俺の方を見、そして俺の視線の先を見た。
「キサラギさん・・・。なのか・・?キサラギさん!俺です!わかりますか?」
カゲミヤはキサラギさんに呼びかけていた。だが、アイカワさんはまるで聞こえていないかのように、部屋へと消えた。
「キサラギさんがいた。」
それだけでもう良かった。キサラギさんが生きている。元気にしている。良かったはずなのに、俺は会いたいと思ってしまった。
「カゲミヤ、ここにはキサラギさんがいるんだ。捕まってんなら助けるぞ。これでさらに反逆者だ。ビビってんならついてこなくていいぜ。」
俺は建物の中へと入った。すると気づいた。この建物はおかしい。カゲミヤも気づいたようだ。
「お前も気づいたか。この壁全部、防音壁だ。しかも、精巧に隠してある。そこまでして聞かれたくないことが?」
この世界では防音壁は比較的高価だ。普通の壁の10倍はする。全体を防音壁にするなんてはっきり言って無駄遣いだ。クルハでは、重要な会議室ぐらいでしか使われない。この建物に誰がいるか自体も機密事項なのか?だから、
「見張りの兵士も、警備員もいないのか。」
「機密事項・・・。だったらなんで、ナツキが知ってる?なんでナツキに情報が流れてきた?ナツキがグルなら、飛行機が近くになく、軍本部が近くにあった、あの時が一番狙いやすかったはずだ。てことはナツキはシロ?」
カゲミヤも俺と同じことを考えているみたいだ。
「ナツキが情報を知った根端。酒場の兵士・・・。奴らは、わざとナツキに情報を聞かせたんじゃないのか?そして、ここに来るように仕向けた?だとしたら、この部屋に本物のキサラギさんはいるのか?」
俺は疑問を口にした。さっき見た人物は確かにキサラギさんだった。
「念のため、お前は飛行機の発進準備をして、15分経っても俺が戻ってこなかったら、助けに来てくれ。」
カゲミヤの言葉に俺は頷いた。
~カゲミヤ視点~
「キサラギさん!」
俺はドアを開けた。
「カゲちゃん?助けに来て、くれたんだね!」
やっぱりキサラギさんだ。俺をカゲちゃんっていうのはキサラギさんしかいない。
「キサラギさん!」
俺は再び名前を呼んでキサラギさんに近づくと、キサラギさんが急に頭を抱えて、倒れた。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
俺が必死に呼びかけると
「カゲちゃん・・・。」
弱々しい声キサラギさんは言った。
「帰りましょう、アルマ王国へ。もう大丈夫ですよ。」
「それは、できないよ・・・。」
俺が抱いた安心感はキサラギさんの言葉によって消え去った。
「えっ?どういう・・・。こと・・・ですか?まさか!カワムラさんたちが人質になっているんですか?」
キサラギさんがアルマ王国へ帰れない?理由なんてそれぐらいしか考えられなかった。
「そんなことなんかじゃないよ。」
キサラギさんはフッと笑うとこう言った。
「なぜなら・・・。お前は、いや!貴様は!ここで!死ぬからだ!」
いきなりくりだされた足払いをバク転で避けると、鋭い蹴りが腹部にあたった。
「ぐぁッッ!」
痛みを抑える間も無く、今度は顎を打ち抜かれる。俺は壁に激突し、崩れ落ちる。
「一体、どうして・・・。」
強かった。まだ、キサラギさんに負けたことはなかったのに、何もできずに敗北だ。しかも、わずか三手で。
「知りたい?俺のこと。」
俺は朦朧とする意識の中頷いた。
「なんで、トドメ刺さないんだろうね。そういう命令なのに、ヒレイがいないこともわかってるのに・・・。」
キサラギさんは不思議そうだった。だってここで敵である俺に自分のことを話す必要なんてないのに。
