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〜Chapter4〜赤き液散らし繋がりし世『青い髪が煌めく水と合間って美しさを醸し出していた』

なんだって……?大量殺人。そんなことが……?俺、いや、俺を含めた三人が驚愕の表情を浮かべ止まる。こんな事件、少なくとも俺が配属されて以来一度も経験したことがなかった。

「どういうことだ?」

「まだこちらも詳しい事件の概要は分かっておりません。保護機関、C地区支部から本部に応援の要請が十分ほど前に来ました」

「C地区まで行くには?」

「一度本部まで顔を出してください。そこに異空合帯(テレポート)の能力者がいますので、彼に送ってもらってください」

「他のメンバー。サラ=ニースト、ライ=クリミア、奏坂愛隊長に連絡は!?」

「ソウサカ隊長に関しては本部にいたためすぐに伝わりました。ニーストさんもすぐに連絡はとれた模様です。ですが、クリミアさんは……」

「わかった。ライはこちらから連絡を取る。お前はこの事を上司に伝えておけ!!俺たちはすぐに向かう」

「ラ、了解(ラジャー)

乱暴に通話を切って後ろを振り向く。ファイラはすでに靴を履いてる最中でシャルは目をつぶり必死に能力を使っていた。

思考伝達テレパシーの弱点の一つとして相手の位置をきちんと把握していなければならない。ただし、シャルは親しい人間ならば半径50キロ圏内ならば探り当てるあてることができるらしい。

「―――!!」

「来たのか?」

突然察知したかのように顔を上げるシャル。俺の問いに首を縦に短く降る。そのまましばらくやり取りを行っている気配を感じながら拳銃、銃弾、手錠、鎌鼬等を用意して私服から制服へ服装を変える。

「―――。ユウリくん!!」

「終ったか?」

「うん。ライくんには全部伝えた。すぐに用意して向かうって」

「わかった。シャルはどうする?」

「ボクは特に用具とかは必要ないから本部で着替える」

「オーケー。いくぞっ」

「ウンッ」

俺たちはすぐに靴を履きかえ本部へと走り出す。ファイラはとっくに出ていってたようですでに近くにはいなかった。恐らく一度家に帰り用意をしているのだろう。ファイラは俺と同じく何かしらの武器を持たなければ満足に戦えない能力者なのだから。ライもそれに近いが最悪アイツにとってみれば石ころ一つでも強力な武器へと変貌を遂げてしまうが。

ただ、無心に足を動かすこと数分、シャルの息がかなりあがってはいるがなんとか本部に到達する。そのままシャルと別れ俺は異空合帯(テレポート)の能力者がいる部屋へと向かい、やや乱暴に扉をあける。

「来たか」

「ハイッ!!シャルは現在本部にて制服に着替えてるところなのですぐ来ると思います」

扉を開けると同時に話しかけてきたアイさんに返す。部屋には、中央にて魔方陣の様なものを描き円内にいる、異空合帯(テレポート)の能力者とサラの姿があった。

「ユウリさん、ファイラはどうされたのですか?報告では一緒にいたそうですが」

「恐らく家で準備中だと思う。だが、報告を受けて真っ先に飛び出したのはファイラだから、すぐ来るだろうが―――」

「っはぁ、はぁ。ファイラ・スゥイート。準備を整え現地に付きました」

噂をすればなんとやら……ファイラが息をはずませやってくる。

「あとはシャルとライか……。とりあえず、今いるメンバーだけでも現在入手出来ている状況を話しておく」

アイさんは俺たちの意識を集中する時間を与えるように一度言葉をきる。

「今回襲撃されたのは霊昇(れいしょう)村と呼ばれる場所だ」

「霊……?霊って、幽霊の霊ですの?」

「そうだ。その村の人々はなぜか幽霊関連の能力者が多いらしい。中にはフローラと同じ悪魔調伏デビルオーベイの能力者もいる村だ」

悪魔調伏デビルオーベイも?あれは、花鳥風月ビューティーネイチャー程ではないが希少能力のはずだが。

「なぜその村が襲われたのか?犯人グループはなんなのか?それについては情報が入っていない。現在伝えれるのはこれだけだ。すまない」

アイさんが悔しがるように唇を噛む。いつも冷静なアイさんらしくない行動に、今回の事件の異常性を再認識させられる。

「お待たせしました」

シャルが部屋に入ってくる。簡単にまとめられた荷物も手にしている。

「……どうかしました?」

「いや、少しな……。シャル、とりあえず、今の状況を伝えるから私の頭と繋がれ」

「あっ、はい」

シャルが頷きすぐにアイさんと脳内会話を行いすぐに瞳をあける。

「わかりました。ライくんには移動中にでもボクが伝えときます」

「ああ、頼む……にしても、ライの奴遅いな」

睨みをきかせ扉をみるアイさん。

「あ、はは。ま、まあ、ライくん出掛けてたようですから」

苦笑いを浮かべながら擁護する。シャルの様子から推測するに昼間っから酒でも呑んでいたのか?

