妻問い SIDE 〝A〟
彼女を初めて見かけたのはうららかな春の午後だった。知り合いの屋敷からの帰り道、馬車からふと覗いた先に彼女が居た。肩にかかるくらいの栗色の髪を風に躍らせ、へーゼルナッツのような榛色の瞳を楽しそうに煌めかせる小柄な少女は、往来の真ん中で友らしき少女に言い寄る大男を――・・・
足蹴にしていた。
いや、正確には回し蹴りで蹴り飛ばした後、ふらついて倒れた大男の背中をまるで階段でも上るかのように片足で踏みしめているのだ。そう、まるでどこぞの国の女王が如く凛々しいその姿に今まで感じたことも無い程の衝撃を受けた。
「――何かありましたか? 旦那さま。」
しばし呆然としていた私に従僕であるリニアスが声をかけ、尚且つその視線の先を辿る。視線の先には大男を足蹴にしている少女。従僕は視線の先に居るその少女の姿を認めると苦笑しながらボソッと言葉を口にしたのだ。『あぁ、またやってる。』と。
その声で我に返った私は『彼女を知っているか?』とひどく擦れた声でリニアスに聞いていた。そしてその問いに不思議そうな顔をしたリニアスがそれでも望む答えをくれた。
彼女の名前はリリアナ・コンシェール、今年18才になるそうだ。――見た目が見た目だけに年齢を聞いた時は思わず聞き直したが間違いなく18才になるそうだ。18才・・・恋人の一人や二人居てもおかしくはない年齢だが現在はそれらしい人物は居ないとの事。そして両親は幼いころに死亡し、今はなき両親が残した小さいながらも店舗兼家で細々と暮らしていると言う事と。そして彼女の一日の生活も調べで分かった。それはもう朝は日も暗いうちから夜は彼女の家の明かりが消えたのを軽く3時間ほどその場で確かめ、尚且つ近隣住人に聞き込み彼女に懸想を抱くもの居れば呼び出し、丁重に話し合った。
そして屋敷の自室で一人、あれよこれよと考え遍くことはこれからの事。なにせ我が家の家訓は『思いたったら吉日』・・ではないが、まぁ何にしても、私もしっかりと父上の血を引いていることに苦笑を漏し、尚且つ、一人ほくそ笑む。彼女をどう囲い込もうか、と。