妻問い
「――リリアナ・コンシェール。私の妻になっては貰えぬだろうか?」
あたしこと、リリアナ・コンシェールという娘はどこからどう見ても平凡な容姿のこれまた平凡な街娘。そのあたしの前に片膝を付き妻問いするこの見目麗しい白銀色の瞳を不安げに燻らせ、上目遣いで見てくる男性はアシュレイ・ブルランカ・リヒタール侯爵。このアリアロス大陸の四大侯爵の内が一人。
「あの、アシュレイ様。それは・・」
――普通、多少なりとも付き合いをしてから聞くことなんじゃないんですか?
「確かに、一般的にはそうなのかも知れません。」
「いや、一般的にではなく、普通はそうなんです。こんな気が付くと式場に連れてこられ、あれよあれよと言う間に祭壇に導かれ(あたし的には押しやられ)しかも周りを騎士団なんかで逃げ道を無くす程囲いもしません。てかなんであたしの心の声に答えれるんですかッ?!」
「貴女を愛しているからですよ。それに他の男になど奪われたくないのでこんな強攻になってしまっただけです。」
「なっただけって・・・アシュレイ様。その言葉はどうか貴族のお嬢様方にお願いします。」
思わずがっくりと項垂れるあたしをなにか期待を込めた眼差しで見つめるアシュレイ様。すみませんアシュレイ様『・・・まぁなんてロマンティック』なんてこれっぽっちもあたしは思いません。ヘンな期待などしないで下さい。てか、そこの神父様。お願いですからこれ以上式を進めないでください。ホントに逃げ道なくなります。いや、そんな困ったように顔をクシャリと歪ませられてもほんと困ります。そもそもあたしがそんな顔したいくらいですってば。それとアシュレイ様、強制的にあたしの指に指輪を嵌めるのはやめて下さい。
「あぁやっぱり、リリアナの細い指にはこの指輪が良く似合う。ふふ、綺麗ですよ。さぁ私にの指にも同じように・・・」
あの、アシュレイ様? 器用にあたしの指で指輪を掴んでどうするんですか? しかも自分の指に指輪を嵌めさせようなんて、そんなの無理にきま・・あぁ、出来ちゃいましたね・・・
「ふふ、お揃いですね。」
「お揃いですね。ってアシュレイ様。結婚指輪なんでおんなじなのは当たり前です。てか神父様、だから進めないでって――」
「――いま、この時をもってこの両名を夫婦とする。」
あぁーー・・宣言してしまいましたね。神父様。どうして宣言しちゃうんですか。え? アシュレイ様の無言の圧力が怖い? そんなの知ったことですか。それよりどうしてくれるんですか。あたしから離縁なんて出来ないんですよ? あ、でも白い結婚なら白紙に戻せ・・・
「リリアナ、式の後はお披露目ですが、その前に寝室を案内してあげましょうね。」
詰んだ・・。詰んじゃいましたよ神父様。まったく白い結婚なら白紙に出来たのに・・・どうしてくれんですか神父様。
「あぁそれからリリアナ。先ほどの私の問いには答えて貰えるだろうか?」
「・・・答えるも何もアシュレイ様。強制的に結婚させられたのに、いまさら妻問いなんて何の意味があるんです。」
「意味なら大いにありますよ? 貴女の口から『私の妻になる』と言う言葉が聞けるのですからね。」
目の前で蕩けるような甘い笑みを浮かべているのに、なんであたしの背筋が薄ら寒くなるんでしょう。
「さぁ聞かせて下さいリリアナ。貴女のその愛らしい唇から『私の妻になる』と言う言葉を。それ以外はたとえその愛らしい唇から発せられた言葉だとしても聞きません。」
「わかりましたアシュレイ様。その妻問いの返事はこの結婚が白紙に戻ってからと言う事で――」
「却下です。」
すべてを言い終わる前に却下されました。
「アシュレイ様、ホントに聞きたいこと以外は聞かないんですね・・・。て言うかこのやり取り既に5回目なんですけど。いい加減やめませんか?」
「リリアナが望む答えをくれたなら直ぐにでも。」
――永遠に終わらないような気が・・・・
遠い目をして佇むリリアナを神父はもちろん、周りを囲む騎士団らも哀れんだ目で見つめるだけであった。