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ドライブスルー

 おれの外廻り営業は、先月末で打ち切りになった。

 営業所の中に缶詰だ。

 売れっ子マンガ家になったら、こんな感じかもしれない。

 物件のデータ整理やら引継ぎ用の書類やら何やら――事務的な作業から解放されず、定時まで只管ひたすらデスクワークに勤しんだ。

 ちょっと遅めの昼メシを食いに吉牛へ出張っただけだ。

 歩いても疲れない程度の距離にあるのだが、車を出した。

 何となく……洗車してみようという気分になったからだ。

 今までは休みの日に自分でレヴィンを洗っていたが、時間が作れなくて……それ以前にやる気も起きなくて、ここ2ヶ月くらい洗っていなかった。

 いくら看板に「布」という文字が誇張してあっても、キズが付きそうで怖かった。

 金を出してまで、わざわざリスクを背負う必要もない。

 が……初めて、ガソリンスタンドにある洗車機に通した。

 預金通帳を出そうと思ってダッシュボードを開けた時、藤吉秀彦にもらってすっかり忘れていたタダ券が出てきた。

 二車単56.3倍に1万円賭けて儲かったおこぼれが、これだ。

 会社の後輩(あっちが結婚を決めた時まだこっちは退職が決まってなかった)として招待されているから、来月にはご祝儀も出さなきゃならない。

 相当の引き出物をもらわないと、割に合わない。

 まぁ……もらいモンだから文句は言えねぇけど。

 出光に入ったのも、これが初めてだ。給油もせずに……という罪悪感は、おれにはない。

 コンビニでトイレだけ借りたり立ち読みだけして店を出たりすることは多々ある。

そういうのも全部ひっくるめた【サービス】だと思っている。

 今すぐ必要としないハイチューとかを「水道代とトイレットペーパー代の足しにしてください」という勘定科目で無理に買うことはない。

 泡混じりの集中豪雨に見舞われている最中、メールが届いた。

 普通の……だった。

 ――心配して損した。

 金を賭けたわけじゃないから、それほどの大打撃はこうむらなかったけど……路駐した時に見廻して見たボディは、綺麗なものだった。

 何週間か何ヵ月か後に――300円を捻出できたら、たぶんまた利用するだろう。

 労力を使わない、楽なほうへ――そこにビジネスチャンスはあるのだろうが……愛車への想いが、だんだん薄れていく。

 愛社精神も稀薄だし……。

 給料が入っても、相変わらず並だが……初めて「ダクダクで」と注文してみた。

 肉の量が少なく感じた。

 ぃや……玉葱が多い分、実際にそうなのかもしれない。

 店内では紅生姜と一味が摂り放題なので、食べては足し食べては足していった。

 底の米までつゆの味が染みていた。

 この生活が、たぶん――あと2週間くらい続くだろう。

 ……普通の「並一丁!」で、いっか。

 ……普通を装って、返信した。

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