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いや、驚いたというよりポカンとしている方が正しいかもしれない。
僕が不思議に思ってジッと見ていると、
その視線に気づいたのか。
「まあ、その……」
シュウ様は恥ずかしそうにメガネのフレームを押し上げると
ふ、と何を思ったのか僕を鋭い目で見た。
「執事、確か七瀬といったな」
「は、ハイ。どうされましたか、シュウ様?」
それがどうしたんだろう、とシュウ様を見つめていると。
シュウ様は綺麗な輪郭の顎に手を当てながら眉を寄せた。
「執事、君に兄弟はいるか。姉か妹どちらか」
突然の、思いもしなかった質問に僕は首を思いっきり捻った。
「いませんけど……」
不思議に思いつつ答えるとシュウ様はそうかとだけ言った。
だけどその額には先程より一層濃い皺が刻まれていた。
(…………?)
質問の意図が分からず、
僕はただただシュウ様を見つめていた。
そんな僕に対してシュウ様は再び本を開くと。
「悪いが僕は教養を深めているのでね。出来れば一人にしてほしいんだが」
またもや冷たく言い放つと本に向かってしまった。
仕方なく僕は、図書室を後にすることにした。
「では、失礼しました」
ドアの前で一礼して出て行こうとすると、
思いがけない事に背中に声が掛かった。
「言い忘れていたが、執事。僕のことは名前で呼ぶな。いいな」
その言葉に、少し悲しくなりながらもハイとだけ返事をして僕は図書室を出た。
再び廊下に出てはぁっと重い息を一つついた。
シュウ……じゃなかった黒瀬様は何となく冷たい感じの雰囲気だった。
それに片方にだけ手袋をしているのも気になる。
——だけど黒瀬様って……。
(根は優しい人、に見えるんだけど……)
そんな事黒瀬様に言えないけど。
言ったらきっと出てけと言われるか処刑されるに違いない筈だ。
口が裂けても言わないようにしよう、うん。
うんうんと頷きながら、僕は上へと続く階段に足をかけた。




