シロムネ帝国への道
~上空にて~
「おい、ヒレイ!まずはどこに行くんだ?」
カゲミヤから無線が飛んできた。
「森だ。キサラギさんの日記に書いてあった。捕虜がいたところは西、そしてその北には森があると。とりあえず森に行き、そこに飛行機を隠し、地図を買う。」
西という情報しかない状態ではいきなり捕虜施設には行けない。それに森なら警備が薄く不法入国しやすい。キサラギさんを探してると正直に言って入国すればいいが、なんだか胸騒ぎがする。不法入国の方がいいと本能が叫んでいるのだ。
「入るまでが鬼門だな。入った後はどうとでもなる。」
俺は自分に暗示をかけるように言った。そう、入った後はどうとでもなるのだ。でも森だからと言って上手く侵入できるのだろうか?
「気を引き締めろ!シロムネ帝国が見えたぞ!」
そんなことを考えていると、カゲミヤから怒声が飛んできた。
「わかった。俺たちから見て右方向にあるあの森だ。あんまりすごいことをして怪しまれるなよ。」
俺たちは飛んだただひたすらに森の方に集中して、すると
“ダーァーン”
という音が聞こえた。
「カゲミヤ、この後はなんだ!」
俺が聞いてもカゲミヤは答えなかった。
「おい・・・カゲミヤ?」
「・・・軍だ。軍の演習だ!」
嘘だろ・・・ そんなことしか考えられなかった。だがもう遅い。こっちから見えるということは、相手から見えるといること。ここはシロムネ帝国の領空内。相手の戦車が煙を上げたのが見えた。そのときカゲミヤの無線から叫び声が聞こえた。
「カゲミヤッ!」
そして次の瞬間、俺の機体に激しい衝撃が走った。なんとか体勢を立て直そうとしても、体に力が入らない。意識がもうろうと・・・。
「ヒレイッ!ヒレイ、起きろ!」
あれ?俺の上にカゲミヤがいる。2人とも死んだはずなのに。そうかここは天国か。
「天国でも一緒か。腐れ縁なのか。」
「は?お前何言ってんだ。俺たちは奇跡的に生きてたんだよ。それでここは多分森だ。」
その口調とは裏腹に、カゲミヤは涙を流していた。
「生きてんのか?俺。」
俺は頬をつねってみる。
「痛ッ!」
痛かった。すごく痛かった。でもそれと同時に喜びが湧いてきた。
「ヒレイ、そんなことしてる場合じゃねーんだよ。飛行機が動かない。積んでた荷物もパァだ。どこに町があるかもわかんねーし。キサラギさんを探すなんて無理だ。俺たち自体が生きれるかもわからない。」
その報告は絶望的だった。それにどこまで時間が経っているかわからない。今すぐにでも軍の人間が来てしまうかもしれない。
すると近くの草がガサガサと動いたのだっだ。
ナツキ視点
俺はナツキ。シロムネ帝国の整備士。カンダル共和国から無理矢理連れてこられた。今も軍の雑用としていいように使われている。なんで整備士の俺が薬草をとってこないといけないんだ。そんなことを考えていると、森の奥から誰かの声がする。
「なんだ?」
仲間のテツやヤマが周りを見回す。そして何かを見つけたようにじっと見つめている。
「何があるんだ?」
俺はその場所を見た。するとそこには、飛行機が動かないと言っている黒髪の青年と小柄な青年がいた。確かにあの状態では動かないだろう。整備士として、気持ちが昂る。俺は恐る恐る彼らの元へと歩いて行った。
「ん、草が、動いた?おい!そこにいるのは誰だ?出てこい!」
黒髪の青年が叫んだ。怖いのですぐに出て行く。
「誰だ?シロムネの兵士か?」
疑われているので必死で訂正する。
「ち、違います。整備士です。シロムネ帝国のですが・・・。」
「ナツキさんどうしたんですか。こいつらきっと不法入国者ですよ。制服から察するに、クルハの軍人ですって。シロムネの兵士に言っちゃいましょうよ。即キルですよ。」
追いかけて来たテツが言う。
「ッ!てめぇ!」
2人は今にも殴りかかって来そうだ。
「ダメだ、テツ。こいつらの飛行機は動かないんだ。」
俺は喧嘩腰の2人を制しながら言った。
「だから直してあげるとか言うんですか?」
「そうだ。俺にはシロムネに逆らう勇気なんてない。でもこいつらにはあった。すごいと思ったし、シロムネに一泡吹かせてやりたい。そうも思うんだ。」
この言葉はまぎれもない真実だった。
「・・・。ナツキさんがそう言うんなら仕方ねーよ。お前ら感謝するんだな。」
テツはため息をつきながら言った。
「あの、ありがとうございます。ナツキさんとテツさんと・・・。」
「ああ、この喋らないのはヤマ。君たちは?」
そうか、ヤマはなんも喋ってないからな。俺は思わず苦笑した。
「俺はヒレイ。こっちはカゲミヤです。」
カゲミヤと言われた青年が頭を軽く下げる。
「じゃあもう整備を始めるよ。当たりどころが良かったからすぐに終わる。」
俺は常時持っている整備用具を出すと、整備を始めた。
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「終わった!」
「こっちもオッケーです。」
テツが返事をする。
「カゲミヤたち、もう動かせるよ。でも、今飛んで行ってもまた撃墜されるだけだ。俺たちの食料をやるし今日の夕方には軍の演習は終わる。そのあとに行きな。」
「わかりました。ナツキさん。本当にありがとうございました。」
カゲミヤとヒレイはお礼を言ってくる。
「ナツキさん、そろそろ戻らないと怪しまれますよ。」
テツはあきれたように言った。
「ああ、そうだね。じゃあね2人とも」
まぁ、薬草探しに手間取ったとか言えばいいか。そんなことを考えて軍の待機場に戻ると、
「遅かったな。」
後ろから声がした。俺たちの上官である、シロムネ帝国の少佐がいた。
「薬草がなかなか見つからなかったので。遅くなってしまい、申し訳ありません。」
予め用意していた言い訳を使う。
「そうか、貴様らには皇帝陛下の専用機を作るという大仕事が残っているのだからな、気をつけろ。」
ニヤリと笑う彼に、俺はなぜこの時、もっとマシな言い訳ができなかったのだろうか。