「お前を殺したくない。そんなこと思ってるのかな?」
それでも、キサラギさんは語り出した。これは、今より2週間ほど前の話。
~アイカワ視点~
目が覚めても、そこは暗闇だった。
「起きたのか。目隠しは外せ。」
低い声がした。目隠しがとられ、前を向く。
その瞬間、終わったなと思った。ウシジマだ。ウシジマがいた。
「なんでここに、天下の皇帝陛下が?」
ウシジマは本来こんなとこで俺なんかにあってる人間じゃない。俺にとっては雲の上なんかよりもよっぽど高い人だ。彼はシロムネ帝国の絶対的トップ。彼に逆らうことよりも恐ろしいことはないと言われている。
「ここが、俺の家だからだ。」
俺の質問が質問したのだが、律儀に答えるとは思わなかった。あんがい、天然なのか。でも、そんな発見より、大事なことがある。
「なんでお前の家なんかに俺がいるんだ?」
自分の状態を確認して、俺は敬語をやめた。
シロムネではこれだけで大罪だが、もうどうせこんなに拘束されていると言うことは、生きて返す気は無いだろう。
「お前には魔術の適性があったからだ。」
ウシジマは言った。
「は?魔術⁉︎この国では魔術が使えるやつがいんの?実例もないのに、わかんないでしょ!」
俺はこいつが変なことを言ってるのだと思っていた。
「ああ、いる。まぁお前の考えている魔術とは違うかもしれんがな。身体能力と回復能力が完全に人間ばなれするだけだ。ランクによって違うがな。」
ランク?魔術?よくわからない。
「お前のランクはAだ。そうだな・・・。だいたい、お前1人でアルマ王国を潰せる。1つ下のランク200人ぐらいと互角じゃないか?」
「うそだ、アルマ王国だって俺たち精鋭部隊。それに空軍、海軍、陸軍と民間兵もいるんだぞ。どんだけ強くても、要人の暗殺ぐらいが関の山だろ。」
そう、1人で潰せるんだったら、俺たちの訓練は無駄だったのか。違う、1人でなんかじゃ勝てるわけがない。
「不可能ではない。腕が吹き飛ぼうが、数秒で治る。」
そう言うと、ウシジマはテーブルにあったペンを持ち、近くにいた護衛の腕を突き刺した。
「何をしてるんだ!自分の部下だろ!」
突き刺された人は真っ赤に染まったペンを抜くと、治っていく腕を見せた。そこには驚きしかなかった。どんどん治っていく。やがては、傷跡さえも消えた。
「これでわかったか?しかし、全員が魔力持ちになれるわけではない。この薬に対する適性がある人間しかなれない。投入してみるぞ。」
「化け物。」
そんな言葉が口から漏れた。
「お前もその化け物になるんだ。今から」
そんなことを考えた瞬間、一気に拒絶の感情が爆発した。
「イヤダ。イヤダ、やめろ、やめろ、やめろ!」
だが俺の抵抗むなしく、あっと言う間に地面に組み伏せられた。
「陛下、準備は整いました。そいつは拒絶してるんですか?」
ジタバタとする俺をレイトは虫ケラのように見つめながら言った。
「あぁ、準備していたものを頼む。」
ウシジマは言った。すると、カワッチの姿がスクリーンに映し出された。
「カワッチ!」
イワッチの姿はひどかった。きつい拘束に加えて、後ろには様々な拷問具が用意されていた。
「キサラギだっけ?こいつが座ってる椅子さ、電気椅子なんだよね。まずは弱めに流すけど、お友達が苦しむところを見たくないなら抵抗せずに、大人しくしておきなよ。」
シラスは邪悪な笑みを浮かべた。
「お前たち言う通りにする。するから!カワッチを・・・。助けて。」
俺が運び込まれたのは、簡素なベットと、薬品だながある不気味な部屋だった。そこで俺は、ベットに縛り付けられると、レイトに注射器で薬品を流し込まれた。