シーマン
失う物が、増える傾向にあるらしい。
と言うか、それが前兆だったのかもしれない。
このエピソード自体は……デキなかったコト以前の出来事だ。
TVがイカれた。
白石美帆のエクボに見惚れていたら、急に画面が落ちた。
84年製じゃ、もう寿命だ。
18年なら、よく持ったほうだと思う。
ノーテレビデーで5日間生活したが、あまりにも暇で就寝時間が早くなるため、新調した。
おれが自分で金を出して家電を買うのは、この時が初めてだった。
小学校から付き合いのある田中且行がエイデンのポイントカードを持っていることを思い出し、加算してやると言って誘い出した。
おれは基本的に、1人でショッピングするタイプの人間だ。
時間の自由が利くし、他人の意見を気にしなくて済む。
その時も……そうすれば良かった。
デザイン重視のおれに、自称カリスマフィッターは「同じ値段なら大きいほうがいい」と言って、別の商品を勧めた。
店員のおっちゃんよりも積極的で……店員のおネーちゃんに対しても積極的だった。
なかなか決まらなくて、気分転換も兼ねてパソコンのブースに入った。
デスクトップを泳いでいる人面魚をクリックしたら、
「あー、ビックリした!」
――こっちが吃驚した。
全く、表情変わってねぇし。
面白かったウィークリーランキングベスト1が……ソレだったと思う。
半荘終わって、サイクロン式クリーナーを横目に、同じバラエティ番組だらけの映像空間に戻った。
4時間迷った挙句――第一印象の14インチを買った。
リモコンはダサいけど、本体のデザインとカラーが気に入ったから。
彎曲していないフラットのやつ。
バリアフリーの時代やから。
前の映らなくなったテレビジョンは19インチだったので、サイズ的にはコンパクトになった。
ちっちゃい良さは、ちっちゃいやつにしかわからない。
「もう二度と、オマエの買い物には付き合わない」
1000円で1ポイント――時給6ポイントの仕事は、決断力のある男にとって退屈過ぎたらしい。
しかし、それ以上の収穫があったことを……後に誘われた合コンで知った。
あいつのリストの何番目におれの名前が載っているのか知らないが、酒が飲めないおれをどうして誘うんだろう。
素面で場を盛り上げられるほど、おれは名脇役じゃない。
と思いながらも、断る妥当な理由を失ったおれは、何ヶ月か振りに――確実に元の取れないワリカンを引き受けた。