試食コーナー
ホットプレートから良い香りが広がっている。
浅い鉄板の中、一口サイズのウインナーがころころと焼かれている。時折それを菜箸でかき回す、緑色の味気ない頭巾とエプロン姿の店員。その胸元に、顔写真つきの名札がある。
明度が低く暗い写真、その中の彼女は、10代と思われるほど若い。が、まるでかつてあった何かどうしようもない出来事を思い出しているような、そんな冴えない表情をしている。
そのせいで、実物の、今現在の彼女もどこかつまらなそうに見えた。実際にそうなのかもしれない。
しかし仕事は真面目に、てきぱきとこなしている。トレーを並べ、ゴミ袋と爪楊枝などの確認。合間合間に、焦がさないようウインナーを転がす。
忙しい動きにつられたか、だんだん、彼女の目つきにも活力が宿り始めた。
(いらっしゃいませ。ご試食いかがですか……)
などの客を呼び寄せる台詞と、客が寄って来た時に商品を薦める台詞を、頭の中で確認する。
焼き上がったウインナーにひとつひとつ爪楊枝を刺し、トレーの上に移していく。
完成した小舟たちを客に配ろうと、彼女は顔を上げつつ声を発した。
「いらっひゃ……!」
噛んでしまったことよりも、そこに立っていた1人の男が気になって仕方がない。
年季の入った作業着の腰ポケットに両手を突っ込んでいる、直立不動の怪しい男が。
中肉中背の中年。
短い髪はやや薄く、どこか悲しげな、小さめの奥まった目をしている。
顔の下半分は、ガスマスクで隠れていた。
目が合ってしまった彼女は、しばらく口を薄く開けたまま固まった。
「……おえ……うえあい」
男が、何か言った。ガスマスクが小刻みに揺れていた。
彼女は恐怖を感じた。
(ああ……、変な人だ! そういうタイプの目だ!)
瞬間のめまぐるしい思考判断の果てに、彼女は「いらっしゃいませ……」と恐る恐るつぶやいた。
「……おえ……うああいお」
男は一歩近づき、右手をポケットから引き抜いた。
彼女はそれを凝視し、即効性の危険がその手に無いことを見極める。
が、手を差し出している男は、何かを求めているようだ。
(私に……、何をしろと?)
「あ、あの……」彼女は震えながら声を絞り出した。「何でしょうか……」
と言ったとき、彼女は閃いた。
(あ、試食か)
彼女は、ほっとしたような情けないような複雑な気持ちになった。
(あー、テンパって気づくの遅れた……。そんなもん、試食でしょ。当たり前じゃん)
「えっとすいません、こちらよろしければ……」
トレーをひとつ取って渡そうとし、しかし男の右手は、なかなか受け取らない。焦った彼女は、男の顔色を伺おうと目線を上げる。
ものすごく見つめられていた。
彼女は身を引き、周囲に目を走らせた。近くには他の客も店員も、誰もいなかった。
「……いいの?」
と男が言った。びくっとした彼女は必要以上に大きな声で「はい!」と答え、固い動きでトレーを突き出す。
男はそれを見、やがて受け取った。
「いやー、美味しそう」
男のこもった声が聞こえる。ガスマスク越しの声だ。
(なんで、急に喋れるように……)と思いつつ彼女は男がポケットから左手を出すのを凝視した。そちらの手にも、危険は無いようだった。
男は爪楊枝でウインナーを持ち上げ、口元へ運ぶ。
(あっ……)
ウインナーは、ガスマスクの白くて円いフィルターにぶつかった。
(ああ……)
彼女は妙に切なくなった。
思い出す――小さいころ、縁日、金魚すくい、白くて円いポイに乗る小さな金魚。そんな、今とよく似た光景を。そしてそのあと家に持ち帰り、しばらく飼い、死んだ朝を。
男は、硬直したまま、意外そうにまばたきを繰り返した。
「あっ!」と突然、ガスマスクをはずす男。手に持ったそれを眺めつつ言う。「……はあ。忘れてた。マスクつけてる間はちゃんと喋れない設定だったのに……」
彼女は再度、左右を見渡した。
1人、カゴをさげた主婦らしき客がこちらに歩いて来たが、男をその視界に入れた途端ぴたりと立ち止まり、はっと息をのむと、180度ターンして去っていった。
