寝入る
エロ系メールは1件あったけど……他にはない。
こっちがメールを返していないからだな、絶対。
もう寝ている――なんてことはだろう。
昨日が今日の早い時間まで起きていて(わかり辛い言い回しだな)メールを送ってきたんだから、たぶん今日もすんなり眠れるとは思えない。
おれ以上に不安があるに違いない。
「手紙を郵送しました」というメールを送信すれば、ちょっとは気が紛れるのか?
……ぃや、余計に気なるだろ。
とにかく――明日だ!
紗唯との実現が現実味を帯びてきて……今ではもう有り得ない、リカとの過去を想う――そうやって現実逃避する自分に、嫌気が差している。
性格を変えるのは、簡単じゃない。
ぃや……変えられる運命にある人間にしか無理だ。
おれは……変革なんか、これっぽっちも望んじゃいない。
目の前のことを考えないように、楽なほうへ楽なほうへ――。
「若いうちの苦労は買ってでもしろ」と、年寄りは言うが……余裕がない。
財政難という意味では、これも立派な苦労と言えるかもしれないけど。
超高齢化社会だからって、与えられるだけの老人が文句を言う筋合いはない。
今、おまえらが苦労しろ。
少子化のサイクルは経済的な豊かさが見込めれば、無能な政府が何の策も講じなくてたって勝手に歯止めが掛かる。
あの時は……都合良く、十川謙哉が逝ってくれた。
だから、暫くはリカを避けたという現実を忘れることができた。
友人の死でさえ言い訳にして……おれは薄情だ。
罪は――おれ以前に始まっていた。
おれは、イブよりも初心だ。
裸であることの――心を丸裸にされる羞恥心を払拭しない限り、長い時間を他人と一緒に過ごすことなんてできない。
いずれは――種を繁殖させる術が、セックスではなくなるかもしれない。
しかし、現段階において……おれのような人間は、世代と世代の繋がりに存在するべきじゃない。
昔聞いたことのある、命の蝋燭の火の話――死にかけのやつと交換できるなら、そうしてほしい。
楽になりたい。
今日は――今日のうちに、毛布と掛け布団を頭まで被った。
すぐに眠れるかどうかは別。
かなり寒いから……ファンヒーターの灯油、もったいないから。