ようやく
ブッチャーは大地を進むボーンドラゴンに向け、走り出す。
ボーンドラゴンの脚に渾身の力で槍を突き刺す。
槍の穂先は、折れるのではなく、粉々に砕けた。
しかし、それぐらい想定の範囲内と、表情を変えず、穂先の無くなった槍で、殴りつける。
槍は殴るたびに曲がり、ひしゃげていく。
ボーンドラゴンに思考というものがあるのかは分からない。
一説には破壊衝動のみ存在すると言われている。
が、ボーンドラゴンは、自分の右脚に違和感を感じたようだ、そう人が腕を蚊に刺されるとき、たまに気がつくように。
そして、右脚を蚊を追い払うかのように一度、横に振り、その後前進した。
ブッチャーは空を見上げていた。
いや、空を見上げることしか出来ないというべきか。
手脚は折れ、あり得ない方に曲がっている。
胴体は鎧によりなんとか保たれているが、肋骨の数本、あるいは10本ぐらいは折れているか?
肺に刺さらなかったのは、幸運なのか不運なのか。しかし、内臓に相当ダメージがあるのだろう。血の気の失せた顔をしている。死ぬまで時間がかかるから不幸なのかも。
1秒も稼げなかった。せいぜい0.3秒か
意識を無くしそうな中、そう思ったブッチャー。
「生きてるか?」
唐突に声がかけられたと思ったら、ブッチャーの身体は光に包まれる。
有り得ない方向に曲がっていた手脚は、まるで時間が遡るように元に戻る。
内臓に肋骨も戻っているのだろう、顔色も良くなる。
「こ、これは?治癒魔法?!しかしこれ程の治癒魔法となると、上級以上?!」
「動けるか?ならば逃げろ。ここは地獄と化す。そう、炎の地獄にな。」
そう言うイケメンエルフの横顔を、ブッチャーは、少し悔しそうに見つめた。
キルヒアイスは走る。
ボーンドラゴンに向けて槍を構えてながら。
キルヒアイスの元にボーンドラゴン出現の報が届き、即座に唐揚げを揚げるのをやめて、戦場に走り出したのが、1分前。
よくブッチャーが死ななかったものだと思っていた。
「実力は有ったんだなぁ」
走りながらつい声がでた。