(ああ……! 行かないで、助けてよ、おばさん……)
男はガスマスクを小脇にかかえ、背中を丸めながらウインナーを口に入れた。
「うん、うん。うまい」
「あ……、よろしければ、お買い上げ、して、いただいて……」彼女は健気にも、まだ職務を投げ出さない。
男はトレーをポケットにしまいながら、むっとした。
「え? 何、買わせる気?」
「い、いや……」彼女は店長がいないかと目を泳がせた。
「なんてねー! 買うよーん」男は無邪気な笑顔を見せた。「持てるだけ買うよーん。こう、この両手に溢れんばかりのアレを……ね、うん」
男はガスマスクを器にして、そこにウインナーを6袋積んだ。誇らしげに彼女に向き直る。右手には何も持っていない。
(手ぇ使ってないじゃんか……)彼女は何かを諦めるべきだと思い始めていた。
「うん、これだけ買うから」男はまともな口調に戻っていた。
「あ、ありがとうございます」
(やった、これで帰ってくれる……)
「とりあえずひと袋焼いてよ」
(甘かった……!)彼女は悔しさが顔に出るのを抑えきれなかった。
男がそれに気づき、悲しい目をする。
「あ……だめ?」
「……はい。すいません」
「ううーん……あ、そうか!」男はまた何か思い出したことを大げさに、全身を瞬間的にくねらせて表現した。
見てしまった彼女はうつむいて、泣きそうに眉をひそめた。
男の声が届く。「馬島ヒロカズです。どうも、お久しぶりです」
「ああ、あ……」彼女はちらと男を見て、すぐにお辞儀した。できればこのままもう顔を上げたくないと思った。「どうも……あの、私、バイトなんで——」
店長をお呼びしましょうか。と続けようとしたが、男の発言に遮られた。
「ナイスツーミーチュー」
「は、ハイ……」彼女は警察官の姿を思い浮かべることで落ち着こうとした。が効果はなく、止めどない戸惑いに思考を支配された。
(いやいやいや……、こいつマジ何だよもう恐い恐い恐い……やだもう泣きたい。いったん泣きたい……帰りたいよう。お母さん……。ああもう……こいつマジ何? ウマシマって何その名字、恐い恐いよ……。絶対職場とか影でウザシマって呼ばれてるよこんなの……それかシマウマ)
「焼いてよ」馬島は甘えるような、柔らかい声を出した。「丸ごと焼いて欲しいんだよ」
「すいません、かんべんしてください……」
(お前の頭部を丸ごと焼いてやろうか……)
「ええー? 僕らの仲なのに……。じゃあ、おかわりしていい?」
「……はい、どうぞ」彼女は合図しただけで、手渡さなかった。
「あーん、ってしてよ」
彼女はこめかみの筋が動くのを感じた。ゆっくりと、無機質な眼差しを馬島に向ける。
(こ、こいつ……! 頭ひっ掴んでホットプレートに突っ込んで鼻がきつね色になるまでこんがり焼いたろか……! それかまず足払いでぶっ倒した後ホットプレート自体を顔面に押しつけるほうが効率的か……)
「……すいません。ご自分でお召し上がりください」殺意を隠した機械的な音声だった。
「ちぇー……。ん?」馬島はトレーを取りながら、顎でホットプレートの横にあるものを指した。「そのラジカセ、使わないの?」
彼女はため息をつき、低い声で話した。「あい、今は使いません。他の試食の時、CMソングとか、そういうのがある商品の時に使うそうです」
「どんな商品? 消臭力?」
彼女はうつむいて、ぎゅうっと強く目をつむった。眉間にしわが盛大による。心の中では、どす黒い衝動やストレスと闘っていた。
「あーっ、今、笑ったでしょ?」馬島がへらへらと言った。
「笑ってません」
「うそー、絶対笑ったよ。微笑んだよ。その微笑みは、天使のそれだよ」
「笑ってませんから!」
「はっ……」馬島はビクッとし、少し拗ねたように口をとがらせた。「褒めたのに……」
「すいません」彼女は微塵も罪悪感を含まない声で謝った。
「ねえ、どんな商品の時に使うの?」
(もういいだろそれ……。知ってどうすんのマジで)と思いつつ彼女は少しだけ困った。具体的にどんな商品か知らないのだ。(……ってそうだ! これ、口実にできる!)