「シャルは理由を知っているのか?」

「いえ、そこまでは。あのときは本当に必要最低限のことしか言ってなかったですし」

アイさんの問いに答えるシャル。そのはっきりした口ぶりからは嘘が感じられなかった。

「ちわっす。ん?俺が最後でしたか」

暢気のんきな声を上げて登場するライ。その様子に俺とアイさんは呆れのため息をしてシャルは再び苦笑いを浮かべてファイラは困ったように視線をさまよわせる。

「ライ!!一番遅れてきてなんなのですの!?」

「んなこと言われても突然だったんだから仕方ないだろ〜」

目くじらをたてて怒るサラをいなす。

「はぁ、もういい。唐突に呼び出したのは確かだしな。では、これよりC地区に向かうぞ。シャルはライにさっき伝えたことを」

「ウン。ライくん、送るよ」

「ああ」

シャルはライに内容を伝えながら俺たちはテレポート用の円に踏みいる。

「では、これよりあなた方四名をC地区支部、C―00区へ送ります。支部から現場へはすぐにまた異空合帯(テレポート)の能力者がお送りするらしいので一瞬浮遊感が消えますがすぐですのでそのまま待機を。計十秒ほどで着くと思われます」

「わかった。それでは頼む」

「では、送ります」

異空合帯(テレポート)の能力者である彼が手をかざすと陣が緑に発光し、そして数秒後無重力空間に飛ばされたような浮遊感がとられる。視界が闇に支配される。だが、それもぷっつりととぎれ地面の感覚がよみがえる。瞳が広々とした部屋と手をかざす女性を一瞬うつす。

そして、また浮遊感を感じさせられる。

なんどか異空合帯(テレポート)の能力を使って現場に移動しているがやはり苦手だ。人によってはそれで酔う人もでてくるほどだ。

「着いたか……」

「あっ、あなた方は……。第四部隊の方々ですか」

「ああ、そうだ。私はこの部隊の隊長の奏坂愛だ。階級は中佐だ」

「そうですか……。よくおこしくださいました。私はこの現場の指揮を任されてますアラン=ドゥーシュといいます。階級は大尉です」

深く頭をさげるドゥーシュ大尉。物腰の柔げな丁寧な三十代ぐらいの男性だな。

「あなた方のお名前もよろしいでしょうか?」

「俺はライ=クリミアいいます」

「私はサラ=ニーストと言いますわ」

「ボクはシャル・ウェリスト」

「俺は海野優梨です。四人とも階級は少尉です」

「ぼくはファイラ・スゥイートです。階級は士官候補生で、曹長となります」

「ライ君にニーストさんにウェリストさん、カイノ君、スゥイートさんですね。よろしくお願いいたします」

階級が下の相手にも優しいことだ。だが、それが今回は裏目にでた気がする。

「……………」

あーあ、やっぱり。

「あの〜、いいですか?」

「なんですか?」

「ファイちゃ―――じゃなくてファイラくんは男性ですよ」

「えっ……?あっ、ご、ごめんね、スゥイート君」

「いえ、馴れてますから気にしないでください……」

正し本人は気にするがだな。ちなみにアイさんとライは肩を震わせて笑っている。それをたしなめるサラだが……そのサラも笑いをこらえているのがわかる。

「ファイラのことは気にしないでおいてくれ。とにかく、現場の情報を教えてくれ」

「は、はい。案内いたします」

踵をかえすドゥーシュ大尉。そこで改めて辺りを見渡すが所々に血痕があり、惨劇だったことをおもわせる。

「今回の襲撃事件では、男性が二十名、女性が八名の死亡者がいます。また、重軽傷者あわせて四十名がおります」

「犯人は?」

「わかりません」

静かに首をふる大尉。

「今回の件、実はクロスファングが人々を襲ったんです」

「なに……?」

クロスファングという言葉に俺たちに動揺が走る。

「普通ならただの事故と処理するんですが、ご存知の通りクロスファングが人を襲うことはありません。そして、クロスファングになにか意思のようなものが垣間見えたため、今回の件を事件としたのです―――皆さん、どうしました?」

俺たちのまとう空気に気づいてか様子を伺う大尉。

「ドゥーシュ大尉、クロスファングに狂ったような動きは?」

「い、いえ……前途の通りクロスファングに明確な意思をもって行動していたため狂ったとか、そのような様子は」

「だとしたら……違うのか?」

考えるように顎に手をあてるアイさん。

「アイさん、わかんねぇなら試してみたらいいんすよ」

ライは少し笑いながら腰に装着していたククリを取り出す。

「いきやすよ―――音拡張」

「ちょ、ちょっと。いったい何を―――なんですか、この音は?」

辺り一面にキンという音が鳴り響く。

「確定だな。ドゥーシュ大尉、黒音機の情報は聞いてないのか?」

「黒音機?たしか、A地区で発見された謎の音をだす装着ですよね。って、まさか!?」

「そうだ。恐らくこれは黒音機のものとみて間違いない。しかも、意図的に操れるようになっているとすると厄介だな。とりあえず、まずは黒音機の回収だ」

「はい!!たしか、思考伝達テレパシーの能力を使えるかたいましたよね。見える範囲でいいので思考伝達テレパシーで私と隊員を繋いでください」

「わかりました。ボクが使えます。いきます」

その言葉と共に止まる隊員たち。数秒後、その隊員たちが一斉に動き出す。

「ありがとうございます」

「ううん、気にしないでください」

シャルは謙遜するようにいう。

「よし、では我々も―――」

「あっ、待ってください!!実は貴方方をお呼びしたのにはもう一つ理由があります」

「なに?」

「とりあえず、こちらへ」

隊員は小走りに民家へと向かう。俺たちもそのあとを追い、そして大尉が扉を開けるとそこには七十を越えるぐらいのお婆さんと、その孫とも見受けられる十四、五歳の女の子がいた。

