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~Epilogue~

あの事件から数日がたった。ウンディーネの死体解剖や身元調査等が行われたがそこからは何も産まれなかった。

死体からの調査はDNAの入手がやっとでそれ以上の事は焼けただれていてほとんど意味をなさなかった。彼が自殺をしようとしたときに体内の水を沸騰させたのが原因だろうと考えられている。

身元調査もほとんど何もわからず、DNAからキャラクスト王国出身であろうことが突き止められたが、それ以上の事はわからなかった。現在も調査は続けているらしいが何も得られないだろうと俺は考える。

また、これは事件後に発覚したことだがフィラル=スライトが燃やされた形で茂みの中から発見された。微かに残った衣服の後からフィラル=スライトであることが分かったが彼から情報を得ることは不可能だろう。当局では戻りし楽園リターンエデンの仲間切りとみている。俺は正解だと睨んでいる。穢れに落ちた人間はいらないというようなことをウンディーネが言っていた。つまりは俺たちに負けたフィラル=スライトも穢れに落ちた人間と判断されたわけだろう。

また、俺たちは緊急な出撃やその後の事件の調査に駆り出され休む暇がなかったため現在は長期の休暇をもらっている。

因みにフローラはその間に退院、変わってサラが入院することとなった。といっても検査の結果も順調だったみたいなのでフローラと同じようにすぐに退院できるだろうが。

「にしても……なぁ」

俺は狭くなった部屋を見ながらため息をつく。別に子どもが嫌いなわけではないし、NSAP時代では子どもを救い出すために仕事をしたこともある。だが、これにはいささかなものかと少し思ってしまう。

「なあに、お兄ちゃん?」

「あぁ……いや、気にするな」

俺のため息に気が付いたのがナギがお喋りを止めて俺の方に振り向く。それに曖昧に答え、もう一人の同居人に声をかける。

「どうだ?ここでの生活には慣れたか?」

「うん!!むらにいたときよりいろんなものがあるしたのしいよ」

元気に答えるのは、リリ・カミュール、ナギとともに増えた新たな同居人である。

「まぁ……そうだろうな。あの村よりは色々そろってるだろうな。社会学習も兼ねて色々見て回るのもだいいだろう。俺がついてこれないときは別の奴を付き添わせるしな」

「ありがと、ゆうおにいさん」

「あ、あぁ……」

リリの呼び方にむず痒さを感じる。別に兄と呼ばれることに嫌悪感なんかは全く持って感じないが、妙な気分になってしまう。

「どうしたの?」

「いや……そうだ、サラのお見舞いに行くか?」

「うん!!」

「ナギも!!」

「分かってる分かってる。用意……つっても、何もないか。よし、行くか」

「ゴー」

「は〜い」

俺は立ち上がり部屋の鍵を手にして玄関に向かう。リリがいるので病院に行くにしても鎌鼬と拳銃は必要なのが面倒だが。もちろん、一般人がこれらの物をもって病室に向かうことはできないが機関から配布される特殊なカードを見せれば持ち込みが可能となる。もちろん、厳しい検査を行ったうえでの事だが。

俺は靴を履いた大きく扉を開ける。と―――。

「ワッ」

「うわっ」

「っと―――シャル、ファイラ」

扉を開けた先にちょうどインターホンを押そうとしていた二人に驚く。むしろ、二人の方が驚いているだろうが。

「どうした?」

「ううん、ユウリくん大丈夫かな〜って」

「大丈夫かって、なにが?」

「急に女の子増えて困ってないかなって思って。で、ボクが様子を見て」

「ぼくが料理でも作ろうかと思いまして……また、お野菜ももらいましたし」

「そうだったのか。俺たちは今からサラの見舞いにでも行こうかと思って」

「ああ、そうなんだ」

「どうしたの~って、あっ!!シャル姉ちゃん、ファイにい」

「しゃるさんたち!!」

「っと……」

俺は後ろからやってきた二人をあわてて避ける。その二人は、ナギはファイラにリリはシャルに抱きつく。年齢的にも、性格的にも二人は子どもに好かれやすいらしく二人には俺の次に懐いた。

「あははっ、杞憂もいいところだったみたいだねユウリくん」

「そうみたいだ」

俺は小さく肩をすくませてみせる。

「で、二人ともどうする?一緒にいくか?」

「あっ、ボクは行こうかな。ファイちゃんは?」

「ぼくもいきます……ただ、荷物だけいいですか?」

「あぁ……それは冷蔵庫に入れといた方がいいか?」

「えぇ~っと……大丈夫だと思います。そこに置いといてもらえますか?」

「ん、置いとくよ」

俺はファイラから袋をもらってそばに置く。それを見たナギは目を光らせてファイラをほんの少し見上げる。目線的にはやや上ぐらい。そのことをファイラは少し気にしているようだ。

