老人
「ここか。」
1人の老人が呟いた。
そこは、この街で有名な店。
ラーメンと言う新しい食べ物を提供し、あっという間にこの街に根付いた。
老人は、噂に聞く度に、食べたいと思っていた。だが、仕事で忙しく、なかなか来れなかった。ようやく仕事を片付け、部下に内緒でコッソリ来たのだ。
変装までして。
今日はかなり客が並んでいるが、そんなものは予想していた。超有名店だ。当たり前だと。
最近、冷やしラーメンという新しいメニューが人気らしい。
老人は悩んでいた。
元々のオーク骨ラーメンを食べるか、新しい冷やしラーメンを食べるか。
ようやく店に入ったとき、やはり最初は、オーク骨ラーメンにしようと決断した。
「オーク骨ラーメン、お待たせしました。」
にこやかに店員の女性が、持ってきたその見た目は、確かにスープパスタとは似てはいるが、別の食べ物だ。
店の壁に食べ方が書いてある。
箸というものを手に取り、レンゲと呼ばれるスプーンのようなもので、まずスープを一口飲んだ。
濃厚な味がした。オークの骨とは、これほどの味が出るのかと驚いた。
次は麺だ。箸の使い方は、難しくて上手く麺が掴めないが、なんとか摘み、口に運ぶ。
ツルツルとした食感と、ぷつんと切れる歯ごたえ。スープと絡んで、絶妙なバランス。
メンマと呼ばれる筍のトッピングと、ネギのアクセント。
全てが心地良い。
普段の食事とは全く違う、そのラーメンに、老人は無言の食べ続けた。
食べ終わったとき、器には、スープが残っていなかった。
全部飲んでしまったのだ。
老人は悩む、次いつ来れる?冷やしラーメンは、暑いとき限定らしい。暑いうちにまた来れるか?
「すいません、冷やしラーメンもお願いいたします。」
気が付いたら注文していた。
「お待たせしました。」
少し深めの皿?に盛り付けられた麺と、その上に綺麗に盛られた卵や野菜。
しかも、氷が乗っている。
この暑い時期に氷など、老人の自宅ですら、滅多に出ない。
サッパリとした味なのに薄い訳ではなく、氷で冷やされた麺は喉ごし良く、爽やか。すでにオーク骨ラーメンを食べた後にもかかわらず、冷やしラーメンを食べる手が止まらない。
「王!どこに行かれていたのですかっ!我ら近衛が散々探しましたぞ!」
近衛騎士団の団長が、煩く言うが、適当に誤魔化し、玉座の奥の執務室に入る。
「お爺様、ラーメンはどうでした?」
孫娘には、バレていたらしい。
孫娘は、この国1番の魔法使いで、探知と言う魔法で、誰が何処に居るのか調べられる。近衛の団長に言わなかったのは、孫娘の優しさだろう。
「素晴らしかったぞ!オーク骨ラーメンと、冷やしラーメン、どちらも全部食べてやったわい!お主も機会が有れば、是非行くべきだ。」
「それは良うございました。それほどなら、私も行ってみようかしら。」
少し悪い顔をして、孫娘が笑う。
この子は、ワシに似て、ヤンチャなところがあるから、そのうち行くだろうな。
行くのなら味の説明はしない方が良いだろう!あれは食べないと分からないしな。
「行くときはバレないように行けよ。」
ニヤリと笑い、孫娘に言うのだった。
楽しんで頂けてますでしょうか?