「あの、すいません! 私知らないので、知ってる人――」
カチャン――。
「わ! 餃子だってー、ほら」馬島が開けたラジカセからテープを取り出して得意げに言った。
「違います!」彼女は咄嗟に叫んでしまった。
(……ああああ! どうしようどうしよう。何言ってんの私、何が違うの、もう意味不明だよこいつの次に)
馬島も慌てている。「え? だって……」
「あ!」彼女は閃いた。
「はわっ! なに、なに急に」
「それ、私のなので返してください」
「ええ!?」
「いや……、私の、お母さんのなので」
「お、お母さん?」
「そうです。大事なのでほんと、早く返してくださいお願いします」
「え……だって餃子って、〝餃子のスキャット〟って書いてあるよ……?」不信感まるだしながらも、馬島はテープをおずおずと彼女に渡した。
彼女はそれを急いで隠しながら早口でまくしたてた。「それであの、私、このラジカセ使う商品知らないので店長呼んできますから」
「店長!?」馬島の顔が強張った。声にもどこか迫力がある。「店長って、あいつだろ、椹木」
「えっ」彼女は作戦通りに逃亡するのも忘れて、目を見開いた。「知り合いなんですか?」
確かに店長の名前は椹木という。しかし、その名札にはフリガナをふっていないため、客は普通、読み方がわからない。なのでこの馬島という男は店長と知り合いである可能性が高い。
馬島は鼻を鳴らした。「いや。僕は名札が読めただけだから」
「え?」
「僕、このあたりで日本語を教えているから」
「は? ……国語教師、とか、ですか?」
「国語教師に見える?」馬島は嬉しそうだ。
「違うんですか?」
「んー。ひみつぅー」
「店長! てんちょ――」
「わああ待った待ったああっ、えっ、え? ああーっ!」
彼女は口を塞ぎにきた馬島の右手をねじり取り、ホットプレートに押し込んだ。
「熱い! ごめんなさい! 命だけは!」馬島は甲高い悲鳴混じりに叫んだ。
筋力の限界まで彼女は放さなった。数秒後、ついに逃れた馬島の右手に焦げ目がついていなかったのを不満に思う。少し赤くなっているだけで水ぶくれもまだだった。
「ひい……ひどい……!」馬島は散らばったウインナーの袋を拾い集めて、震えながら抱き締めていた。「ひどい娘だ……悪魔のそれだ」
彼女は、仮に警察ざたになったとしても、か弱く演技をしつつ正当防衛を主張するつもりなので、余裕たっぷりだった。
「大丈夫ですよ、温度下げましたから。今」
「今じゃ意味ないでしょ!」
「そうですか」
「な……、何のんびりそんな……! ひどいよ、こんなことしておいて! なんで、こう、じゅーってやったんだよ!」
「すいません。その、指とウインナーを間違えたんです」
「……ええ?」馬島は驚愕した。「それは、嘘にしたってもっとこう……ないの? さすがに今のは……もう、無いでしょう」
「あの、もうそろそろ帰ってくれませんか?」
「ええっ?」馬島の目から涙がこぼれた。
「正直、仕事の邪魔なんで。お願いします」
「うそー……」馬島は、まるで笑ったような歪んだ泣き顔を力無くさまよわせた。「……な、ええ?」
「早くしないと呼びます、警察」
「ええー!?」
寒そうに自分の身体をさすり始めていた馬島は、〝警察〟という言葉を聞いて硬直した。がやがて、下を向いて何度かまばたきをした後、ようやく歩き出した。
