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図書室の中に入ってすぐに鼻をくすぐる本の匂い。
僕は本なんて高い物は私物として持っていなかったけど、
オジサンの書斎にはいっぱい本があったっけ。
どれも読み込まれていて、茶色い革の表紙の古い本だった。
オジサン、よく僕に貸してくれたんだった。
過去を辿るように遠い目で宙を眺めていると。
「……誰だ」
鋭い、切れのある声が僕の世界を切り裂いた。
その声は思わず背筋を伸ばしてしまいそうなほどの迫力のある声だった。
本を読むためのテーブルがある、奥の方まで歩いて行くと
そこには本を片手にこちらを見る一人の男の子がいた。
「あ、貴方は……?」
「訊く前に、まず自分が名乗ったらどうだ」
冷たくそう放つ男の子。
サラサラと零れる黒い髪、
縁なしメガネの奥に見える冷やかな目、細身な体つき。
本を持つ右手には、黒い手袋。
何故か片方にだけ手袋がはめられていた。
なんでだろう、と見ていると僕の視線を察したのかサッと右手を隠した男の子。
軽く僕を睨んで本を閉じながら言った。
「その格好は執事か。ノックもなし、自己紹介もなしとは……」
ハッ、そうだった。
これこそまさに、やらかしてしまったのだろうか。
この人は見るからにご主人様だ……。
「も、申し遅れました、今日からこのお屋敷で仕える七瀬千秋といいます。 無礼を働き、すいませんでした。私のこの無礼をどうぞお赦しください」
太ももにおでこがくっつきそうそうなくらい、頭を深々と下げた。
するとテーブルの方から、「顔を上げろ、執事」という声がした。
「……ハイ」
顔を上げると、男の子の顔はまだ少し険しかったもののさっきよりは幾分和らいでいた。
「言っておくが、“すいません”ではなく“すみません”だ。すいませんだと違う意味になる。分かったな。僕は黒瀬秀だ」
「は、ハイ……!」
シュウ、様……。
この人すごい、人の間違いを正すなんて。
面と向かってそう言えるなんてなかなか出来る事じゃない。
「あ、ありがとうございますっ!」
僕は何だか嬉しくてまた頭を下げた。
少しして頭を上げた時シュウ様が驚いた顔で僕を見ていた。




