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オジサンが執事として働く僕に
色々と教えてくれたこと。
一つとして、廊下での歩き方がある。
『まず仕える者としてな、端を歩かなきゃいかん。無礼の無いように音を立てずに。看護師さんは音を立てずに歩けるらしいぞ』
その言葉にならって僕は端を歩くことにした。
初めの一日目は大事にしたい。だからヘマをしてはいけないんだ。
「あ、ここなんだろ……?」
目についた場所は、廊下の向こうに見える木のテーブルとベンチ。傍には桜の木。
中の筈なのに、天井がなく青空が見える開けた場所だった。
そこだけゆっくりとした時間が流れているようで、
中に入ってみたい気がした。
そう言えばあの眼帯の男の子、探検していいって言っていたし……
「失礼しまーす……」
入っても、いいよね?
僕は不思議な空間へと入れるドアを開けて、
中へ一歩足を踏み出した。
入った瞬間、ふわりと頬を撫でる優しい風。
そよ風に漂う桜の花びら。
儚い色が胸に寂しく沁み込んで、
眩しくて僕は思わず目を細めた。
「う、わぁ……」
感嘆の声を漏らすと。
不意に桜の木の下の方でゆらっと何かが揺れた。
全然気づかなかったけれど影がチラッと視界の中で蠢いた。
「……君……だ、れ……?」
その影から微かな声が聞こえてきた。
小さい声なのに、凛とした響きがあった。
って、これって人か!
もしかして、執事の人かな?
それとも……ご主人様?
でも普通、ご主人様ってそんなにたくさんいるようじゃない気が……。
「だ……れ……?」
再度小さく問う声。
これは無礼の無いためにも早く名乗るべきだよね。
そう思って僕は急いで口を開いた。
「な、七瀬千秋です! 本日から執事として仕えることになりました。 色々とご迷惑をおかけしますが宜しくお願いします。以後お見知りおきを」
殆ど息継ぎをせず、
捲し立てるように言ってしまった。
だから僕は……、気づかなかった。
「な……なせ……」
桜の木の下にいる人、であろう人の肩がピクッと震えたことに。
声のトーンが少し、低くなった事にも。
「…………ぼ、くは……」
ゆっくりと影がこちらに近づいてきた。
すると体全体が光で見えるようになった。
銀色に光る長めの髪、琥珀色の綺麗な瞳、スラリとした長い手足。
一見王子様に見えるのに、
何故か顔半分は黒いマスクで覆われている。
マスクって普通、白色じゃないのかな?
それになんでマスクしてるんだろう?
「……白瀬…………しろ、と言いま……す。いちお……主で、す」
シラセしろさんか。かなり面白い名前だなぁ。
主って事はご主人様ってことか。へぇ、この人が……。
(――――……ん?)