「彼女らは?」

「村長にあたる、レイ・クラリスさんと村民のスーラ・カミュールさんです。クラリスさん、スーラちゃん、こちらは本部の第四部隊からこられた方々です」

「第四部隊……?あ、あの!!リリを……妹を助けてください!!お願いいたします」

急に立ち上がり早口で捲し立てるスーラと呼ばれた女の子。

「スーラちゃん。落ち着いて。まだ、彼らに事情を話してないから」

「あ、すみません」

しおらしく謝る彼女。

「妹を助けて?どういうことだ?」

「それは―――」

「ワシから話そう」

大尉の言葉を遮ったのは村長だった。

「まずは、この村に来てくださったことに感謝を申しあげる。ありがとう」

重そうな腰をあげ礼をのべる。そして、再び座り話しを続ける。

「じゃが、ゆっくりおもてなしは出来ん。実はの、そこのスーラの妹がさらわれたのじゃ」

「拐われた?誘拐というわけですか」

アイさんが村長に問いかけるとゆっくり首をふる。

「そうじゃ。狼がきよって暴れまわったあげくリリを拐ったのじゃ……今思えば、最初からそれが目的だったようにすら感じるの」

「なぜ、リリさんが?」

「解らぬ。ゆえに、お主らに頼みたいのじゃ。どうか、リリを救ってくれ」

「わかりました。リリさんは必ずや我々がお連れします。シャル」

「分かってます。スーラちゃん。リリちゃんの顔、姿を強く頭の中に念じてみて―――スーラちゃん?」

「あっ、す、すみません。念じるんですね」

どこか上の空だった彼女は慌てて返事をかえす。

「じゃあいくよ?みんなにも同時に送るからね」

目を閉じるシャル。それと同時に頭の中にインプットされていく。姉と同じ赤毛で九歳の女の子か。なるほど……よくわかった。

「さすが第四部隊ですね」

クリアな情報が送られたのに驚いているのだろうか大尉が呟く。

「いえ、スーラちゃんが強く頭の中に念じてくれたおかげですよ」

照れ臭そうに謙遜をシャルを述べる。

「―――大尉!!こんなものが!!事前にリークされた黒音機のものと似ています!!」

バンッと扉を開けて一人の若い男が入ってくる。手には小さな黒い物体持っていて、それは俺たちが以前見たものとそっくりだった。ただ、あのときのものよりはやや大きめには見えるが。

「そうか……アイ中佐。これが黒音機でしょうか?」

「そうだな……ライ、頼めるか?」

「了解ッス。村長さんとスーラちゃんは耳塞いどいてくださいね〜。音拡張」

キンッ、と音が鳴り響く。その音はライが黒い物体にククリを近づけると大きくなり、遠ざけると小さくなる。

「解除。この物体は黒音機とみて間違いねぇッすな」

「そうか……第四部隊につぐ。これよりこの機械は黒音機改と仮称を着ける。また、黒音機改とリリ・カミュールさんを拐った人物を同一の人物、または団体とみなし第四部隊はまず黒音機改の置いた人物の特定、及び捕縛を開始する」

「「「「「了解(ラジャー)」」」」」

俺たちは声を合わせアイさんに返す。

「では、我々は現場の片付け、及び黒音機改の解析等を進めさせていただきます。みんなに伝えてきてくれるか?」

了解(ラジャー)

黒音機改をもった男はそのまま家を出ていき走り去る。大尉はそれを見送ってから俺たちに敬礼をおこない「何かありましたらお呼びつけください。御武運を」と告げ立ち去っていった。

「では、我々も動くとしよう。シャルは私たちの思考を繋いで、サラは私たち全員を運べる姿に変身してくれるか?」

「この人数をですか!?流石に……そうだ。村長さん、荷車とかありませんか?大きめの台車でもいいんですが……」

「ワシの家に一台あったのじゃが、狼に壊されてしまったのお……」

「あっ、でしたら私の家のをお使いださい。案内いたします」

カミュールさんは立ち上がり俺たちを案内するように先頭を歩きだした。その間にもシャルによって全員の思考がつながる。といっても、自らが流したいと思う情報だけに限定されているが……。とにかくそれによるとアイさんはすでに黒音機改から強烈な悪意を感じ取っていたらしく、その悪意が何処につながっているのかが見えているらしい。

「こちらでよろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫ですわ。ありがとうございます」

カミュールさんが出してきたのは大きめの荷車でサラを除く全員が乗ることが可能だった。

「スーラちゃん、必ず妹さんはボクたちが連れて帰ってみせるよ。だから、スーラちゃんはここで待っててね?あっ、といっても、村長さんのところでね。あそこなら何かあってもドゥーシュ大尉に守っていただけると思うし」

「わかりました……失礼します」

カミュールさんはペコリと頭を下げ戻っていく。礼儀の正しいこだ。

「……シャル、来てくださる?」

「あっ、うん」

サラはシャルを誘い物陰へと向かう。全身を獣に変換させるために服を脱ぐためだろう。上半身なら辺りに俺たち以外がいなければパッパとその場で済ましていただろうが流石に全裸となると話が変わってくるわけだ。そうでなければただの恥女だな。いや、俺たちの前だけとはいえ上半身裸でいれる時点で十分に恥女の性質があるのかもしれないが……。

『では、みなさん荷車に乗ってください』

シューヴァルに変身して脳内会話で喋りながら訪れる。後ろからはシャルがサラの服を持って現れた。

その様子を見て俺たちは荷車へと乗り込む。サラは荷車の取っ手の部分に入り込む。

『では、行きますわ』

そんな声とともに走り出すサラ。馬という生き物の速さ、持続力などからこの姿を選んだのだろう。

「サラ、とりあえずは私のナビゲート通り走ってくれ」

アイさんがサラに告げる。それに返事を返さずにより速力をあげ駆けだすサラ。距離的に犯人は10キロ先にいる。馬の瞬間最高速度がおよそ時速70キロだが……常にそれを維持できるわけではないので現在はだいたい時速50キロぐらいで走っているわけだが、現在いる犯人の地点までは12分程度……犯人も動いていることを考慮しても20分までにはたどり着けるだろう。

「しかし……妙だな」

「なにがですか?」

「あのとき感じた黒音機改から感じた悪意の量だ。もちろん、これほどの大犯罪をおかしているわけだから高いには高いのだが……あのとき、始めた黒音機から感じた悪意の量から推測するともっとあってもよさそうなんだ」

「えっ?どういうことっすか?」

「だからだな……私たちは今回事件発生とともにすぐに訪れた。つまりは黒音機改が置かれた時間から大してたっていないはずだ。それは、悪意の薄れがほとんどないということだ。しかし、黒音機から受けた悪意はもちろん強いものではあるのだがせいぜい5,6人殺した人物が身に着けていた服や凶器につかったもの程度。しかし、黒音機のほうから感じた悪意はそれを超えるテロすらも感じさせる悪意。実害がほとんどなかった前回と多大な犠牲者をだした今回では今回のほうが悪意が強そうなものだろうにだ……おかしいと思わないか?」

「そうっすね……」

そういわれたら変な感じがする。どういうことだ?

