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ブレイブハート

「後悔のない人生はない。それだけ重要で意味のある岐路きろに立って未来を選択するから。現在に於いては、全てが正しくて全てが間違っている」

 ――脳内で【言葉】が交錯する。

 おれの心には自己監理責任能力がない。

 だから、頭でしか考えられない。

 心のままに生きられるほど、おれは強くない。

 ぃや……強さとは言わないか。

 とにかく――時間が解決してくれる問題じゃない。

 おれが決めないことには、アナログ時計の針は1パルスも進まない。

 選挙権すら、一度も行使したことがないのに……。

 おれは支配者じゃないから、こっちは止めてあっちは流す――なんて、器用なことはできない。

 進まないのは、ココロの奥にある時空を超越した次元で……支離滅裂だな。

 ただひとつ確かなことは、おれがどうであれ、紗唯の秒針は刻一刻と――セットされた【アラーム】に向かっている……。

 紗唯には残り時間がない。

 だから、後悔させちゃいけない。

 満たさなきゃいけないし、おれ自身も満たされなきゃいけない。

 最悪、そう演じなきゃいけない。決断が、同情だと勘違いさせちゃいけない。

 だから……そこには触れられない。

 紗唯には……罪がない。

 だから――おれ自身の枷をさらけ出さなきゃならない。

 ……あれで、良かったんだろうか?

 鼻の下まで湯に浸かって、返信内容を思い返してみた。

 着信から約9時間考え抜いて出した結論は――【メール】ではなく【手紙】だった。

 紙に、手で書いた、直筆の、文字通り――手紙だ。

 ポストに投函するのではなく、直接郵便局の窓口にいる職員に「速達で」と言って手渡した。

 抽象的だと信じてもらえないと思ったから、具体的な固有名詞を出した。

 見ず知らずのオンナを引き合いに出されて……それでも紗唯は、架空の人物だと思っているかもしれない。

 おれは、リカを拒んだ。

 リカは訊かなかったから、おれはその理由を口に出さずに済んだ。

 リカは自分に非があると思い込んでくれただろう。

 だからおれは、リカの仕事を言い訳にできた。

「勿体ない」

 ――おれとリカが付き合っていたという事実を知っている連中がこぞって吐くセリフは、全くその通りだと思う。

 おれと過ごした数ヶ月は、リカにとって――全くの無駄だった。

 真実は……リカだったからじゃない。

 相手が誰だろうと、おれは性交渉を避けるつもりでいた。

 おれには生まれつき枷がある。

 極めて肉体的な欠陥だ。

 イブが禁断の果実を口にしなければ、その系譜にあるおれだって羞恥心に気付かないガキのままでいられたかもしれない。

 体格がガキと変わらないことは……もう諦めている。

 そのことに関して、両親を責める気はない。

 確かに両方とも小さいほうだけど、こいつは身長はと違って、遺伝ではなく突然変異による代物だから……彼らに過失はない。

 寧ろ感謝している。

 それすらも言い訳にすることができるから……。

 しかし本当の真実は、極めて精神的な枷にある。

 これは、生まれつきではない。

 森本誠を形成するにあたって、誰かの影響を受けた記憶はないから……おれ自身の選択ミスの――罪重つみかさねだ。

 おれにも恋愛は許されているんだと気付いた時には――修正する選択肢が、どこかに消えてなくなっていた。

 50・50が誤作動を起こして、みのもんたが焦る姿が目に浮かぶ。

 おれは……セックスが怖い。

 現実は、理想を汚す。

 おれの憧憬どうけいも、パートナーがおれに抱く幻想も――。

 あえいでゆがみにくい表情が嫌い。

 それほどの快楽を与えられる自信がない。

 他人のセックスを観賞してスる自慰じい行為は、そういった不安を払拭ふっしょくするためだ。

 だから、射精した直後、どうしようもない罪悪感に襲われる。

 独りじゃ、相手を満足させたという達成感を得られない。

 それでも、求めようとはしない。

 セックスが切っ掛けで嫌われる喪失感のほうが、好意を利用して肉体関係を結ぶ快楽よりも先行してしまう。

 全ての人間はセックスで生まれてくる。

 故に、セックスに不向きな体と心が同居してしまうと、存在そのものを全否定されるような感覚がある。

 セックスをしているおれのイメージが、わかない。

 セックスが、わからない……。

 不用意に息を吸った瞬間――鼻から湯を飲んで、せた。

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