ミルキーウェイ
ミルキーウェイ
イマドキ珍しく……ぃや、時代を言い訳にするのは良くないな。
家族を大事にする【いい子】だってことは、初日からわかっていた。
おれに人を見る目があるとは思えないが……【いい娘】を演じているようには見えなかった。
できる限り親元にいたいと思うのは――母親が死んでから、男手ひとつで育ててくれた父親に対する恩返しの意味があるのかもしれない。
男と女のエゴで生まれた子供を育てるのは、当然の親の義務だと考えているおれには、そういう感覚で両親を見ることはできない。
利益性を失って尚、老後の面倒を看てもらおうなんて、厚かましいにも程がある。少子化に歯止めがかからないことが不変の事実であるならば、高齢化を解決する術を見出さなければならない。でなければ、現行の年金制度はいずれパンクする。金は、生産性豊かなところに流れなければ決して増えることはない。将来的に還付されるという考え方ではなく、現在を運営するために納付しているのだと認識を変えなければ――多くの可能性を有する若い世代の暴動が起きるのも時間の問題だ。老人ビジネスで雇用を確保できる? 姨捨山計画を発動して老人介護システムをスリム化したほうが、公の財源的にも個の自己実現のためにも、ずっと有益な筈だ。
……紗唯には言えねぇな、こんなこと。
☆
娘を持つ親の気持ちを知りたかった。
……もとい。
住人を、我が子のように見守っている管理人の見解を。
「毎日一緒だと、疲れちゃうんじゃないかな? きっと、張り切りすぎちゃって……9回までもたない。延長になるかもしれないしね。きっと衰えていく過程を見せたくないんだよ……本気で愛してる男性には」
おれが誰かに恋の相談をすることは――これが初めてだ。
☆☆
末松忠が店舗の様子を見に来る――その時にだけ、おれと紗唯は逢える。
この地上に川は幾つかあるけど、道路特定財源とか呼ばれる公共事業費を食い潰して……ダムもあれば、橋も架かっている。
逢おうと思えばいつでもゼロにできる距離だから、牽牛と棚機津女のようなロマンチックな物語にはならない。
河川が氾濫して橋が崩壊したとしても、飛行機やヘリコプターがある時代だし。
一度も乗ったことはねぇけど……。
潜水艦が沈むのは理解できるけど、あんな鉄の塊が空を飛ぶ原理は信じられない。
――早くこっちに引っ越して来ればいいのに、と思う。
おれには仕事があるから動けない。
男尊女卑か?
ぃや、働く人を尊び無職の人を……とにかく、愛するふたりなら少しでも――1分1秒でも多くの時間を共有したいと思うのが、自然な流れだ。
……昔のおれなら【思うだけ】に留まっていたかもしれない。
「遠距離恋愛って、ホントっぽい」
紗唯は、そう言う。
離れていても心を通じ合えることが真実の愛だと。
それは絶対に、壊れない運命なのだろう。
根拠なんかなくても、これが運命だと思い込むことができれば、簡単に信じることができる。
「おにぃちゃんと紗唯は、きっとだいじょぉぶだよ」
おれも、そう思う。
壊れるほどの長い時間を、許されていないわけだから……。
「でも――」
肉体が単なる媒体で、精神が命の本質であるとするならば、体がどんなに離れていたって、お互いに心を感じ合える筈だ。
そのためには、声だったり文字だったり意味不明なキゴウだったり――気持ちを伝える媒介を必要とするわけで……やはり、肉体は必須だ。
肉体と精神が融合して、初めて「イノチ」と呼べる生命体が誕生する。
確実に相手の存在を確認できる関係にあるのなら、体温が触れ合える距離にいたいと思うのは必然で……。
大好きな声が聞けないのは、ちょっとだけさみしいなぁ
11月21日――1/f(エフ分の1)の揺らぎなどであろう筈もないが……初めて、声を褒められた。