「ボクが思うに実は黒音機は本当は実験じゃなくて本番だったんじゃないかな?しかも、今回な大量殺人をも超える犯罪。だけど、失敗しちゃった、そんなところじゃにかな?ファイちゃんはどう思う?」

「ぼくはそれが思い浮かびましたね……そう考えるのが一番スッキリいくような」

確かにそうだが……。しっくりこない部分もある。それなら、なぜ今回は別の場所、しかもC地区などで行われたんだ?A地区で行えばいいものを……。逆にもとからこの村が目的なんだとしたらA地区で行った理由が解せなくなる。

……そうだ、あの案。

「あの、俺ちょっと考えてたことなんですけど……今回俺たちがかかわった一連の事件。黒音機、シュー・ウィール、そして今回の件。全部つながってる可能性はあるんじゃないですか?」

やわらに口を開きいった俺の意見にやや怪訝そうな顔を浮とファイラはかべるライとアイさん。サラも驚いているのか脳内を通じてそういった気持ちが伝わってくる。対してシャル、ファイラは俺の発言に少し驚いた表情を浮かべ、そして思考に戻るように脳を働かせようとしているのがわかる。

「どういうことだ?」

「まず、黒音機と今回の黒音機改の二つの事件は同一犯、もしくは同一組織の可能性があります。そして、シュー・ウィール。彼女も単独犯ではなく何らかの組織に入ってる可能性があります。この二つに両方とも組織という言葉が共通するわけです」

「もしや、お前は……」

「はい、この一連の事件すべてノアの方舟によるテロ事件、及び活動再開を意味するのではないのでしょうか?そして、黒音機を置いたのは幹部、もしくはそれに準ずるような人物。今回黒音機改を置いたのはしたっぱの人間。そうすると、アイさんの感じた悪意の差にも頷けます」

「なるほどな……筋は通ってるか……」

そう、筋は通ってる。真実への架け橋の一つとして立派な穴の開いてないものだ。だが、この橋をかける設計図や鉄骨があっても、重要な部品、すべてをつなげるに至る証拠が何一つないのも事実だった。

「……アイさん。黒音機の研究ってどこで行われていたんですか?」

シャルが問いかける。

「研究場所?主に本部の研究室などだが……まて、たしか人体への影響を調べるために人権停止収容所に送ったこともあったはずだ……。だと、したら!!」

「その人権停止収容所のNo.は?」

「すまない……そこまでは情報をもらっていない……ただ、十二分にあり得る」

No.2に黒音機が運び込まれたことがあるのならこのタイミングでの脱獄というのが頷ける。その情報をもって逃げ出したか……。

「この事件―――ノアの方舟によるテロ行為である可能性も今から視野にいれる。我ら第四部隊は全力を持って食い止める。だが、何よりも自分たちの命を大切にしてくれ。ユウリもだ、いくら死なないとはいえ、奴らの能力で救出不可能な場所に行くこともあり得る。無茶はするな」

アイさんの言葉に全員重く首を振り首肯を表す。もちろんノアの方舟と決まったわけじゃない。ただ、気を付けるにこしたことは無い。

そんなことを考え意識を集中させていると、どんどん悪意を放つ者との差が縮まる。およそ800メートル。

『これ以上近づくのは危険と思われますわ。ここから徒歩で向かいましょう』

サラの指示に従い全員降りる。ここからは慎重にいかなければ。

デュー

サラは目立つ馬の姿から攻撃力、俊敏力の高い狼へと変身を行う。

「前衛はユウリとサラ。中衛に私とライ。後衛はシャルとファイラで向かう……いくぞ」

アイさんの指示に従いその通りに編成しながら足音を立てないよう気を付けながら走り出す。

その数分後、フードをかぶった男が見え始める。男は後姿でもわかるぐらいに疲れている。

『アイさん……あの男ですか?』

『ほぼ、間違いない。まずはお前が身分を名乗って奴の反応をうかがえ。逃げたり、襲ってきたらサラとライも加わり応戦しろ』

了解ラジャー

俺は返して第四部隊のメンバーからやや離れた場所に移動してからあえて音を立て姿を現す。

「……っ!!」

「そこの方、すこし協力を願いますか?私は治安維持機関の―――」

モード・殺気!!」

言い切る前に叫ぶ男。その視線に金縛りにあったかのような感覚を受け動けなくなる。いや、微かに動いてる。これは、震え?

「させるか、爆破!!」

ライが茂みから飛び出し二発撃つ。

「くそっ」

男は悪態をつき後ろに大きく跳躍。爆破を免れる。

『ユウリさん』

「うっ!!」

サラが狼の姿のまま俺に突撃してきたためその勢いに負けしりもちをつく。その途端に、自分の意思では動けなくなっていた体から解放される。

「なんなんだ、これ」

「治ったみたいだな。この能力は竜驤虎視ドラクタイガー。簡単に言えば視線に強力な力を持たせてってわけだよ。俺とサラは以前この能力者と戦ったことがあったから対処法も知ってる」

