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5(本当のこと)

 最終的にぼくが得た結論は二つだった。

 一つは、きいちゃんは幽霊になったというもの。足音や消えた靴の跡についてはこれで説明ができる。きいちゃんは死んだときも、死んでからもぼくを怖がらせようとしている。うちの親が騒がないのも、それと何か関係があるんだろう。

 でも実際には幽霊なんて存在しないのだから、こんな可能性はありえなかった。

 二つめは、実はきいちゃんは死んでなんかいないというもの。

 あの時の死体は確かにきいちゃんに似ていたけど、本当にそうだということはできない。何しろ半分以上は原型を留めていなかったから。でもそれは、きいちゃんにも関係のあることだった。殺人鬼みたいな人がいて、きいちゃんはそいつに狙われていたのかもしれない。死体は、きいちゃんに似ていたせいで殺された別人のものかもしれない。

 殺人鬼から逃れるために、きいちゃんは身を隠した。それできいちゃんはそのことをぼくに伝えるために、足音なんかの合図をぼくに送った。できるだけほかの人間には知られないように。そうでないと、殺人鬼に居場所がばれてしまうから。

 ここで重要になってくるのは、あの場所から誰がぼくを運んできたのか、ということ。そしてどうして両親が何も言わないのか、ということだ。

 二人は何かを知っている。

 きいちゃんは二人に知られないように、ぼくに合図を送っている。

 そこから考えられることは一つ――

 殺人鬼は、ぼくの両親なのだ!

 そうすれば、いろいろと辻褄があう。二人が何かをごまかそうとしていることも、本当のことを少しも話そうとしないのも。二人はぼくが見たものを夢か幻だと思わせたいのだ。

 やがて昨日とひとつづきになった今日を、ぼくは迎える。カーテンの向こうから太陽の光が差して、朝がはじまった。ぼくはある一つの決意を抱いて、一階へと向かった。

 階下では母親が朝食の準備をしていた。コンロの火や、まな板の上で材料を切る音。台所に立つ母親の後ろ姿。いつもと変わらない景色。

 でも、ぼくは言った。

「お母さん、本当のことを教えて」

 母親ははじめてぼくのことに気づいたみたいに、こちらのほうを見る。ぼくの真剣な口調に、少し驚いたように。ぼくは言葉を続ける。

「――きいちゃんはどこにいるの? 自分の家? どうしてぼくが言ったことを信じてくれないの。きいちゃんは行方不明なんじゃないの。もしかしたら、きいちゃんはこの家のどこかにいるんじゃないの」

「いったい何を言ってるの、あなたは?」

 母親は困惑した顔で言った。あるいは、そのふりをした。

「ごまかさないで。ぼくにはわかってるんだよ。二人がきいちゃんを殺したんだ。いいや、殺したつもりになってるけど、本当は違う。二人が殺したのは別人なんだ。きいちゃんは生きてる。そしてこの家のどこかに隠れて、そのことをぼくに伝えようとしている。うちの両親が殺人鬼なんだって。きいちゃんは頭がいいから、きっとそのくらいのことはできるよ。ねえ、教えて本当のことを。何もかもぼくに教えて」

 ぼくがいっぺんにそれだけのことを言ってしまうと、母親はそれでも戸惑った表情を浮かべていた。

「ねえ、何を言ってるの、良範(よしのり)

 そして、母親は言った。

「きいちゃんはもういない。知ってるでしょ? 彼女は自殺したのよ」

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