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「あ、あああ貴方がごしゅっ…………!!?」
そこから先は、驚きすぎて言葉が続かなかった。
僕の奇声にマスクをした男の子は首を傾げてハテナマークを浮かべている。
そりゃそうだろう。思いっきり噛んでしまったのだから。
(や、やってしまった……?)
サーッと顔から血の気が引いていくのが分かった。
コクンと唾を呑み込む。
こ、これは早急に謝った方がいいかもしれない。
下手をすると、ご主人様命令とやらが発令されて処刑されてしまうかもしれない……!
(まだ死にたくないですっ…………!!)
命を消されまいと口を開きかけるも、それより先にマスクの男の子が口を開いた。
「なか、にわは……いい所、でしょ? ま、た……来、てね…………」
途切れ途切れで言葉を繋ぐと、男の子は目を細めた。
口元は見えないけれどどうやら笑っているようだった。
それで僕は、急いで礼をして言った。
「はいっ、それではお邪魔しましたっ!」
僕は殆ど逃げるように、その場を後にした。
○*.
「はぁ……、」
軽いため息が煌びやかな廊下に響き渡る。
……一日目なのにやらかしてしまう所だった。
処刑される所だった。いや多分、されないだろうけど。
お仕置きのような事はされる筈のレベルだった。
(気をつけよう……)
行動は慎重に。軽はずみな言動は避けよう。
大丈夫、まだ一日目だ。
気持ちを新たにしながら僕は、
廊下の突き当たりまで来たので角を曲がった。
――曲がりかけた、その時だった。
「うおっ!?」
「いでっ」
胸からお腹辺りに物凄い強い衝撃が来た。
それから、身体が宙に浮いて吹っ飛ぶのを感じた。
(いったぁ……)
床に身体が打ちつけられ、
少々顔を歪めながらつくづく思った。
……お昼、早く食べておいてよかった。
でなかったら今頃、床が恐ろしいことになっていたに違いない。
過去の自分に少しだけ感謝した。
少しすると身体の痛みもだいぶ無くなってきて、
僕はお尻をパンパンと払いながら立ち上がった。
すると苛立ったような声が何処からか聞こえてきた。
「おいっ、気をつけろよなっ! 危ねーだろーがっ」
(この声、何処から……?)
キョロキョロと辺りを見回しふと視線を下に落とすと。
「あ……」
僕の足元に人がしゃがんでいた。
突如視界に入り込んできた人物に僕はマヌケな声しか出せなかった。
「“あ”じゃねーよっ! 怪我したらどうしてくれんだよっ!」
忌々しそうに声を荒げるとその人は勢いよく立ちあがった。
瞬間、あれっと思った。
この人、背が小さい……?
「あっ、いまお前俺のこと絶対小せぇヤツだなって思ったろ! 言っとくけど俺はまだ伸びるんだからなっ!畜生、どいつもこいつも……」
ブツブツと何やら男の子が言っている。
怒られているのに、何処となく憎めない愛らしい雰囲気の男の子だった。