彼女はずっと無視していた。が、横を通り過ぎる馬島に背後を取られぬよう身体を素早く反転させた。敵意と警戒心に満ち満ちた動作だった。
馬島は彼女のその動きにショックを受けたのか一瞬はっとし、悲しそうに開いた口を振るわせた。そしてまた歩き出し、ふと、たずねた。
「手、冷やしていっていい? 冷凍食品で」
「いいんじゃないですか」彼女は他所を見たまま適当に言った。
いったん目元を拭った馬島は、フライドポテトの袋に右手の患部をあてた。
「ああ……冷たい」その声には複雑な感情が込められている。
彼女は、馬島を触った手を執拗に拭きながらぽつりと言った。「……それ、買いとりですからね」
「えっ?」
「だって溶けたでしょ、体温で」
「え……、この……数秒で?」
「あ、じゃあホットプレート弁償します?」
「ええっ!?」
「いや、だって、汚れたんで」
「え……ふええ?」
「最悪、慰謝料だけでいいんで、いくらか置いてってください」
「えっ、いしゃ……ええっ!?」
「あっ店長!」
「わあ呼ばないで……って、来たの?」馬島は彼女の視線を追い、肩を落とした。「ああ、くそ……」
「ちょっと何やったの」早足で歩み寄ってきた店長は、鋭くも静かな声で彼女を叱責する。「お客様に言われたよ、何か気味の悪い悲鳴が轟いたって——」と、馬島の姿を認めた瞬間、店長の動きは面白いほど完全に固まった。
「店長……?」
彼女は、店長の唖然とした横顔に呼びかけたが、まったく反応はなかった。そこで馬島にたずねてみる。「お前、知り合い?」
「いや……。僕は、そんな知らないけど……」
「馬島さん……!」店長はよろめくように一歩踏み出した。「どうして、いらっしゃったのですか……」
馬島は黙して答えず、店長が勝手に続けた。「ああ……わかってます。ついに、この日がきたんですね……」
彼女は替えのホットプレートを準備すべきか考え始めた。
と馬島は、ゆっくりと深呼吸してから、意を決したように屹然と顔を上げる。「春川カヤ! ……さん」
不意にフルネームで呼ばれたカヤは、急いで胸元の名札を隠した。そして表現力豊かに、痴漢を見る顔をする。
「ちょっと何、気持ち悪い……!」
「……っ!」馬島は嗚咽をもらし、目尻を払った。それでも怯まず、頑張って話そうとする。「あの、春川さん。いま、お父さんは……います?」
「え?」
「僕は、君の父親です」
カヤは放心したように黙り、少しだけ息を細く吐き、それからまた固まり、ふと気づいたかのように店長へ視線を振り、その深刻な表情を見て取り、息をのんだ。目の焦点が外れた。
思い出す――小さいころ、父と繋いだ手の感触、縁日、金魚をすくい上げて振り向くと、そこに父の姿はもうどこにもなかった。働き始めた母、怖い夢を見て起きだした夜中、金魚鉢に向かい「ヒロ……どこいっちゃったの」と涙声を漏らす母の小さな背中。
「嘘つくな!」
カヤは猛然と振り向き、破裂するように叫んだ。
馬島は露骨に縮み上がった。
「はああ……! ごめんなさい!」
「お前っ! 今度それ言ったら鉄板飲ます!」
「ひゃああ……! いやでも、嘘じゃない、ホントですからたぶん!」
カヤの目から光が消えた。「……今温度上げるからちょっと待ってろ」
「春川さん!」店長が慌ててそれを制止した。「馬島さんは本当のことを言ってるんですよ!」
カヤは、店長の顔を真っ直ぐに見つめた。そこに狂気や戯れの色がないことを、長い時間をかけて理解した。