「そうか、助かる。サラもありがとう」

『気にしないでください』

モードれい

フード男の言葉で爆破によって上がったはずの気温が冷える。それどころか、元の気温の何倍も冷えてしまう。

「つめてっ!!」

ライが声を上げると共に拳銃を放す。その拳銃は氷がついていた。

「グルアッ!!」

サラがうなり声をあげながらとびかかる。

「っち。モード・殺気―――なっ!?グフ」

男を無視するかのようにそのままとびかかり前足で顔面を殴り倒す。

『殺気なんて、瞳を閉じた、ただ無心に動く生物には何も感じないものですわ』

サラが俺にヒントをあげるように言いながらヒットアンドウェイを大切にするかのように駆け戻る。

モード・熱」

男の前に蜃気楼ができてその波が俺たちの元に訪れようとしている。だが、空気の波なら風で返す!!。

「鎌鼬、出番だ」

鎌鼬をただ、強力な風を起こすために送り空気の流れを変える。

「馬鹿な!!グアッ」

自らだした熱にやられ皮膚が焼かれるのがわかる。

モード・冷―――カハッ」

「周りの空気が冷めたならそのまま蹴って終了だ」

俺は腹を蹴り上げて告げる。男は呻くように地面をのた打ち回る。

「ユウリさん、これ使ってください。竜驤虎視ドラクタイガーの能力は目さえ見えなくさせたら使えなくなるらしいですから」

「そうか、サンキュ」

ファイラからハンカチを受け取り男の目が見えなくなるようにしっかりと結ぶ。その男は観念したかのように暴れることもせずにおとなしくなった。

「さて……本来なら一時人権停止収容所に連れて行って拷問でもかすんだが……時間がないからな。お前、まずは名前は?」

「…………」

アイさんの問いに男は何も言わず顔をそらす。

「……やっぱりダメか。シャル、頼めるか?」

「行けるかどうかわかりませんが……わかりました」

シャルが男の前に座り目を閉じる。周りを見るといつの間にかサラの姿がなくなっていた。服もないので恐らく人に戻って着替えるために茂みにでも入ったのだろう。

「―――名前はフィラル=スライト。24歳」

「っ!!」

嫌がるように頭をふる男、フィラル=スライト。

「…………すいません、これ以上は。心の奥深くにシャットアウトしてるみたいで」

シャルが謝りながら立ち上がる。まあ、そうだろう。嫌がり、別の思考を挟んだりすれば心の奥の秘密までは解き明かせないものだ。

「そうだような……くっ。どうするか……」

「アイさん、なら俺に任せてください。荒い仕事になりますが拷問でコイツを吐かせてみたいと思います」

「できるのか……ユウリ?」

「まぁ、一応。過去にやったことがありますから」

NSAP時代にはよくやってた。ターゲットの人物のとりまきにその場で拷問をかけてターゲット人物の場所を吐かせたものだ。

「とりあえず、お前が何者で、何の目的でこんなことをしたのか教える気はないんだな?」

「…………」

何も言わず黙秘を貫かれる。わかっていたが残念だ。できればやりたくないのだが。

「オラッ!!」

「ガハッ」

顔面を思いっきり蹴る。男は少しぶっ飛ぶ。

その様子にシャルとファイラは視線をそらす。無抵抗な相手が殴られ続けるのを見るのはいくら相手が悪だとしても、良心が痛むものなのだろう。

「グフッ」

「お前は何者だ?何が目的だ?」

腹を踏みつけながら尋ねる。

「ぐっ……貴様らのようなけがれに話す言葉などな―――」

「俺が聞きたいのはそんなことじゃない。お前が何者か、目的が何かだけだ、それ以外の余計なことはしゃべらなくていい」

鎌鼬をフィラル=スライトの首元近くにさし威嚇する。目が見えなくても感じる感覚がある。むしろ、視覚遮られた今、他の五感は敏感になっているはずだ。見えない恐怖が迫りくるだろう。

「…………まだ、吐かないか。仕方がないな。むしろお前を殺してその場で解剖なりなんなりした方が情報得られるかもな」

耳元近くで弾薬が薬室チェンバーに送られる音をだす。男の体がビクリと動く。

「3、2、1」

「ま、待て―――」

パンッ。カウントダウン終了とともに引き金をひく。

「……威嚇射撃で当てるつもりは無かったが……、かすったみたいだな」

頬からちろりと血液が流れ出す。銃弾はフィラル=スライトの近くに着弾、硝煙(しょうえん)の臭いが漂う。

もちろん、さっきの発言は嘘で元からかすらせるように撃った。この距離で外す方が難しい。

ガチガチと歯を鳴らす男。もう一歩か。

「……最後に問おうか?お前は何者で、何が目的だ?」

「…………俺は、俺はなにも知らない。本当だ。ただ、マインドサウンドを置いてくれば人を殺すことが出来ると言われただけだ」

フィラル=スライトは小さく呟いた。

「やり過ぎ感も否めないが……よくやった、ユウリ」

「いえ。まずはフィラル=スライトの話を聞きましょう」

「そうだな」

アイさんは頷き彼の前に立つ。ライは俺にやるなと小さく笑いながら告げてきた。いつのまにやら人に戻ったサラも帰ってきてたようで無言で立っていた。

「お前らはなにものだ?命令できたならば単独犯ではないはずだ。ノアの方舟のメンバーか?」

「……違う。俺たちは戻りし楽園(リターン・エデン)だ」

「リターンエデン?なんだそれは?」

聞きなれない単語。俺は眉をひそめる。

「……朽ちて廃れたノアの方舟から産まれた派生組織にてノアの方舟の上位組織だ」

その言葉に驚きを浮かべる。たしか、これは……ファイラがシュー・ウィールが誰なのかについた話あったときに出した一つの憶測だった。

「まさか……お前、シュー・ウィールという人物を知っているか?」

「シュー・ウィール?聞いたことないが……」

男の口ぶりからして嘘をついている素振りは見えない。ということは、シュー・ウィールはまた別の事件だったということか。

「もしかして……じゃ、じゃあ、エインセルといえば誰を表すか、分かりますか?」

ファイラが閃いたように口を開く。

「エインセル様……それなら、知っている」

「やっぱり……」

「……どういうことだ?」

俺はファイラに尋ねる。エインセルはシュー・ウィールが言っていたセリフだ。それが人だと言うのか?