「ファイにいが作ってくれるの?」

「うん、そうだよ」

「やった、久しぶりに美味しい料理が食べれる」

手離しで喜ぶナギ。その姿に苦笑をもらしつつ苦言を呈する。

「まるで俺の料理が不味いみたいだな」

「ファイにいよりはね」

「お前……」

この数日暮らしてわかったがこいつは百年前より口が達者になっていやがる。フローラといい勝負だろう。

ため息をつく俺にあわてた様子でリリが口を開く。

「ゆ、ゆうおにいさんのりょーりもおいしいよ!!しゃるさんのよりもなんばいも」

「リリちゃーん……それ、ボクに悪口言ってるようなもんだよ~」

シャルがまさかの攻撃に涙ながらに呟く。それを受けてリリがますますあわてて俺たちは笑いあう。

「ははっ、とにかく行くぞ。このままじゃ昼になってしうぞ」

俺はドアを施錠しながら全員に言う。そろそろ行かなければ昼時に突撃するのはさすがに迷惑だろう。

―――守衛保護を受けたリリ・カミュール。最初二日ぐらいは保護場所を決めるために俺の家でナギもいるということで預かることになったのだが、思いのほかリリが俺になついたことと俺の能力の強さなどからこのまま俺の家で保護を行うことになったのだ。もちろん、俺にも仕事があるためずーっと彼女の世話ができるわけではないので仕事の最中は機関内部にある児童預り所にて預かってもらっている。これはもともと子どものいる機関のメンバーの為に作られたものだ。

「それにしても、ナギちゃん、よかったの?」

ファイラにナギとリリを任せたシャルが俺に囁くように尋ねる。

「まあ……なにかあったら霊体にもどればいいわけだし、クラリスさんにかえの憑代ももらってるし、なによりナギの要望だ。別にいいだろう」

俺はナギの後姿を見ながら微笑む。シャルは「ユウリくんがいいならいいや」といってナギのほうに帰っていった。

ナギは現在第四部隊の非常員として俺たちとともに仕事をすることになった。主な仕事は簡単な雑務や、霊体になれることをいかして小さな事件での犯人の尾行などが当てはまる。最終的にはスパイ活動も行わせようとしているのが本部の考えだ。俺は最初拒否しようとしたが、ナギが俺と一緒に仕事をしたいとせがんだため仕方なく認めた。ただし、条件として俺の出勤日にあわせること、無茶な命令と俺が判断した場合は断ることを示し、すぐに承認された。

俺は前を歩く面々を眺めながら過去のことを追想しているとすぐに向日葵病院が見えてきて手続きをすませ、すぐにサラのいる病棟へ向かい扉をノックする。

「はい?」

「あっ、サラちゃん。ボク、シャル」

「あと、ユウリさんとナギサちゃん、リリちゃんにぼく―――ファイラもいます」

「そうですか。どうぞお入りください」

「うん、お邪魔しまーす」

シャルが扉をスライドさせて開ける。そこには先客が既にいた。

「お前らも来たのか」

「ライこそ、来てたんだな」

「まあな」

サラのベッドの近くに椅子を持ってきて、ライは座っていた。なんだかんだで仲のいい二人だ。驚くこともない。

「サラ姉ちゃん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですわ。心配することなどありません」

サラはトテトテとやってきたナギの頭を撫でる。

「元気そうだな」

「そうですわね。今すぐ退院したとしても問題なさそうなぐらいです。といっても、退院したところで休暇中ならここで休むのとそう変わらないですわね」

俺の言葉にそう返すサラ。フローラと違い気長に退院を待とうとしているのだろう。

「サラさん……あのときは、ごめんなさい」

「気にすることはないですわ。それに、ウンディーネに対してはファイラがいなくてはならなかったと聞いてますわ。私も助けたかいがあったものですわ」

「そういっていただけるなら……ありがとうございます」

ファイラはゆっくりと頭を下げる。ここが俺とファイラの大きな違いかもしれない。俺なら―――というよりは、以前の俺ならサラにけがを負わせる結果になったことを悩み続けていただろう。そういう意味では俺は本当に弱いのだろう。

「お前みたくめんどくさくなくていいぜ」

何となくそんな二人の様子を眺めていた俺にライがニヤニヤと笑いながら俺だけに聞こえる声で言う。どうやらお見通しのようだ。

「お前のそれもめんどくさいと思うがな」

「俺は基本めんどくさい男だからな」

まだニヤニヤと笑いながら俺の返しをスルーしてまたしても椅子に戻る。

「リリさん、なれましたか?」

「うん。ゆうおにいさんもやさしいし、だいじょーぶ」

「ふふっ、そうですか。きちんとやっておられるのですね、ゆうお兄さん」

「からかうのは止めてくれ」

ついでサラにそんなことを言われ俺は苦笑いを浮かべる。はあ、大変になりそうだ。

「あははっ、ボクもゆうお兄さんって呼ぼうかな〜」

「冗談でも止めてくれよ」

「どうしよっかなー」

「おいおい」

「あははっ」

ナギは笑う。それにつられみんなも笑って俺もただ、苦笑を漏らしてこの、一時的にでも平和な空間に身をおいた。

ご覧いただきありがとうございました。

この作品は続編がありますので、続編の投稿日が決まり次第、この作品の追加話として加える、活動報告をする、作者のtwitterアカウントで報告をする、を行いお知らせしたいと思います。



*追加話ではなく後書きとして報告いたします。

豪雨終焉と不死鳥の祈り2。2/7に続編投稿いたしました。

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