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シンクロニズム

 大家平は、目押しができない。

 スロット歴2週間じゃぁ無理もないか。

 ぃや、経験じゃなく才能かもしれない。

 おれも何回か座ったことがあるが、上から下へ流れる図柄を把握する能力に乏しいらしい。

 世の中には、二種類いる。

 見える者と、見えない者。

 おれは、後者。

 お化けから将来まで――ありとあらゆるものが見えないまま、今日こんにちに至る。

 でも、そんなことは関係なく……素人だろうが、勝つ時には勝つ。

 結局――運だけだ。

 コンピューターで制御された近年のパチンコ及びパチスロは、特にその要素が強い。

 30兆円産業にまで成長した業界は、射倖心しゃこうしんあおると一時騒がれたが、娯楽性もグレードアップして「あのレアなリーチアクションが見れたから負けたけどいいや」的集団催眠で、ギャンブラーモドキどもの脳を確実に支配しつつある。

 基本的にやらないおれにとっては、どうでもいいことだが……。

 昔(もう10年近く前か)大学行ってた頃は、おれもハマってた。ちょうど、CR機というのが出てきた時期だ。たま〜に大勝ちする日もあるが、トータルでは大損している。

 極めるつもりがないおれにとっては、豪勢な暇潰しになっていた。

 あの頃は……人生は暇潰しだと、本気で思っていた。

 おれの行動範囲内にあるパチンコ屋は、現在はどうか知らないが……美しくなかった。

 ヴィジュアル的にという意味だけではなく――タバコがたまらなかった。

 それ以上に金もたままらなかったが……。

「ギャンブルで儲けた金は、ギャンブルに消えていく」――昔、誰かが言ってた。

 のを、ついこの間も思い出したような気がするのは気のせいか?

 その点、管理人は立派だ。

 増えた軍資金を握って、カジノへ大勝負に出向くわけでもなく、小さな儲けを有る時払いで返済に充ててくれる。

 貯金を引き出せない日も、残念ながらあるわけだが……。

 催促はしないが、頑張って儲けてくれるとありがたい。

 貸主は今日も出勤日だ。

 スロットの師匠である借主と一緒に。

 ……金じゃなくて、部屋のね。



 母親らしき女に「ケンタ!」と叱責しっせきされた少年は、一口(かじ)ったフライドチキンを渋々、妹らしき少女の手に渡した。

 類は友を呼ぶ――という喩えは、適切じゃねぇか……。

 白い顎鬚あごひげたくわえた老紳士は、いつの間にか衣替えをしていた。

 右手首に引っ掛けている杖が、おれのイメージするサンタクロースっぽくない。

 が……ステッキを振りかざしたらプレゼントが現れるという設定だと思い込めば、それなりに素敵な物語にはなるか。

 昔おれは、映画か何かを観て――リチャード=アッテンボローがサンタのおじさんだと、本気で信じていた。

 あの頃はおれも無邪気でえぇ子やったのに……。

 1ヵ月以上も前だというのに――カーネル=サンダースは、冬を先取りし過ぎだ。

 そんなに焦んなよ。

 季節が近付けば――取り留めのないようなことでも、過敏に反応することが増えていくかもしれない。

「クリスマスかぁ」

「……もう、そんな時期か」

「恋人たちの季節。だね」

 クリスチャンでもないやつには、無関係な筈のイベントだ。

「あの赤い衣装は、コカコーラ社がイメージ付けたんだゼ」

 おれの後ろに座った男が、対面の女に知識をひけらかせた。

 おれも知ってる。

 確か……今は無き、ワンダフルか何かでやってた。

 補足すると、あの人形の老眼鏡には、ちゃんと度が入っている。

 だからって、盗んでいくヤツがいるとは思えないが……。

 そして――一度も弾まず、カップルの会話は終わった。

 相槌あいづちすらなく……。

 女の前で、おれがこのネタを使うことは……何か、どんどん消極的になっていくような気がする。

 ……ぃや、今年こそは独りじゃないクリスマスイブを――。

「O」

「おんなじだ。じゃあ、星座は?」

「射手」

「すごーい! 運命かも」

「うちの親父も、射手座のO型だぞ」

「なにどし?」

「トラでしょ?」

「あぁ……おれはね」

 似非えせサンタよ、贅沢ぜいたくは言わない。

「もしかして、誕生日もいっしょだったりして。ねぇねぇ、せぇーので言おっ」

 紗唯に……平均寿命という【平凡】なプレゼントを――。


   せぇーの!


 11月15日――考えてみれば、六十億以上の人間が地球上に生きてるんだから、別に驚くようなことじゃないが……おれと同じ誕生日の人間もいるということを、初めて知った。

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