「そんな……! いや……、いやぁ……!」カヤは小刻みに首を振った。
馬島が、そこに諭すような声を浴びせる。「君の半分は、僕の遺伝子で出来ているんだよ」
カヤは一瞬、静止した。
――直後、鉄板を振り回し暴れ狂うカヤを止めるために、店長は数カ所の打撲と火傷と裂傷を負った。その間の馬島は、腰を抜かして震えるばかりだった。ポテトの袋が破れるほど強くかき抱いていた。
「てめぇ……!」カヤは荒い息の合間に、禍々しく響く声を発した。「絶対、飲ますからな……!」
馬島は恐怖に目を剥き、引きつった口の隙間から声にならない悲鳴を垂れ流していた。全身がカタカタ振るえていた。盾のように掲げる袋からポテトがばらばら落ちていく。
「ヒイイイ……」
「春川さん! 頼むから、冷静になって、ちゃんと馬島さんの話を聞いて!」
「ええ? だって店長……」
「頼むから!」
カヤは驚く。店長の顔はどこまでも真剣で、なにより片目を横切る長い爪痕が痛々しかった。カヤはそれを見て口をつぐんだ。
店長が早く話すよう馬島に目と表情で合図し、
馬島が泣きながら震えながら首を振り、
店長が苛つきを顔に出さないよう丁寧に口パクで「早く」と言い、
馬島は尚も泣き止まず体育座りの膝の間に顔を埋めてしまい、
店長が小さく舌打ちし馬島めがけてウインナーの袋を投げつけ、
馬島が驚きバネ仕掛けのように顔を上げ「あっ」と何か取り返しのつかないことをしてしまったような顔をして体育座りを崩しやたらと脚をもぞもぞし、
鋭利なカヤの視線を受けて馬島はさらに決壊し、
……結局、馬島が話し出すまでにこのあとさらに5分ほどかかった。場所がスタッフルームに変わり、馬島の服も変わっていた。
「春川さん……」馬島は万引きの初犯のようにパイプ椅子に小さく座り、どこか喪失感のただよう虚ろな表情で話した。「美幸は、お母さんは元気ですか?」
カヤは時計を見ながら言った。「……はい」
「良かった。それで……あの。父親のことは……、その、何か言ってました?」
「言ってません」カヤはすぐに答えた。
馬島はもじもじし、店長と顔を見合わせ、数秒かけて何やら無言でやりとりし、最後に店長の舌打ちを受けて、ようやく言葉を紡いだ。
「……最近、どう?」
カヤは自分の爪を見始めた。完全な無視だった。
「あの、お母さんも……どう、最近?」
「……うるせえよ」カヤが小声で言った。
「ああ……!」馬島がまた般若のような泣き顔をつくり、ひとしきり狼狽えるだけの時間が続いた。
――ガタン!
カヤが机を蹴った。
「はあっ! はあああ……」馬島が危うく椅子ごと後ろに倒れそうになる。
……このあと馬島は、再び数分をかけて勇気を呼び戻し、ようやく、時折しゃくりあげながらも話せるようになった。
「春川さん……ひっ、あの、本当に僕、その……ひっく」
カヤは目を閉じている。
「うう……、はい、えー、あなたは、うっ……その、僕の娘なんです。……高確率で」
「高確率?」カヤはやっと馬島を見た。
「…………」馬島は、さらに小さくなって黙り込んだ。叱られた子供のように唇を噛む。
カヤは怒りに支配されそうになるのを自覚し、店長へ視線を移した。そこではっとする。
店長は両手を握りしめ、脂汗で額を光らせ、見るからに緊張している様子だった。乾いた唇が、はがれるように開いた。
「……低確率で、私が」