「まずは、シュー・ウィールさんのヒントを思い出してください」

「ヒント?リンゴだよな?」

「はい。それがずっと引っ掛かってたんです。ですが、やっと謎が解けました。彼らの組織は戻りし楽園(リターン・エデン)、恐らく、エデンというのは流された知識(アンノウン)の一種、エデンの園から取られたのだと思います。ユウリさんは知ってるんじゃないですか?宗教系の単語といっても有名なものですし」

「ああ、知っているが……」

「ボクも聞いたことあるけど……もしかして?」

「エデンの園にいた最初の人間はある果実を食べて楽園から追放されました。その果実はリンゴです」

アイさんやライもその言葉で察したように声をあげる。なるほど……これでシュー・ウィールが戻りし楽園(リターン・エデン)のメンバーだとわかったわけか……。だが、エインセルについは?

「次にエインセルについて。これは、そのままなんですよね。シュー・ウィールさん自身が私はエインセルと言ってました。それは比喩ではなく、本当にそうなんですよ。コードネームがエインセルだ、という意味だったんです。そして、コードネームが存在するということは組織内ではコードネームで呼ばれることが多いということ。となれば、特に下の人物はコードネームしか知らないことが多いんですよ。そうですよね?フィラル=スライトさん?」

「……エインセルという名前はコードネームだ。伝承人(でんしょうびと)のみがコードネームを名乗れる」

「伝承人?なんだそれは」

「あっ、しまっ―――」

「慌てて隠した所で無駄だぞ?あと、伝え忘れてたが嘘をつこうとしても無駄だ」

「くそっ」

男は自分の失態に悪態をつく。アイさんにかかれば嘘など簡単に見破られてしまう。嘘をつくには悪意が多少なりともあるらしい。悪意が増せば嘘とわかるわけだ。

「で、なんなんだ?伝承人とは?」

「伝承人は戻りし楽園(リターン・エデン)の幹部のことだ」

幹部……。ということは、エインセルと名乗ったシュー・ウィールも幹部だったわけか。

「じゃあ、次だ。お前らが拐った少女、リリ・カミュールの居場所はどこだ?」

「知らねぇ。聞かされてない」

「そうか……なら、お前は何処に向かおうとしていた?」

「…………聖霊(せいれい)の泉」

「目的は?」

「ウンディーネ様に会うため」

「ウンディーネ?幹部のコードネームか。今回の件の首謀者か?」

「首謀者かどうかまでは知らねぇ。ただ、ウンディーネ様の命令で俺はマインドサウンドを置いただけだ」

「……さっきから、気になってはいたがマインドサウンドというのは、黒い小さな物体のことでいいんだな?」

「……その通りだ。これ以上俺が知ってることはない」

全てをだしつくしたかのように体の力を抜く男。

「―――ウッ」

アイさんがライにアイコンタクトをとりライがフィラル=スライトの首もとに手刀を降り下ろし意識を手離させる。そのまま馴れた手つきで手錠をとりだし後ろ手にかけた。

「ライ、一応形式的に言っておけ」

「マジッスか?時間ねぇのに……ええーと……能力違法使用、治安維持協力違反の容疑で―――」

そのままダラダラとながったらしい形式行為を告げるライ。実際無視してもいいのだが、自分で罪状を言うことにより免罪を作り出し出世たくらむ者の罪悪感を少しでも増させる為に言うことが義務づけられている。言わなかった場合は職務怠惰の罪に囚われてしまうため非常に面倒臭い。こんなものに果たして意味などあるのか、(はなは)だ疑問だ。

「コイツどうするんですか?」

「本来ならサラにでも頼んで一時人権停止収容所に送るんだが……リリさんのこともある。戦闘員を失うわけにはいかない」

「じゃあ、ぼくが運びましょうか?引きずりながらならなんとか運べると思いますし」

「いや、不可能では無いだろうがキツいな。それにいつコイツの意識が戻るかわからないし、その際にいくら手錠をかけたままだとしてもファイラが相手では暴れられたらヤバイかもしれない……コイツには悪いがこのままそこから辺の木にでもしばりつけて書置きしておこう。民間人が見つければそのまま通報するだろうし後からC地区の人物が来る可能性もあるからな」

「じゃあ、縛っておきますね。ユウリさん、手伝ってください」

「ああ」

俺はフィラル=スライトを起こして木の近くに腰かけさせてそのすきにファイラがぐるぐると縄で縛る。

「よし、それではこのまま向かうぞ。聖霊の泉か……ここからどれくらいだ?」

「あっ、たぶんここから一キロぐらいですよ。さっき、フィラル=スライトと繋がったときに泉までの地図が頭にはいったんだ。最初は休憩場所かなにかかな、って思ったけどどうやらそこが聖霊の泉みたいだね」

「そうか。案内頼めるか?」

「任せて!!」

シャルは頷いて早足であるきだし俺たちはそのあとをおった。






******





歩き数分。敵、ウンディーネいるという泉近くにやって来た。また、シャルとファイラからウンディーネが水の四大精霊の名ということをきかされた。エインセルといいウンディーネといい、両者とも妖精の名がコードネームとなっている。偶然か否かは分からないがもしかしたら戻りし楽園(リターン・エデン)の幹部、伝承人は全員妖精の名前がコードネームとなっているのではなかろうか。

「ついたな……」

全員が茂みに身を隠す。

泉は真ん中に滝が降り注ぐ形となっており、四方向に泉から水が流れていた。それはいずれ川となり海へと流れ着く。見た目からも透明で飲み水にそのまま引用できるほど、綺麗なものだった。

その滝の近くに一人の若い男性がたっていた。青い髪が煌めく水と合間って美しさを醸し出していた。

ここにたまたま遊びに来た一般人か、それともウンディーネなのか……。

だが、この泉。決して浅いものではないはずだ。それなのに体の殆どが見えている。まるで、水の上にたっているかのように。そして、それは比喩表現で無いことがすぐに明らかになった。

男の様子を固唾を飲んでその姿を見守るなか男が水の上を優雅に歩いているのがよくわかった。

そして、泉の端で立ち止まり―――。

「流れる水が私語(ささや)いている。私以外の生物が此方を見ていると」

「っ」

男の言葉に身を固くする面々。気づかれた?

