ビギナー
携帯電話を耳に近付けると、電波の所為か気分が悪くなるらしい。
それが切っ掛けで、アナログだったこのおれも遂に【携帯する受話機】から【ケータイ】に切り替えた。
家の電話は相も変わらず、未だに黒電話だが……。
おれが初めて買った(って言っても、本体はタダなんだけどね)IDO時代のcdmaOneは、強制的機種変更の対象にはなっていないから……auに機種変しても有料になっちゃう。
Cメールしかできない機種では遠く離れている紗唯と話すことができない。
ノートパソコンでもメールアドレスを取得していないし、Cメールすら一度も使ったことがないおれが、携帯を替えたからっといってメール機能をすぐに使いこなせるとも思えないが……必要に迫られる状況下にある今なら、きっとこれからのグローバルスタンダードに馴染むことができるだろう。
今売り出されている携帯の中で、メールの保存数が一番多いという理由で――D504iを買った。
ケチなはずのおれが、30ヶ月使用して貯めた割引ポイントを捨てて……信じられない。
最初のアルファベットはメーカー名を表していて、Dは三菱のことらしい。
三つの菱形をダイヤモンドに見立てて、その頭文字のDだそうだ。
どうしてMじゃなくてDなのかと店員に訊くと、また同じセリフが返ってきた。
「ですからね、お客さん――」
おれが訊きたいのはそんなことじゃなくて……まぁいい。
それを知ったところで、おれがミツビッサー(おれ造語:三菱をこよなく愛するユーザーの総称)になるわけでもねぇし……。
価格でもデザインでもなく、機能性オンリーで即決する買い物なんて……まぁ、デザインはそこそこいいんだけどね。
こんなスピーディなショッピングは、今までの優柔不断なおれでは考えられない。
田中且行には、申し訳なく思っている。
YAHOO!キャンギャルとの談合の隙を与えなかったから……。
☆
電波という様式は、いろいろと障害がある。
ペースメーカーに支障を来たす恐れがあるからここは駄目とか……。
だから、電波に代わる全ての人に無害な【何か】が発見されなければ、本当の意味での癒しは訪れないんじゃないだろうか?
殆ど活かせない機能を追加するのもいいが、特定の人に便利なのではなく、バリアフリーツールとして安心して誰もが利用できるケータイを追求することこそが、賞讃されるべき叡智である。
関係者各位――健闘(検討)を祈る。
☆☆
こんな小さな商品なのに、どうして取扱説明書はこんなにも分厚いんだ?
そう感じるのは、やはり今のおれにとって、どうでもいい機能が備わり過ぎているからだろう。
カメラが付いてたら、もっとページ数が多いんだろうなぁ、きっと。
全機能を使いこなせるまでは、携帯電話の取扱説明書を携帯しなければならない。
……何とも理不尽な。
おれはただ、紗唯とスムーズに【会話】がしたいだけなのに……。
トリセツも然ることながら、悩みに悩んで……これは優柔不断な性格とは何の関係もなく、おれに文才がないだけの話で……漸く、自分の名詞の裏に手書きで控えておいたアドレスにメールした。
購入してから……4時間が経っていた。
返事は――早かった。
^o^
11月5日――おれの人生初メールは、クロヤギさんに食べられることなく……送信も着信も、無事に届いた。