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驚きで心臓が跳ねるよりも早く、

僕は声の方へと身体を向けていた。

 

 

 

(誰だろう――……?)

 

 

 

そう思って視線を捕らえた人物。

 


深い蒼色のさらりとなびく髪は、煌めく二つの瞳と同じ深い蒼色。

右の目には黒い眼帯をつけていてあまり表情は読み取れない。

 

 

女の子受けの良さそうな格好のよい顔立ちの男の子だった。

 

 

 

「おい、聞いてるか。ボー人間」

 

 

 

眼帯の男の子は蒼色の瞳を飾る眉を寄せると、怪訝な顔で僕を眺めた。

そして何か思い当たる節があったのか突然パチンと指を鳴らした。

 

 

「あぁ、お前が新しく入る執事か」

 

 

 

納得したように頷いて見せ、それからついて来いとでも言うように顎をしゃくった。

 

 

 

「お前の部屋はこっちだ」

 

 

 

そのまま、返事も待たずにスタスタとお屋敷に入っていく。

 

 

 

「あっ……ハイ」

 

 

 

置いて行かれないように、

慌てて僕もお屋敷の中に足を踏み入れた。

 

 

 

――それにしても。

 

 


(あの人がご主人様、なのかな?)

 

 

 

五メートルほど先を行く、無駄な筋肉のついていない背中を見ながらふと思う。


案内してくれるのだからきっとそうに違いないよね。

 

 

 

それよりもさっき、 “ボー人間”と言われた気がしたけど、

あれはもしかして僕のことなのかな?

 

 

ふかふかの赤い絨毯を恐々踏みながら、ふっと上を見上げた。

 

 

お屋敷といえばシャンデリアだと想像していたけれど、

このお屋敷はそうではなかった。

 

一定の距離にキャンドルが灯されていてそれが壁に掛けてあった。

 

 

 

(こんな素敵な所でお母さんとお父さん三人で住めたら良かったのに)

 

 

 

二人のことを考えると鼻の奥がつんとなった。

 


 

僕は、二人がどのようにして亡くなったのか知らない。

顔でさえも濃い霧がかかっているようで全くと言っていいほど思い出せない。

 

 

……ただ一つだけ記憶に残っているのは。 

お母さんの温かいぬくもりと優しい声色。

 

 

そして、あの約束――……。

 

 



『貴方は男の子なのよ』

 

『絶対に泣いちゃだめ』

 

 

 

僕がオジサンの家を出ていく時、

オジサンは僕に言ったっけ。

 

 

 

 

『千秋くん。君の泣いたところをわしは一回も見たことがないよ。だからというのは変だが、泣ける大人になってほしい。泣かないのだけが強いというのではないんだよ』

 

 

 

つまり僕は泣いたことがないらしい。

生まれた時は当然泣いたんだろうけど、あの約束からは泣いていないと言うのだ。

 

 

 

(泣く、か――……)

 

 

 


そんな感情さえも遠い昔に置いてきてしまったかのように。

僕には未知の領域に思えた。

 

 



 

 

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