「水の私語きが私に告げる。その生物が私に用があると。私、水の精霊に」

その言葉にアイコンタクトを取り合う。自らを精霊と呼ぶ、それはウンディーネであると言っているのに等しかった。

シャルが素早く全員の思考を繋ぐ。そして、簡単に作戦をたてる。

「何を怯えているのか。さあ、おいでなさい」

「「…………」」

ライと俺がゆっくりと立ち上がり男、ウンディーネの元へ歩いていく。

「まずは、お二方ですか。用心深い……。小鹿のようだ」

まだこの場に別の人物がいることもバレていたか。人数を指定していなかったから人数までは分かっていないと思ったのだが。

「ウンディーネ、だな」

確かめるように言う。

「個人をさす名称というのは一つではありません。名を複数持つ者もいれば一つも持たない者もいます。私はいくつか持っていますが、その一つとしてウンディーネとも呼ばれているのは確かです」

回りくどい喋り方だ。聞いていて苛立ちが募る。

「誘拐したリリ・カミュールをどこにやった?」

「誘拐なんて……言葉が悪い。彼女は楽園に向かう資格のある人物、私が彼女を迎えにきたのです」

「…………ということは、リリ・カミュールは生きているんだな」

わざわざ敵の話に合わせる必要性は無い。俺は必要なことだけを聞く。

「この世から生を剥奪するわけがないでしょう?水の精たちよ」

ウンディーネが中央の滝の辺りに手を水中に差し伸べると滝のやや前方から水の膜が張った大きなシャボン玉のようなものが出てきた。その中には赤毛で十歳に到達するか否かぐらいの少女―――インプットされた情報そっくりの女の子、リリ・カミュールが眠っていた。その様子を確認して口を開く。

「彼女を返すんだ。情状酌量が認められればお前の罪も軽くなるぞ?」

「もともとこの国にあるのは懺悔の念をささげて終わるものか生の剥奪を行うかの二つだけでしょう?情状酌量も何もないじゃないですか」

「…………極悪人は生かすのが危険だから真っ先に処刑される。だが、罪を本当に悔いていれば処刑までの時間はのばされる。ゆえに、中には老衰でなくなる人物もいる。情状酌量が認められれば老衰で終わることができるかもしれないぞ?」

「バカバカしいです。(けが)れには、高位なる存在の立場はわからないのでしょう。このまま生かしておくのも世界が汚染されるだけ……ここで、私に粛清されながら懺悔することにしてください」

標的投ひょうてきとう!!」

ウンディーネが言い切るとともにライが二本の針を投げる。その針は風に流されることもなく真っ直ぐにウンディーネの胸に向かう。だが―――。

(たわむ)れですね」

ザバンと音を立てウンディーネの前に水の壁が現れる。そして、針はその水の壁に阻まれ波に流される。それを受けて水の壁も消えてゆく。

「なっ……」

「な、なんだよあれ」

その壁が消えてすぐの後ろの光景に思わず口から言葉が漏れる。

五体の水の竜がウンディーネを囲んでいた。その美しささえ感じる水のオブジェクトの隙間から見えるウンディーネは笑いながら告げる。

「私の美しいこの能力の名は流龍操水(ウォーターコマンド)。さあ、あがいてみなさい、私の前で」

ウンディーネの声にあわせて水龍は踊るように体をくねらせて俺たちの元へ突進してくる。気がつけば、リリ・カミュールの姿は泡に包まれたまま遠く岸辺の方に追いやられていた。

「鎌鼬!!」

熱炎弾ねつえんだん

俺は鎌鼬で風を放ち水龍を牽制させてライは拳銃を放った弾丸から熱を大量に発せさせ水を蒸発させる。

俺が一体、ライが二体を龍をただの水へと変えて残り二体の突進をかわす。

「さあ、踊りなさい。死へのステップを」

大きな音をたて泉から更に三体の龍が現れる。どうしたらいいのか……?

「熱炎弾、熱炎弾!!」

ライが連続で弾丸を放ち龍を消すも間に合わない。このままでは、じり貧だ。

俺も鎌鼬を振るい続けるもウンディーネに風の刃が届く前に龍や、水壁(すいへき)に止められてしまう。

「くっ……隙をつくってくれ!!」

「ライ……?ああ、わかった」

弾倉を入れ替えつつ叫ぶライ。だが、すぐになにをしたいのかがわかり“俺たち”は返事をする。

「ウンディーネ!!」

あえて怒声を発しながら鎌鼬を振るい続ける。その刃の全てはウンディーネに向ける。

「戯れにもほどがありますね。全く、美しくない」

当のウンディーネは嘆くように言いながら水壁をたてる。その壁に阻まれ風の刃は壁とともに朽ちる。だが―――。

(ファルコン)!!」

後ろから、ライに脳内でタイミングを見計らい飛び出すように言われ、俺と共に返事をした(たか)に変身したサラが猛スピードで突進する。水壁が消えるとともに現れた鷹に始めて驚きの顔を見せるウンディーネ。だが、すぐにサラの軌道を読みとったように水を蹴り場を移動する。

「今だ、喰らえ、雷撃弾(らいげきだん)

着地点を見極めたライの弾丸がウンディーネに迫る。水と電気。相性は最悪だろう。

―――バリリッ。

弾丸が破裂し黄色い閃光を放ち飛沫をまきあげる。

「水龍も、一気にやれたが……」

ライが眉間に皺を寄せる。激しく上がった飛沫は視界を遮りウンディーネの姿を確認できずにいる。鷹に姿を変えているサラも、俺たちの上を飛んで固唾を飲んでいる。

「…………貴方達は不幸だ」

視界がやっと見えるか見えないかの辺りで、髪と服を水で濡らしたウンディーネが呟いた。その姿に俺とライは舌打ちをうってしまう。やはり、ダメだったか……。

「貴方達は不幸だ。私を怒らせてしまった」

「カハッ!?」

「ガッ!?」

唐突に目の前で爆発が起こり俺たちが吹き飛ばされてしまう。

「うっ……」

爆風によって(あお)られた風をモロに喰らってしまったサラは木に体を打ち付け痛みで変身がとかれてしまう。意識は……ギリギリ保っているようで裸のまま、ウンディーネを睨み付けるサラ。俺とライはそれに安堵を覚えつつ立ち上がる。

「ただ、殺られればいいものを、躍りから外れ勝手に別の曲をかけようとするから苦しむのですよ。さあ、苦しみなさい」

ウンディーネが左手を俺たちに向ける。また、爆発かなにかが起こる、そう確信し身構えようとした瞬間に高い声が響く。

水花(すいか)保存―――させません、ウンディーネさん!!」

「なっ!?」

(くさむら)から飛び出したのはアイさんやシャルではなく、以外にもファイラだった。そして、ウンディーネは驚きで声を漏らす。なにが起こったのか、理解していない表情だった。

「ウンディーネさん、無駄です。ここら一帯の水蒸気はぼくが支配しました」

「水蒸気……?もしや」

ファイラの言葉に理解し声をあげる。ライはまだ理解していないようで呆けたままファイラとウンディーネを交互にみる。

ファイラは自分の来ていた服を脱ぎ、サラにかけてやる。華奢な上半身を露出させながらまた口を開く。

「ウンディーネさんの能力は水を操るんですよね。てっきり液体だけだと思ってました。ですが、水に関連し、人体、もしくは生物に触れているものでなければ自由に操れるんですね?」

「…………くっ」

「無駄です。水花保存でついでにウンディーネさんの真下の水以外はぼくが干渉してますから。純粋な水にミネラルを多く付着させ水を操れなくさせてます―――ユウリさん、ライさん。あとはお願いします」

「ああ、わかった」

「ファイラよくやったな」

俺たちはファイラにたいし言葉を送りウンディーネに近づく。ウンディーネがいるのは岸辺から少し離れている。水を歩く手段のない俺たちだが……ライのククリでなんとか捕縛するか。

そう、考えライに提案しようとした矢先。

「ふっふふっ、ハハハッ。近づかせませんよ」

「っ!?」

ウンディーネの声と共に手から発せられた勢いのある水を間一髪でかわす。水はそのまま木にあたり、大木は大きく揺れ木の葉が舞い落ちる。

「そんなっ!?水は操れないはずです!!」

「ふふっ、君は穢れにしては(さとい)ようですね……、ですが貴方のよみは一つ間違えていた。私は干渉できるのですよ。自身が保有する水ならね」

「じゃあ、貴方が水辺を歩ける原理は……」

「泉から水を噴水のように出しているのもそうですが……足に水を付着させて浮いているのですよ―――気に入りました。貴方は、苦しむことなく生を剥奪して見せましょう!!」

「ファイラ!!」

「避けろっ!!」

ウンディーネの口から発せられた水の射線に俺とライの声が重なる。

「せ……んとう員でも、ない、のに……無茶をするからこうなるのですわよ……ファイラ」

「サラさん!!」

流水がファイラにあたるより早く、近くにいたサラが地を蹴りファイラに抱きつくかたちで、救いだしていた。それが、最後の力だったようで、今度こそサラは意識を手放してしまった。

「外してしまいましたか……」

ウンディーネが残念そうに呟く。だが、第二射を直ぐにまた放とうと手を向ける。

「させるかよ!!爆破弾!!」

「鎌鼬、力を貸してくれ!!」

ライが放った弾丸の破裂による熱風を鎌鼬から出た風でウンディーネに残らず当たるように制御する。

「少し……熱いですね」

爆煙のなかから聞こえるウンディーネの声。全くきいていないように感じる。

……どうする?ファイラに攻撃を当てさせないようにサポートすることはできる。だが、致命傷を相手に与えることもできない……。

―――まて、現状水を操ることができるのは。

そこで、一つの閃きが俺に訪れる。水花保存でファイラが水を支配下に置いているのであれば、可能なはず!!

『――――――』

脳内を介してライに指示を出す。一瞬驚いた表情を見せるライだが俺の顔をみてなにも返さずにそれを実行にうつす。

油質(ゆしつ)弾!!」

「この感じ、油!?」

ウンディーネが慌ててライの放つ弾丸に水を放つ。だが、水が弾丸に届くより早く風の刃が弾丸の行き先を切り開きそして、泉に着弾する。

「ファイラ!!油をウンディーネの周りに!!」

「はい!!」

茶色く変色した水がウンディーネの周りにまとわりつく。

「クッ……流れろ!!」

「無駄だ!!水と油。仲は悪いよな!!」

水を発して油を流そうとするもファイラによって制御された流れと油の水より軽いという性質により意味を為さない。

「ライ、最後だ!!」

「火炎弾!!」

俺の声とともに引き金が引かれウンディーネの周りに着弾した。

「ああぁぁぁあぁぁぁ!!」

引火して炎に包まれるなかウンディーネの絶叫が響き渡る。

油の量が少なかったこともあり、すぐに火が消え去り火に包まれていたウンディーネの体が水に沈んだ。

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